口実

 「いい天気だから出かけよう! 」

携帯の通知音で目が覚める。

「眠いんだよ、また今度 」

返信だけして携帯をベッドに放り出す。

彼女、というと素っ気ない返信だと思われるだろうが、交際をしているわけではない。

「どうせ寝て終わるんだから出かけようよ! 」

そのどうせは必要なことであり、何故出かけように繋がるのか。

(さて、どう返せばいいか)

そんな事を考えていると通知音が鳴り止まない。何事かと体を起こして携帯を開くと、大量にスタンプが送られてきている。

「分かったよ、降参するから静かにして。15時に駅前でいい? 」

「遅い、12時に来て」

「今何時」

「11時半だけど」

「11時半だけど、じゃないよ。まだベッドにいるのに無理」

「分かった!じゃぁ携帯置いて早く準備しよう!12時半ね! 」

打ちかけの文字を全部消してベッドから抜け出した。

強引、それだけの女性は今までもいた。けれど、彼女は何か違う、断れないというか断らなくてもいいかなと思ってしまう。

洗面台に立つと不思議なことに色々と考える、彼女が喜ぶ髪型はなんだろうか、どんな服で行けばいいだろうか、ここ数年は忘れていた感覚。こんなにも渋々と起き上がったはずなのに、どこか楽しみな自分がいる気がした。

(気のせいかな、彼女の元気が少し伝染してしまったのかも)

強引だ、うるさい、そう思いつつも鼻歌混じりのドライヤーの音が廊下にこだまする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る