雨の国

@hamanasu361

第1話 雨の国

 雨の国には、大きな鳥かごがある。

 大きなガラス張りの大きな鳥かごは、中に生きていくためのものが、すべてそろっていた。

 木や花が植えられ、小川があり、家が建てられた。

 その鳥かごには、美しい龍が捕らえられていた。


 緑がかった水色の髪は長く、風に揺れるたび色を微妙な具合に変化させて、青い瞳は海の色をしている。

 青い龍は、もう百年以上、この綺麗な鳥かごにとらわれていた。


「また、空をみていたのかい?」

 入って来た少年は、龍をみて尋ねた。。黒い髪と空色の瞳が印象的だ。

 着ている服は、一目で高い物とわかる、さらりとした生地の長いゆったりとした上着に、ズボン、ペタリとした靴は雨でも滑りにくいこの国ならではのものだ。


「そろそろ、出たいなぁって」

「せめて、私が死ぬまで、待ってくれないか?」

「まるで、自分が死んだ後は、どうでもいいように聞こえる」

「その通りだけど?私は、君を愛しているから、いなくなったら寂しい」


 冗談のように言って、少年は龍の頬にキスをした。

「…君は、王族でしょ?僕とでは、子供が出来ないよ」

「それでも、愛しているからいいんだよ」

 少年は、楽しそうに話す。

「逃げられるのは、困るけど、逃げないならいつか、私が出してあげるよ」


 少年は、嘘か本当かわからない顔をしてそう言った。


 鳥かごの外は、雨だ。

 晴れる日もあるけど、雨の日のほうが多い。

 少年は思う。

 なんて、いびつなんだろうなと。

 この国は、龍のおかげで水に困ったことがない。あの鳥かごは、龍が出られないように、細工がされていて、王族しか外せない。


 皆、龍を道具のように話すけど、彼がいなくなったら、この国は終わりだ。

 それに、弟のフィルタが私を殺そうとしているので、本当にいつ死ぬかわからないし、悔いの残らないように、龍には、会えるときは会いに行こう。


 龍は、雨のせいでぼんやりとしか見えない空を眺めた。

 昔、この国の王と仲良くなった。

 彼が困っていたから、この国にいることにした。

彼が死んでもこの国にいるのは、なんとなく離れがたかったから、でも、近頃はそうでもない。

 誰も会いに来ないし……。

 そこまで考えて、少年が頭に浮かんだ。


 他の王族は会いに来ないのに、あの少年は頻繁に会いに来て、愛を告げて帰る。

 

 子供だと思っていたのに、気付けば子供と呼べない年齢になっている。

 あの子供に触れられるのは、嫌じゃない。

 子供は産めないけど、伴侶にするくらいいいと思う。

 好みなので。

 そろそろ外に行こうと思う。その時、あの子供は来てくれるだろうか?

 来てくれたらいいな。

 正直な話、この国には、自分がいなくなっても水はたくさんあるから大丈夫なのだ。


 

「兄上。貴方の居場所は、もう王宮にはありませんよ」

 フィルタは、自分によく似た顔で笑う。

「私は、王になる気はなかったけどね」

 肩を刺されて、痛みを堪えながら話す。

「でも、いられると困るんですよ。心配しなくても、あの龍は、私が有効活用してあげますから、大丈夫ですよ」

 その言葉を聞いて、私は、外に出ると叫んだ。利用なんてさせない。

 あの龍に、玉を返す時が来たのだ。龍から渡された玉は、代々ちゃんと伝わっている。


「シンルー!!エルダーの名において、そなたに自由を返す!青き龍よ空に帰れ!!」


 エルダーの身体から、水晶球が飛び出して、鳥かごの方に飛んで行った。


「兄上!!今のはなんだ!」

「お前は、知らなくていい」

 

 雨が、激しくなった。

 息をするのが苦しいくらい雨が降っている。視界が狭くなって来た。

 血を流しすぎたのだろう。

 

 名を呼ばれた。

 ガラスが割れて、シンルーの玉が帰って来た。

 友達になった王に渡した玉。

 少年になにかあったのかもしれない。 


 シンルーは、久しぶりに空を飛んだ。ひどい雨の中、鳥かごの外に出て、エルダーを探した。 

 

 そして、見つけた。

 赤い水たまりの中に、エルダーが倒れていた。


「おい!近づくな!!」

 見たことのない人間が、シンルーの前に立ちはだかった。

 それを、切り裂いて、エルダーの側にいき、抱き上げる。

「君等は、エルダーがいらないみたいだから、僕がもらっていく。

 もう、こんな国に未練はない」

 そのまま、飛んでいく。下でなにか言っているが、それももう聞こえなかった。


「エルダー。僕の伴侶になってよ」

「…私は、何も出来ないぞ」

 苦しそうに笑った。

「いいよ。僕は君に僕と生きることを望んでるから」

「そうか…。私は、君を愛しているからかまわない」

 シンルーは、雨の国から出て、名もない山に降りると、エルダーに自分の血を分けて、深い場所でつながった。


  朝。

 雨がすっかり上がって、綺麗な虹が見えた。

「…綺麗だな」

「そうだね」

 シンルーが嬉しそうにエルダーに抱きついた。


「兄さん達、水の国名物の水まんじゅうはどうだい?」

 屋台を見ると、透明な生地に包まれたあんこが水の中に浮いているのが見えた。

 二人は一つずつ頼んで、口に入れる。

 冷たくて、プルプルした食感の新しい食べ物だ。

「おいしい」

「あっさりしてますね」

「他にも水の国にはおいしいものがたくさんあるから、楽しんでくれよ」 

 二人は、器を店主に返して、歩き出した。


 雨の国は、長い年月の末、水の国に変わった。 

 

「エルダー。だから、言ったでしょう?僕がいなくとも平気だって」

「そうみたいだ。それにしても、大きくなった」

「なら、もういいでしょ?私の国に行こう」

「…シンルーの国か。楽しみだな」

 その言葉に、シンルーが嬉しそうに笑って、エルダーを抱き上げた。

「エルダー。ずっと一緒にいようね」

「そうだな」


 からりと晴れた空の下で二人は笑った。

 

    

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