T/T/E【アンチテーゼ】 ~女神に抗うため、悪魔と契約した新人異端魔術師俺の復世奇譚~

415(アズマジュウゴ)

序章

序章 箱庭、最果て

 偽りの月の下、偽りの花が咲き乱れる庭園。

 繰り返される剣戟が、偽りの夜に響き渡っていた。

 この上演の奏者は男と女。

 男は|剣を、女は刀を携えていた。

 彼らは時折、この夜に一際美しいあかを撒き散らす。

 

 此処は空も、風も、花も。

 果ては人さえも偽りだった。

 しかし、2人の死闘は紛れもなく真実ホンモノである。

 

 死闘が繰り広げられている最中、庭園に居するガゼボでは、2人の女が優雅に茶会を開いていた。

 

 1人は白。

 1人は黒。

 

 それはあまりにも状況に似つかわしくなく、この場において本来それが正しい筈であるのに、異彩を放っていた。


「この夜を選んで正解だったわ。この空間ばしょにある虚構すべてが、ワタクシからを満たしてくれるかもしれない。貴女もそう思うでしょう?悪魔さん」


 白の女は、恍惚に至る顔を晒し、黒の女に問いかける。


「ハッ!冗談はその気質せいかくだけにしろ。ロクデナシ女神。そもそも、オマエに心なんて無い。無論、オレにもな」


 黒の女は、白の女の問いを一蹴し、戦況を一瞥した。


「終幕の時が違い。さて、軍配はどちらに上がるのか」


「えぇ、えぇ!私とても楽しみだわ!!私と貴女、彼女と彼……どちらが天に召されるのでしょうか!!」


「儂は天に召されるなんて御免だ。どちらが地獄に堕ちるか、だ。主の思い通りはつまらんからな」


「つれないのね。貴方のこと好きになりかけてのに」


「世迷言を。儂は何があろうと主が嫌いだ」


 鳴り響いていた剣戟の音が止む。

 男女は共に肩で息をしていた。

 そして、気味が悪いほど清浄な造夜ぞうやの酸素を肺に取り込む。

 乱れた息は整い始め、互いの呼吸の速度が一致する。


「最期だね。――アルト」


「こうならない事を願ってたんだがな。――イサナ」


 イサナと呼ばれた女は、刀を鞘に納め、抜刀の構えに注力する。

 相対する男アルトは、その構え見ると剣先に指を添え、迎撃の構えに入る。

 両者、最期の一手は奥義であった。

 そしてイサナは、魔力に満ちた言の葉を紡ぎ始めた。


『――この一刀はぜんを裂き、全を斬る一振ひとふり。それは時、場所、空間に違わず、森羅万象に至るその全てを断絶する。宿命は既に決し、介する余地もなく、ただ無惨に、無様に、その身を虚空に還さん』


 彼女に呼応する様に、アルトもまた魔を紡ぐ。

 

『――魔人変生デビルアルター完全行使Completed。我が忠誠、人が貶めし“七罪が一セブンシンズ・ワン”に示す。原初より確定さだめられた三の儀式。――“Smell”、“咀嚼Bite”、“吸収Absorb”。暴のままに悦を喰らえ。これは高き館に座す、気高きしゅに捧ぐ我が真髄』


 ――そして風が止んだ。


『――秘奥義抜刀!“引導いんどう”!!』


『――貪り尽くせ!“絶滅を告げる暴食の罪バアル・ゼブブ”!!』


 そして朱黒の闇と碧白の光が交差する。

 その衝撃に地は隆起し、空は叫ぶ。

 次元は揺らぎ、空間そのものに亀裂を走らせた。


「始まったわ!始まったわぁ!!これが見たくて私は世界を塗り替えたの!!早く……早く結末を見せて頂戴!!」


 白の女は大袈裟な身振りで歌う様に、戦いの末を望んだ。

 その顔は狂気にも勝る笑みを浮かべている。


「結末……ね。それを知るには儂も主も、まだ過程が足りないだろう。過程があってこそ結末を楽しめる。そうだろ」


 黒の女はそう言って、指を鳴らした。

 




 

 ――そう、この物語には過程が足りていない。

 何もかもが唐突であり、何もかもが突然なのだ。

 紐解くためには、時を遡らねばならない。

 これは結末であり、始まりでは無いのだから。

 

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