撲殺王女ストロベリーさん

掬月

Chapter #0001 Homme Fatale / Segment 1 馬車にて

「馬車に揺られるなんて、退屈です。私が騎手をしとうございました」

そう言ったのは、ソリス・オルトゥス日出ずる国の王女、ストロベリーさん(14歳)だ。


「姫様のお気持ちは分かりますが、お立場をお考えください」

そう答えたのは、ストロベリーさん付のメイド、ピピンさん(17歳)だ。


ストロベリーさんは、視察先に向かうために馬車に乗っている。

彼女の赤いボブカットの髪の毛の上には、こぶし大の緑色のティアラが載っている。


栄養満点なせいか、顔はややふくよかで、ほっぺたがプニプニしている。丸顔で愛らしい顔なので、多くの人間が彼女を「ちょっと太った優しい姫様」だと思っている。


身長158cmの彼女は白く美しいドレスに身を包んでいるが、体重は65kg、体脂肪率は19%……ハンパじゃなくムキムキしている。服の下のこのありようを知る者は、ごく一部に限られている。


薄暗い森の中、外を見ながらストロベリーさんはぼそっと言った。

「そろそろ、切り通しを通過しますね……伏兵を置くなら良い場所です。なんでしょう、素敵な殿方たちの予感がいたします」

そして、左手のひらに、右手でボスンとパンチをくれた。


ピピンさんは「ひっ」と声を上げた。

「姫様、縁起でもないことを言うのはやめてくださいませ。警護の者たちに聞こえたら士気が下がります」


ストロベリーさんは右手で口を押さえたが、プニプニのほっぺが笑顔で盛り上がっているのはどうにも隠せない。

「戦術的本当を言って士気が下がる兵など、兵とは呼べません。私は警護の者たちは兵だと尊敬しております。ピピンさん、敬意が足りませんよ」


ピピンさんは、うなだれた。

「いえいえ……今日の警護は一軍どころか、三軍ですよ」


ストロベリーさんは、ふわっと優しく、菩薩のような笑みを浮かべた。

「そうやって見おろすのは、好きではありません……でも、ピピンさんのお気持ちは分かります。怖いのですね、いのです。それで」


馬車はゴクラクジの切り通しに差しかかった。

切り通しとは、山や丘を切削して切り開いた道のことで、敵の侵入を防ぐためにわざと狭くしてある。道の両側が切り立った崖になっていて、上には兵を置くスペースもある。

軍隊と軍隊の戦では守備の要になるが、盗賊などに活用されることも多い。


馬車が最も狭い箇所をすり抜けたときに、暗い森に閃光が瞬いた。


ストロベリーさんは即座に、一つ前の座席の背面に脚を伸ばし、背中を背もたれに強く預け、突っ張り棒のようになった。

「ピピンさん、急いで私の真似をしなさい! 王女の命令です!」


馬が、いななく。ピピンさんはビクッとして身がすくんだ。

ストロベリーさんは咄嗟に判断した。

(間に合いません!)

ストロベリーさんは、ピピンさんを抱きかかえて、再度体を突っ張った。


ピピンさんは驚きの声を上げた。

「なッ……!」


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