第2話 通勤電車
私は代々木駅から山手線の内回り電車に乗った。私がいつも使う通勤電車だ。いつものように満員だった。私が降りる新橋駅まで約30分の辛抱だ。
私はいつもの車両の、いつもの吊革につかまった。私の前の座席に座っているのは、どこかの会社の管理職らしい中年の男性だ。私の右隣りで吊革を握っているのは若いサラリーマン、左隣で吊革を持っているのは眼鏡をかけたOL。
みんな毎朝、この電車の同じ車両で会うメンバーだ。しかし、私は話をしたことはない。彼ら彼女もお互いに会話を交わすことはない。いつもみんな、押し黙ってスマホを見ている。
私は26歳の独身OL。新橋にある小さな商社に勤めている。住まいは東京都渋谷区代々木。代々木駅から歩いて15分ばかりのところにある小さなアパートで、独りで暮らしている。だから毎日、代々木と新橋の間を満員電車で通勤しているというわけだ。
電車が代々木駅を出ると・・私も周りの乗客と同様にスマホを取り出した。
私はいつものようにカクヨムを開けた。通勤電車の中で、カクヨムの小説を読んだり、ちょっとしたコメントを投稿するのが楽しみで・・カクヨムは私の毎日の通勤時間の日課というか、息抜きになっている。私はカクヨムの中では「ゆめみん」というペンネームを使っている。もちろん、「夢見ん」に引っ掛けたペンネームだ。
電車に揺られながら、いつものようにカクヨムの中をパラパラと見ていくと・・
私の目が自主企画欄にとまった。
『テルテル坊主になってみませんか』という新企画が載っていた。あなたがテルテル坊主になったとして・・晴れたらお礼に欲しいものを書いて、数行のコメントを付け加えるというものだ。
変わった自主企画だと思った。数行だなんて・・短歌や俳句の企画を除くと、こんな短いカクヨムの自主企画は初めてだ。それに、期限は今日の23時59分まで!・・なんとも性急な話だ。
私はスマホから目を電車の窓に向けた。雨滴が斜めに窓の表面を走っている。この自主企画に書かれているように、今日も東京は雨だ。このところ、何日も雨が降り続いている。
雨の日の・・満員電車の中ほど憂鬱なものはない。みんな濡れた傘を持って乗るので、服が濡れてしまうのだ。
私は赤い折り畳み傘を使っていて・・電車に乗るときは必ず折りたたんで、スーパーで買ったレジ袋に入れて、そのままバッグにしまっている。だから、満員電車でも人の服を濡らすことはないのだが・・そういう気遣いをする人は少ない。
現に、私の前の中年男性は濡れた傘を足の間に挟んで座っているし、私の左横のOLも濡れた傘を肘に引っ掛けて立っている。電車が揺れると、それらの傘が私の通勤スーツに触れて・・スーツを濡らしているのだ。
さらに、濡れた傘のおかげで車両内には湿気が充満している。
とにかく、雨の日はなんとも不快なのだ。
そのため、この自主企画を読んだ私は・・変わった企画ではあるが・・賛同したいと思った。私も晴れた日を渇望しているのだ。それに、数行のコメントを付け加えるだけなら・・満員電車の中で、今すぐにでも書ける!
電車に揺られながら私は考えた。
私がテルテル坊主になって、もらうもの・・?
何がいいかなぁ・・?
どうせこれは遊びなんだから、派手なものがいい。
それで、私は・・私が一番欲しいものを書いてカクヨムに投稿した。
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タイトル:お天気坊主さんの自主企画に参加します
作成:ゆめみん
2026年X月XX日 XX:XX
私はテルテル坊主です。雨が止んだら、私はダイヤの指輪を望みます。
ダイヤの指輪って・・もちろん、婚約指輪です。
独身の私が一番欲しいものなんです。
雨を止めますから、私に素敵なダイヤの指輪をください。もちろん、素敵な彼氏も(笑)♪
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