オカ研の怪しい先輩があたしのことを振り回すだけ振り回して全然言うことを聞いてくれない

るるひと

●○


 そもそも、学校の裏山にそんな大層な不思議パワーがあるはずないのである。

 だって学校の裏山なんだから。

 所有者だっているし、管理もそこそこされてるし、たぶん近所のおじいちゃんの散歩ルートだし、あなたさっきすれ違って挨拶してたし。


 記憶が正しければ小学6年生の時の校外学習ぶりに、あたし達は小さな山のてっぺんを目指していた。


「せんぱ〜〜〜い、そろそろ休憩しましょうよ〜〜〜」


 聞こえていないのか聞いていないのか分からない男は、あたしの遙か先でまるでスキップでもするみたいに山道を登り続けている。

 ずんずん進むたびに、ご自慢の癖っ毛がぴょこぴょこ弾んでいる。


 見えないけれど、多分丸眼鏡の奥でツリ目を爛々と輝かせながら歯を剥き出しにして笑っているのだろう。


 この不気味な男は私の高校の先輩である。

 オカルト研究部とかいう怪しい部活の、2つ上の先輩。

 うちの部に現在在籍している唯一の3年生。ちなみに2年生はいない。そして、今年入部した部員はあたしだけ。

 要は、廃部寸前そういうことである。


 初めて会った時もこの男は、下校中になんだかよく分からない長いぴろぴろした触覚を頭につけて変な動きを繰り返していた。

 後で聞いたらナンタラ星人と交信してたんだとか言っていたが、とにかくまぁ、変なひとなのである。


 先輩とは家の方向が同じらしく、当初はよく下校中に出くわし、その度に遠目でなんとなく「やばいひとがいるな」って具合に眺めていたらある日うっかり目が合って、そこからは紆余曲折あって、一緒に河童を探したりエレベーターに乗って異世界に行こうとしたりする感じの仲になった。


 そんなことを続けていたら、最初は嫌々振り回されていただけだったはずなのに、段々先輩の見ている景色がどうしようもなく気になってきてしまい、気付けばいつの間にか「あたし、実は霊感あるんですよ」なんて嘘が口を衝いて出ていた。


 なんでそこまでして先輩の気を引こうとしたのかは自分でもよく分かっていない。

 一応、分かっていないということにしておく。一応。


 まぁそのせいであたしは先輩の前ではちょっとした霊感少女を演じる羽目になってしまったのだが。


 かつての己の失態を思い返してタハハと笑っていたら、あたし達はいつの間にか山頂に着いていた。


 先輩はひょろひょろした不健康そうな見た目のくせにこの運動量をもってして汗ひとつかいていない。このひとのバイタリティが一番オカルトなんじゃないか?


「先輩、それなんですか?」


 先輩はまたしてもあたしの問いかけには答えず、一人で黙々と何かを組み立てている。

 それが終わると、拾った木の枝で足元に不思議な模様を描き始めた。


 えらく真剣な眼差しの奥に、それでも抑え切れない楽しさが滲んでいる。


 全く、本当にずるい笑顔をお持ちの男である。


 一段落したのか、ふうと満足気に息を吐いた先輩はそのまま模様の中心に立ち、組み立てた何かを担いで、天を仰ぎながらうにゃうにゃよくわからない言葉を紡ぎ始めた。


 前言撤回。完全にやばい男である。

 笑顔がどうとか言ってらんない。


 ドン引くあたしには目もくれず、先輩はひたすら空に手を伸ばしたり、お祈りみたいに手を合わせたりしている。

 こうなったらしばらくはもうこのままこんな感じであることが確定なので、諦めてあたしも隣で気まぐれに先輩の真似とかしながら暇をつぶすことにした。





 日も随分落ちて来た頃、ようやく先輩は手を下ろし、悔しそうに地団駄を踏み始めた。

 どうやら今日も、先輩の試みは失敗に終わったらしい。


「まただめでしたね〜、先輩」


 あたしは先輩に軽口を叩く。

 先輩は残念そうにうなだれている。


 本当に、本当に残念そうに。


「先輩、もう、諦めたっていいんですよ」


 そう言いながらあたしはからかうように先輩の頬を指で突こうとして。


 そのまま、指を先輩の頭に


「先輩とお話しできないのは寂しいけど、あたしは今もこうして先輩の顔見てられるし」


 ゆっくりと空中を胡座の姿勢で移動しながら、あたしは先輩の目の前でぴたっと静止した。

 束ねたあたしの髪の先が慣性に従ってふんわりと先輩の方に向かい、そのままぶつかることなく先輩の座標と重なって見えなくなり、そして振り子のようにまた現れる。


 先輩、先輩は出会ったときから自分が好きなことに一直線で、周りが見えなくなるくらい熱中しちゃうのがいいところだったし、悪いところだったよね。


 だからまぁ、そんな先輩があたしのためにそこまでやってくれるのって、正直本当にすっごくすっごくうれしいよ。


 だって先輩、あの日からずっとあたしのことばっかり気にかけてくれてるんだもんね。


 あたしが踏切に飛び込んじゃったあの日から。


 今日だって先輩は、あたしにもう一度会うために宇宙人か何かと交信を試みて、ご覧の有様である。

 ていうか先輩、今日先輩が読んでた本に出てくるその宇宙人のやり方が成功してたらあたし脳みそだけになっちゃうところだったんですけど、いいんですかそれで?


 まったく。


 ねぇ先輩。


「先輩はあたしがオカルトになっちゃったから会いたがってるんですか?それとも、あたしだから、会いたいんですか?」


 先輩は今日も問いかけに答えない。


 あたしは先輩の顔をじっと見つめながら、ちょっとだけ強く「届け」と念じてみる。当然、何も起こるはずがない。

 だってあたし、霊感とかないし。

 それから目を閉じてため息を吐く。


 明日になったら先輩はまた、別のオカルト話を頼りに元気にフィールドワークに勤しむのだろう。

 そしてまた、あたしに会えなくて肩を落とすのだろう。


 あたしはまた、そんなしょうがない先輩に、しょうがないから振り回されてやるのだ。


 いつか先輩がまた、自分のことだけ考えて生きていけるようになる日のことを思いながら。


 夏の短い夜があと何度更けていくのか、あたし達はきっと同じように、考えないようにしていた。


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