この狭い一部屋に、ハンドクリームを合計3個置いている。立ち上がって取りに行きたくないからだ。
二八 鯉市(にはち りいち)
考えてみたら、多いかもしれん。
――手の乾燥が許せない。しんどい。耐え難い。気になって気になって、何も手につかなくなる。
動機と言えば、『それ』しかない。
私はとにかく、日常生活の中において、一瞬でも「手」が乾燥するのがいやなのである。
特に私は指先の感覚がおよそ人より敏感だという自覚があり、手が乾いていると、それが気になって気になって何も手につかなくなる。鼻の頭にジャムでもこびりついている方がまだマシである。いやマシじゃないわそれもイヤだわ。
というわけで、お手洗いの後や洗い物の後は勿論、歯磨き、洗顔、コップを1個洗った後でも、必ずハンドクリームを塗りたいのだ。
その為だろうか。
ふとある日気付いた。
「あれ、私、この一人住まいのマンションの2メートル範囲内に、ハンドクリーム3個置いてるわ」
こうして執筆のために開いているパソコンを置いているデスクに1個。
ゲームや食事をするためのローテーブルの上に1個。
寝る前のハンドケアの為、枕元に1個。
合計3個である。
なんなら仕事で持っていく鞄の中にも1個入っている。よもや4個である。
さらに最近、休日のお出かけ用のカバンの中にも1個入れた。まさかの5個目であった。
「手の乾燥がイヤ」という事情と、「なんか1度作業を始めたら、もう立って歩きたくない。身の回りの1メートルにこの世のすべてのアイテムを置いておきたい」という性質が合わさって、こうなっているのを感じる。
ところで。
ハンドクリームとは、「別に要らないなぁ」という人には全く縁がないだろうし、逆に私のように手を洗う度にハンドクリームが欲しい人間にとっては欠かせない生命線である。
とはいえ、ハンドクリームだけではないのだろう。
現代で生きる人々にはこういう、
「へー、キミってそれをそんなに常備してるんだ……鞄に2個入れてるんだ……」
が、それぞれあるのだろう。
なんならもしかしたら戦国時代や江戸時代にだって、
「お前さぁ、殿は筆まめなんだから墨と筆は常に用意しとけって言ったじゃん。筆は一部屋に三つ置いとくんだよさっさと取って来いよ」
と叱られる新入りの小姓と、詠を思いついたらすぐに書き留めたいタイプの武将も居たかもしれない。
さて。
墨と筆は置いといて、ハンドクリーム以外の「私、これだけは常備しときたいんだよねアイテム」について考えてみる。
パッと思いつくところでいうと、リップクリーム、のど飴、モバイルバッテリー、充電ケーブル、ウエットティッシュ、ボールペンとメモ帳、クリップなどであろうか。
ちなみに私は上記の中だと、モバイルバッテリーと充電ケーブルはあまり持ち歩いていない。というか実は、モバイルバッテリーは1個も持っていない。
「モバイルバッテリーを絶対常備したい人たち」からすると「なんで!?」と思われるかもしれないが、だって別に減らないんだもの、スマホの充電。
私は別に常に人のカバンの中が気になるようなタチではないが、友人たちと話したり、あるいは芸能人がカバンの中身を紹介する動画などの中で、「その人が絶対持ち歩いているもの」を知るのはわりと好きな方だ。
そしてその人が「これだけは絶対に持ち歩いているんだよね」というものと、「逆にこれは1個も持ち歩いてないんだよね。要らないんだもの」を知るのは、創作者としての人間観察の醍醐味という気もする。
さて。
ここまで私の、「日常で使うハンドクリームが数えたら5個目」というなんてことのない、それでいてちょっとおかしな日常を語ってきた。
しかしながら。
急展開なのだが、このエッセイはなんと珍しくホラー的なオチで終わる。ホラー展開が嫌いな方には、大変申し訳ない。
なんと、最近の私は。
唇の乾燥も気になってきて、リップクリームがじわじわと、その個数を増やし始めているのである(SE:恐怖の悲鳴)
<終>
この狭い一部屋に、ハンドクリームを合計3個置いている。立ち上がって取りに行きたくないからだ。 二八 鯉市(にはち りいち) @mentanpin-ippatutsumo
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