第1話 破滅? それより晩ご飯~食べよ!

春の涼しさを感じる夕方、部屋の中で制服のスカートをひらりと揺らしながら、鏡の前で女性ーー川端ことねは、ニコニコと微笑みながらポーズをとっていた。 


 「⋯⋯よし、これで完璧。 湊の視線は私に釘付けだね!」


 ことねは、幼馴染で同居人の高坂湊が自分の制服姿にメロメロになる姿を想像して、思わず微笑む。 


 ーーしかしその時、頭の中に雷のような衝撃が走ったかと思うと、色々な景色が頭の中に流れ込んできました。


 欲しい推しのグッズを買うために店の前で仲間達と並んだこと。 

 

 いつも、仕事終わりにパン屋さんで購入した、チョコチップメロンパンの甘くて美味しい味の思い出。


 そして休日に、家でのんびり寝込んで、漫画や小説を読んでいた記憶をーー


 「あれ? 私、もしかして⋯⋯転生した? 私が今、いるのは⋯⋯前に読んだ小説の世界?」


 ことねは思い出したーー自分が破滅する運命である悪役であることをーー


 しかし、ことねは鏡の中の自分をしばらく見つめながら小さく何かを呟くとーーどこか安心した様に声を出す。


 「うん、大丈夫! なんとかなるよね~」


 そう言うと、ことねは部屋を飛び出し、湊の元に向かった。 


 キッチンで料理を作っている、エプロン姿の湊に声をかける。


 「湊~どう? 似合う?」

 「おう、似合ってるぞ。 サイズも丁度良かった見たいだね」

 「じゃあ私を見て! ⋯⋯ドキドキする?」

 「するよ、とっても」

 「やった! ⋯⋯さすが、悪女の実力だね!」

 「悪女? ことね、なにを言っているんだ? ⋯⋯それより早く着替えて、晩ご飯を食べようか。 今日の晩御飯は、ことねが好きなカレーライスだぞ!」

 「本当! 嬉しいなぁ。 じゃあすぐに着替えて来るね!」


 喜びながら、ことねは部屋に向かうのでした。 そして、いつもの部屋着に着替えながら考えます。 


 ーーあれ? 湊って原作の雰囲気と全然違うよね! どうしてなのかな? 


 うむ、いまの湊は私のお兄さんみたいだね! でも私はお兄さんとしてではなく、彼氏として大好きだからねーー


 ことねの頭の中は湊のことでいっぱいでした。


 「明日のクラス分け同じクラスになれるかな?」

 「ことね、俺とクラスが別になっても、学校に八つ当たりしたら駄目だぞ!」

 「ちょっと、湊! 私のことをどう思っているの⋯⋯」


 二人はそんなことをのんびりしながら、会話してました。 ことねの親は遠方暮らしのため、幼い頃から湊がことねの世話をしていました。 


 その理由は、代々湊の家ーー高坂家は川端家を支えるのが役目だからです。 


 しかし、この二人からそれだけではなくーーお互いに幼馴染以上の仲を感じます。


 「ねえ、湊。 これから一緒にお風呂入ろっか」

 「おい、ことね! 馬鹿を言うな! ⋯⋯一緒に入ってたのは小学生までだろ」

 「あれ? そうだったね! ごめん。 じゃあ、久しぶりに⋯⋯」

 「駄目だ。 一人ではいれ!」

 「ケチだな、湊は。 そんなこと言わずに、ちょっとだけ⋯⋯ね!」

 「ちょっとってなんだよ⋯⋯まったく。 駄目なものは駄目だ!」


 しばらく説得しましたがーー結局ことねは、一人でお風呂に浸かります。 


 ーーそれにしてもこのお風呂広いよね。 前世のお風呂の三倍ぐらいあるよ。 誰かと一緒に入らないともったいないぐらいだよ、やっぱりーー 


 そんなことを考えながら、ことねの学校生活の前日は過ぎて行きました。






 夜の暗闇、月の光が照らす部屋の中、川端ことねは制服姿のまま鏡の前にいました。 


 鏡にうつる、彼女の表情には笑顔はなく冷徹な瞳が、世界を睨んでいるようでした。

 

 そんな彼女にオドオドしながらも近づく、痩せこけた男性が言いました。


 「⋯⋯お嬢様、明日は学校です。 もうお休みになられては、いかがでしょうか⋯⋯」

 「貴方はいつから私に意見を言える存在になったの? 貴方は私の駒なんだから、黙ってなさいよ! ⋯⋯ねえ、そうでしょう? 高坂湊!」

 「⋯⋯その通りです、申し訳ございませんでした、お嬢様⋯⋯」


 そう言うと、静かに部屋から出て行く高坂湊。 彼が去る間も川端ことねは、視線は鏡から動かない。


 「始まるわ、私の戦いが。 ⋯⋯そう、すべては私の理想の為に!」


 月夜にうつる彼女の影がまるで彼女を縛る様に絡みついていました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る