祈りが死を招く世界で、少女は救いを断つ刃を背負う
彩月鳴
Overture
――私はまだ、神でいられているのだろうか……?
掌に宿るこの力が、慈しみ守るための光から、すべてを灰に帰す劫火へと変質してしまったのは、一体いつのことだったか。
記憶の糸を辿ろうとしても、指先をすり抜けていくだけで、もう何も手繰り寄せられない。
世界が奏でる息吹は、かつてよりもずっと遠く、希薄だ。
降り注ぐ祈りの声は、確かにこの身を叩いている。
けれど、それが誰の切望で、誰の絶望だったのか。今の私には、個別の彩りを失った、泥濘のような雑音にしか聞こえなくなっていた。
それでも、私は守ろうとした。
豊かな緑を湛えた森を、喧騒の絶えない街を、そこに生きる人々の営みを。
だが、必死に伸ばした掌の先に残ったのは、無残に裂かれた大地と、風に浚われてもなお消えぬ、慟哭の余韻だけだった。
おかしい。どこで、何を間違えたのだろうか。
私はこの世界の守護者だ。
慈しみ、育むためにこの座に在る。決して、誰かを傷つけるために存在しているのではない。
――そのはずなのに。私が行使する「守護」のすべてが、残酷な「破壊」へと反転していく。
溢れ出る力は、もう止まらない。
意思を置き去りにして、「神としての役目」だけが、私の形骸をただ無機質に突き動かしていく。
自我は風化し、判断の天秤は醜く歪んだ。
それでも私は、この虚ろな座で「神」であり続けなければならない。
もし、この永劫の果てに終わりがあるのなら。
この責務という名の鎖から、解き放たれる道があるというのなら。
どうか、私を拒絶し、その引導を渡せる存在が現れてほしい。
私にはもう、 自らの命に幕を引く自由さえ、残されていないのだから。
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