第六話 大怪我? 大丈夫、私が守るね!

昼頃の病院の一室、慌てて駆け込む幼い女性がいました。 彼女の名前は、桐原舞香。 病院に運ばれてた、姉の桐原彩乃の話しを病院の担当医から、電話で聴き慌ててここまでやって来ました。 病室の中に入り、目的の人物を見つけて彼女は駆け寄ります。


 「⋯⋯お姉ちゃん? 寝てるだけだよね? ⋯⋯最近頑張っていたから。 そうだよね⋯⋯」


 いくら彼女が呼びかけても、桐原彩乃は反応しません。 頭を包帯で巻かれいる意外は、体に異常は見当たらないようですが。 


 「⋯⋯桐原彩乃は、体育祭の練習中の生徒が投げた、ボールに彼女にあたったようです。 ⋯⋯その時の反動で彼女はのけぞってしまって⋯⋯倒れた時の、頭の打ち何処が悪かったのでしょう⋯⋯未だに目を覚ましません⋯⋯」


 「え! 貴方は誰ですか? ⋯⋯いつからここにいましたか?」

 「⋯⋯ずっと前から⋯⋯。 ⋯⋯高坂湊です⋯⋯」


 高坂湊と名乗るその男は、抑揚のない声で、彩乃が倒れるに至った経緯を舞香に伝える。 しかし、話している最中も彼の視線は朧げで、意識を感じない。 そのことに、不気味さを感じる舞香。 そもそも彼の存在自体が希薄なのであった。


 「⋯⋯ことの経緯は以上です⋯⋯」 

 「はい、ありがとうございました」

 「⋯⋯では失礼します⋯⋯」

 

 高坂湊はそう言うと、軽く頭を下げて、病室を去って行った。 ーーその様子もまた、まるで生気を感じませんでした。 病院に残った舞香は、姉の手を握りました。 そして祈りますーー早く目を覚まして! 私を一人にしないで! 舞香の涙が彩乃の手にこぼれますが、彼女は目を覚ましませんでした。




 

 昼休みの最中、クラスの騒がしい声が聞こえる中、机を向かい合わせて座る二人がいました。


 「それでね、甘くてとても美味しいんだよ! 今後一緒に食べに行こ!」

 「⋯⋯そうね⋯⋯」


 楽しくおしゃべりすることね。 それに、対して彩乃はどこか元気がない様子でした。 今日は朝からずっとこの調子。 心配になったことねは、彩乃に話しかけます。


 「どうしたの彩乃ちゃん? いつものカラ元気はどこにいったの!」

 「⋯⋯そうね⋯⋯」


 彩乃が浮かない顔をしているのは、理由がありました。 ーー今日から私は、しばらくの間意識を失ってしまうーー


 原作では今日、彩乃が頭の怪我により、病院に運ばれる日だったのです。 そして、しばらく目を覚まさなくなります。 

 

 その後、なんとか意識を取り戻し、リハビリをした結果、彼女は学校へ再び通うことが出来ました。 しかし、そんな彩乃を待っていたのは変わり果てた『理想学園』でした。


 「それでねチョコメロって言うんだけど知ってる? 名前の通りチョコレートメロンパンモチーフなんだよ」

 

 彩乃は恐怖を覚えていた。 きっと当たる瞬間は、死ぬほどに痛いのではないか? 私が倒れたら舞香を悲しませることになる! もし、復帰した後は学校はどうなってるの? ーーそもそも、本当に気絶だけで済むの? 


 「それでね湊に言ったの! 月が綺麗だね! 大好き! 味噌毎日飲みたいって。 そしたら、味噌汁以外も美味しいだろ、だって! まったく、 湊は私の告白をスルーしてくれちゃって~」


 色々なことを考えては頭を振る彩乃、気付くと体が震えていた。 落ち着かなきゃ! 彩乃は立ち上がった。


 「うお! ⋯⋯どうしたの彩乃ちゃん! ますます、調子悪くなってるじゃん! しょうがないな~また保健室で一緒に添い寝する?」


 よろよろと教室の外に出ようとする彩乃。 その時、彼女の視線の先にボールが! 


 そのボールは真っ直ぐ彩乃の方に向かってきます。 彩乃は目を閉じます、やがてくる痛みに耐えるために。 


 ーーごめんね、舞香。 お姉ちゃんを許してーー


 しかし、しばらくしても痛くありません。 彩乃は恐る恐る目を開けるとーー


 「ちょっと、誰? 危ないよ~ ⋯⋯もう少しで彩乃ちゃんに、当たるところだったんだから~」

 「え! ⋯⋯川端ことね!」

 「うん、そうだよ? 突然フルネーム呼び? ⋯⋯ってどうしたの? 彩乃ちゃん!」


 気がつくと彩乃は、ことねに抱きついていました。 最初は驚いていた、ことねも彩乃を抱き返します。


 「すまん、⋯⋯まさかあんなに、遠くに飛ぶとは思わなくて」

 「おい! もうすぐで、ことねに当たるとこだったぞ! 注意しろよ!」

 「すまん、高坂⋯⋯本当に申し訳ございませんでした」

 「あー。 今のあいつらには聞こえてないから、また後で謝ってあげてくれ!」

 

 そばで二人の様子を見守っていた湊はそう言うと、ことねと彩乃を見つめます。 


 ーーよかったなことね、いい友達ができたな!




 

 夜の部屋の中に明かりをつけずに立つ、この部屋の主ーー川端ことねがいました。 彼女は鏡をひたすらじっと見つめていました。 そこへよろよろした足取りで高坂湊が来ました。


 「⋯⋯お嬢様、⋯⋯現在も桐原彩乃は意識不明のままです⋯⋯」

 「そう、それはお気の毒さまですね⋯⋯しかし、とても良い口実が出来ましたわ」

 「⋯⋯口実?⋯⋯」

 「ええ、素晴らしい口実ね! 『私達』のためのね⋯⋯」


 彼女は、視線は鏡のままでした。 ーーその様子は、まるで鏡の中にいる『ナニカ』に話しかけているようでした。


 「伝統の行事がなくなる絶望。 ⋯⋯お前の望みよね『理想』の使徒さん」

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