晴天を割く魔法の稲妻

長月瓦礫

晴天を割く魔法の稲妻

目覚まし時計を叩き、スマホを片手にリビングへ向かう。

いつものように朝食を食べ制服に着替え、カバンを背負い、走りながら登校する。


それが三沢晴太のいつも通りの日常である。

授業を受け、部活を終え、帰宅する。


先輩たちが引退し、今度は自分たちが部活を引っ張っていく番だと意気込んでいたところだった。

インターハイ出場とまではいかなくとも、いいところまで来ることができた。


来年、その手が届くかもしれない。

先輩たちからもらったエールと期待を胸に膨らませていた。


部活が終わって帰宅していたところだっただろうか。

夕陽の差す交差点をスマホ片手に歩く女子がいた。

適当に着崩し、髪を明るく染めていた。あまりなじみのないタイプだ。


そこにけたたましい音を立てて、走ってくるトラックがいたらどうだろう。

異常な音を立て、人気のない交差点に飛び込んでくる。


『危ない!』


道路に飛び出して、その女子を突き飛ばした。

トラックが目の前に来た瞬間、目を閉じた。


何も考えていなかった。どうなるかは、後回しだった。

とにかく、彼女を突き飛ばして、前に躍り出た。

雷のような衝撃と音が三沢の体を貫いた。


「え、ちょっと、大丈夫?」


駆け寄った彼女の声がしてゆっくり目を開けると、大破したトラックがそこにあった。自分の体が当たった部分からヒビが入り、車体が潰れていた。

それを目にした途端、彼の目の前は文字通り真っ暗になった。


その後、病院に運ばれて三日間眠っていたらしい。

目が覚めると、白い天井で病院にいるのはすぐに分かった。

部活でケガをした後、保健室でよく見る光景だった。


しかし、時間がそこまで経過していることはなかった。

目覚めた姿を見て、家族は安心したような顔はしていたが、どこか納得できないといった様子だった。


無傷なのに全然起きる気配がない。

その理由を一足先に医者から聞いていた。

骨が折れたとか、そういった話ですらないらしい。


三沢が目覚めてから、家族と共に改めて説明を受けることになった。

看護師さんが新聞の切り抜きをいくつか見せてくれた。

大きさや写真の有無はあったものの、内容はどれも『魔力の暴走による事故』と書いてあった。


「三沢君、君は魔法に目覚めたんです」


対面した先生が写真を見せながら、そう言った。

魔法、と馴染みのない単語を頭の中で繰り返す。


「専門家に現場検証をしてもらったところ、君から流れ出た魔力で、トラックを破壊したんです。交通事故で起きる破損のそれとは、全然違うんですね」


三沢が破壊したトラックと交通事故で破損したそれの写真を並べる。

どちらも車体が傾き、前面が大きく潰れて、ガラスがひび割れている。

ああ、そうだ。一昨日、こんなふうに壊したんだった。忘れられるはずもない。


「大丈夫ですよ、落ち着いてくださいね。

何らかのきっかけで、三沢くんの体内で魔力がめざめ、大量に流れ込んで、処理しきれずに爆発する。今月で三件目だったかな、調べればわかるんですが、こういったはそれなりにあるんですよ」


渡されたペットボトルを開けて、お茶を飲む。


それなりに発生しているのに報道されないのは、文字通りただの事故として処理されるからだ。明日には別のニュースに切り替わっている。

社会情勢を報道しなければならないから、取り上げられるだけだ。


「この後、検査を受けてもらいますから。

まあ、体力テストみたいなものだから、そんなに怖がらなくていいからね」


怖がらなくていいと言われても困る。

両親も弟も宇宙空間に放り込まれた猫みたいな顔をしているじゃないか。


「昨日、話を聞いたんじゃなかったのかよ」


「そんなの急に言われても一度で理解できるわけないじゃん。

周りにそんな人いないしさ」


「アンタがトラックと事故を起こしたって聞いて、みんな大騒ぎなんだから。

その上、魔法に目覚めたとか言われたら……ねえ?」


両親は顔を見合わせる。

そういえば、スマホが大変なことになっていたんだった。

交通事故を起こしたのはすぐに知れ渡っていたようで、いろんな人から連絡が来ていた。さすがに魔法云々は伝えられていないらしい。


「えっと、ウチの兄貴、トラックをぶち壊したんですよね? 

どうなっちゃうんですか?」


弟が代わりに話を聞いてくれた。先生は分厚い冊子を手渡してくれた。

『魔法に関する事故にあったら』とタイトルが書かれていた。

加害者と被害者の対応と関連する法律とその事例、その後の検査など細かく書かれている。


「大丈夫だよ。この前も説明したけれど、そのへんは国が保障してくれるし、診断書も書いて提出すれば、学校は分かってくれます。

私は医者もやりつつ、魔法の研究もやっていますから。さて、何か聞きたいことはあるかい?」


教科書もロクに読めないのに、こんな訳の分からない本を渡されても困る。

これはもう、みんなで家でゆっくり読むしかない。


ていうか、どう説明すればいいんだ。

こんなことになった奴、聞いたこともないんだけど。


「魔法って何ですか?」


「科学では証明できない未知の力、かな。

あるいは、異形たちに対抗するために発明された技術でもある。

いわゆる魔女だとか悪魔だとか、邪悪な力を持つとされる存在だね。

まあ、今となっては一種の人種差別になってしまうんだけど……そうだ、世界史は好きかい? 病院の本棚に魔法の本をいくつか置いてあるから、読んでみるといい。何も分からないよりはマシだろう」


そんなことは言われなくても、なんとなく分かる。

漫画やアニメでさんざん見てきたし、戦う人のイメージはつく。


「じゃあ、俺もそいつらと戦わないといけないってこと、ですか?」


「それは君の意思次第かな。別に急いでいないから、ゆっくり考えてみて」


「兄貴、ただでさえ日本史で赤点を取りまくってるのに世界史なんて分かるの?」


「お前、言わなきゃ分からないことを……まあ、頑張って読んでみますけど」


「そんなの読んでる途中で寝ちゃうんじゃない? 大丈夫? 解説しようか?」


「うるせえ、お前ちょっと黙ってろ」


弟を小突くと、両親は苦笑していた。

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