働かざる者は喰うべ。

管野脩平

働かざる者は喰うべ。

 僕は、この国のベーシックインカムに頼らない。頼る時は、人間としての尊厳を捨てる時だと決めている。


 勝ち組になりたいとは思っていない。だからといって負け組になるつもりもなかった。国家の狗がいい。国家の礎なんかになりたくはない。そのくらいが僕には気楽で丁度良いのだ。


 ◆◆◆


 僕の生まれた街は、よくわからないところだった。


 国の名前も知らない。街の名前も知らない。僕のような下賤な下級市民が、それを知る必要もなかった。調べる気も起きなかった。知らなくても十分に生きていけた。下級市民はどれほどの功績を残そうとも一生下級市民のままだ。上級市民になることは出来ない。そういう難しいことを知っているのが上級市民だけでも、運営上では何の問題も無いのがこの国だ。


 僕たち下級市民には、生まれた時からランク付けが為されている。一人に一枚、ベーシックランクカードが配布され、生活の全てがそのカードを通じて参照可能になっている。身分証明も資格の有無も保険適用の有無も、その他諸々の何もかもがそのカードと紐付けられている。


 学校の成績や仕事の業績、社会奉仕活動などにより、ランクは常に変動する。そのランクに合わせて、二十歳を過ぎるとベーシックインカムとして月に一度ポイントが配布される。1ポイント1エンなので、現金を配っている様なものだが、そのポイントはあくまで国家が管理して配布するポイントである点には注意が必要だ。ポイントだけに点ってね。わはは。


 ランクのわけ方は街によって様々だ。僕らの街は上中下をさらに上中下にわけている。上の上が最上位ランクで、下の下が最下位ランクというわけだ。数字だったり、アルファベットだったり、松竹梅だったり、図形だったり、他にも色々なわけ方があるとは聞くが、僕はこの街を出られる様な上級市民ではないので、他の街の事情を正確に知る術などなかった。


 大変ありがたいことに、最低に近いランクであっても、人間らしい健康で文化的な最低限度の生活を維持するだけならベーシックインカムだけで十分にまかなえる。この街の物価であれば、最低に近いランクの月間20万ポイントであっても、それなりの贅沢だって出来てしまうくらいだ。


 だが、僕はベーシックインカムに頼らず真面目に働くことを選んだ。社会に貢献し続けることを選んだ。国家の狗となることを選んだのだ。結果として、大変ありがたいことに、僕は常に下級市民としての限界と言い切っても過言ではない高位ランクを維持している。


 最低に近いだの、限界と言いきっても過言ではないだの、色々とのたまってはみたものの、はてさて、それでは最低位ランクに到達してしまった者のベーシックインカムはどうなってしまうのであろうか。


 それは、僕の仕事に大いに関わっている。


 最低位ランクに到達した者は、やがてベーシックインカムの礎となるのだ。


 ◆◆◆


 現在の職に就いて、実際に働き始めてから十年以上が経ち、僕は余暇を利用して高校時代の同窓会に参加していた。僕の仕事を円滑に進めるには、余暇を有効的に活用する必要があった。不特定多数の人間が集まる場所が最も効率がいい。


 不定期に開催されている同窓会だが、参加人数が徐々に減ってきている。在学中は千人近い同窓生がいたはずだが、今回の参加者は五十人程度だ。ちなみに僕は皆勤賞である。


 しかし、そろそろ、潮時かもしれないな。次回以降の出席は考え直すとしよう。


 そんな風に考えながら視線を巡らせれば、幼稚園の頃からずっと同じクラスだった女と眼があった。その隣には、龍だの虎だのの刺繍が入った時代の周回遅れでむしろ最先端なジャケットを身に着けて、薄汚い金色に染めた髪を整髪剤でガチガチに固めたガラの悪い顔を真っ赤に染めて完全に酔っぱらった男が座っている。


 おそらく口説いているのだろう。だがしかし、その女はやめておいた方がいい。可愛らしい顔をして他人を陥れることをなんとも思っていない、稀代の悪女である。


 女は、男に何事かを言い募って、僕の方を指差した。


 ほら始まった。ものの見事に陥れられている。


 男が僕の方へ視線を向けた。その表情が動物園でも見かけないような珍獣を見ているかのように不躾に歪む。珍獣を見ているのはこちらの方だというのに何と失礼な男だろうか。僕は慣れているのでこれっぽっちも表情を変えずに珍獣を観察出来るというのに。


 男はずかずかと僕に歩み寄ってくると、びっくりするほど身を寄せて座る。これだから酔っぱらいは困る。距離感というものが全くわかっていない。安酒臭くて堪ったものではない。


「お前、真面目に働いてるってマジか?」


 当時からやる気が無く、態度も悪かった男が酔いに任せて語りかけてきた。会話をするほど仲がよい相手ではなかった。だが、僕は男の言葉に気をよくしてにこやかに返事をした。


「当たり前だろ。真面目に働かないでどうするんだよ」

「働かなくても金が貰えるのに、意味がわかんねぇよ」


 心底理解出来ないといった様子で男は僕を馬鹿にしくさった顔をした。


 馬鹿にしたいのはこちらの方だ。ベーシックインカム制度に登録する際の同意書にははっきりと書かれている。お役所仕草の小難しい言い回しをしてはいるが、要するにベーシックインカムに頼らずにそこそこでも構わないからとりあえず働け、と書かれているのだ。


 それを無視する方が意味がわからない。


 そもそも、付与されるのはポイントであって金ではないのだ。


「で、お前は何をやってるんだよ?」

「清掃業だよ」

「はっ、お似合いの汚ぇ仕事してやがるんだな。酒が不味くなる。もう近寄ってくるんじゃねぇぞ」


 心底馬鹿にした顔をしてくれた後、そいつは僕のことをそのテーブルから追い出した。自分から近付いて来たくせに、よくそんなことを言えたものだ。僕がいなくなるやいなや、同じテーブルに座っていた女性たちを次々に口説いて回っている。


 まあ、おかげさまで、仕事がやりやすそうだが。


 僕は、空いている席に移動した。男が最初に座っていた席だ。


「何か言われたの?」


 幼馴染みの女に心底楽しそうに聞かれる。けしかけておいてその笑顔はやはり稀代の悪女であろう。男を僕にけしかける意味を、彼女は長年の付き合いで明確に把握しているのだから。


「真面目に働いてるって言ったら、馬鹿にされたよ」

「でしょうね。私を口説こうとしたから言ってやったのよ。あの人みたいに真面目に働いている人が好みなの、ってね。誰だって、真面目に働いている方がいいに決まっているのにね」


 好みと言っても僕らの間には友愛的な側面も性的な側面も微塵も存在しない。働くことのうま味を知っている同士だというだけの話だ。


 彼女はそう言うが、実のところこの同窓会の参加者の半分は無職だ。残りの半分の中でも真面目に働いているのは僕くらいのものだろう。ちなみに彼女もほぼほぼ無職みたいなものだ。だからこそ僕たちは人が減り続けている同窓会に参加し続けているわけだが。


 実際のところ、働くことのうま味を知っている者の方が少ない。うま味を知りすぎてしまうと後戻り出来ないので、他人様に語って聞かせる者がそもそもいないのである。うま味を味わえる者の枠は決まっており激しい奪い合いとなりかねないからだ。僕も、彼女も、そのうま味を知りすぎている。


「ところで、あいつの名前って、何だったっけ?」


 僕に絡んできた男のことを彼女に改めて聞く。薄らぼんやりと存在していたのは記憶しているが、それ以外のデータは一切合切が記憶に無かった。僕にとってどうでも良い存在だったということだ。現在僕の横に座っている彼女も、そいつと比べたら多少は必要性があったというだけのことで、存在は常に認識しているが、名前を言えと問われても全く思い出せない。我ながら全くもって困った性分である。


「えっとね……」


 彼女はご丁寧に鞄から卒業アルバムを取り出すと、開きすぎて完全に癖が付いている名簿のページを開いた。凄まじく使い込まれたボロボロの卒業アルバムだった。これほどまでに卒業アルバムを酷使している女は僕の知る限りでは彼女くらいのものだろう。毎度お世話になっております。


 かつては個人情報保護だのなんだのが騒がれた時代があったらしいが、今となっては完全なる管理社会だ。個人情報にはなんの価値もない。個人情報を差し出さなければベーシックインカムが配布されないのだから、個人情報保護に価値など無いと考える者が増えても何もおかしくはないだろう。


 無論、頑なに抵抗を続ける者だっているにはいるが、そんな奴はこの街では生きてはいけない。


 時代は三周くらい回りに回ってキャッシュレスに傾向してきているので、ベーシックランクカードによる支払い以外は認められていない店舗が非常に多い。無論、ベーシックインカムのポイントではなく、口座と紐付けて自分で働いて稼いだ金を使うことだって出来る。僕はもっぱら後者である。自慢じゃないが、僕はポイントを使ったことがないのである。


 彼女は男の写真を指差した。写真の下には男の名前が書かれている。その横には個人識別用の登録番号も書かれている。


「ありがとう」

「報酬はいつも通りにお願いするわね」

「もちろんだとも」


 僕はにこやかに頷きながら、携帯端末に男の名前と登録番号を打ち込んで検索ボタンをタップした。次に開いた画面が真っ赤だったことで、僕と彼女はにこやかに笑みを浮かべてグラスをぶつけ合うと、僕が店員に言ってこっそりと個人的に用意させた高級酒を彼女と酌み交わした。この二杯だけは、同窓会の会費とは別で僕が個人的に支払った。前祝いという奴である。


 ◆◆◆


 次に男が目覚めた時、薄暗い部屋の中心に設置された手術台の上に寝かされていた。両手両足と首と胴には、人間の力では引き千切ることが不可能と思われる革製のベルトがぐるぐると巻き付けられている。


「やあ、お目覚めかな。酒は飲んでも飲まれるなって教わらなかったのかい?」


 僕が顔を覗き込むと、男は顔を真っ赤にして僕に掴みかかろうとした。しかしベルトが邪魔をして身体を動かすことが出来なかった。


「オレに馬鹿にされたのがそんなに気に入らねぇのか!」

「馬鹿にされたっけ? ごめんね、馬鹿の言うことっていちいち覚えていられないんだ」


 男は何を勘違いしたのか、よくわからないことを叫ぶ。僕と男の会話は仕事の一環としての情報収集に過ぎなかったので、今となっては何を話したのかすら良く覚えてはいない。いい獲物を釣ってくれてありがたいなぁと、幼馴染みの彼女への感謝を抱く程度の感慨しか残されてはいないのだ。


「これが僕の仕事なんだよ」

「仕事だと。これのどこが仕事だって言うんだ!!」

「清掃業だって言っただろ」


 僕はゴム手袋を男に見せつけるように身に着けながら呆れ声を漏らす。この男は僕の言ったことを覚えていなかったらしい。いや、待て、僕も男の言ったことを覚えていなかったのだからこれはおあいこということにはならないだろうか。


 へへへ、頭の悪い底辺同士仲良くやりましょうや。


「ベーシックインカムという制度に寄り掛かって働くことすらしない塵屑を片付けるのが僕の仕事って訳だ。おかしいとは思わなかったのかい。財源が無限にあるはずがないんだ。君のように働きもしない穀潰しを養い続けられるはずがないんだよ。その足切りのために、僕たちにはランクが与えられている」


 僕は男の財布から抜き取ったベーシックランクカードを男に見せつける。表示されているランクは、下の下である。さもありなん。


「ベーシックインカム制度に登録する際の同意書にはちゃんと書かれていたはずだよ。ベーシックインカムに頼らずにそこそこでも構わないからとりあえず働けってさ」


 実のところ、天寿を全うしたいだけならば、僕みたいに真面目に働く必要は全く無い。


「この国のベーシックインカムは言うなればマイナスポイントの蓄積なんだよ。ランクによってその上限値が決められている。ポイントを使えば使うほど上限値に近付いてしまう。それを超過してしまった者は、この国にとってはなんの価値もない塵屑って訳。だけど国だってそれなりに配慮はしてくれている。働くことでマイナスポイントを相殺することが出来るんだ。その上、追加でお金だって貰えちゃう。貨幣価値としては1ポイント1エンだけど、マイナスポイントとしては何と破格の10ポイント1エン。最低に近いランクでも、毎月2万エン稼ぐだけで、マイナスポイントは発生しなくなるんだよ。なんてゆるゆるな制度なんだろうね」


 僕の言っていることが理解出来ないのか、男は困惑した表情を浮かべている。必死に藻掻いて脱出しようとしているのが醜くて観衆の皆さんもさぞお喜びであろう。


「でもさ。それすら出来ない塵屑も世の中には割といるんだよね。君は、最低に近いランクを突破して、最低位ランクに到達したんだ。これはもう君が救いようのない塵屑だっていう燦然たる証拠なんだよ」


 男の顔の横に、男のベーシックランクカードを叩きつける。


 僕は、続けて自分のベーシックランクカードを男の眼前に差し出した。そこには、燦然と輝く『特上』の文字が刻まれていた。


「僕は特権階級なんだよ。言うなれば、これは殺しのライセンス。国家から社会不適合者を排除する許可を得ているってこと」


 というわけで、彼女が稀代の悪女なのは僕が稀代の殺人鬼なのを知っていて、獲物の情報提供をしてくれるからでした。無論、情報提供者には報酬が約束されている。ポイントではなくて金が。贅沢は人の倫理を破壊してしまうのだ。人間って恐いですね。恐ろしいですね。


「君はこの話に違和感を覚える知性が残っているだろうか。ランクは国家が一律に管理しているんだから、その名前を公示してくれればやりやすいのに、わざわざ僕たちが検索して社会不適合者を見つけなければならないんだ。手当たり次第に名前を入れることは出来ない。社会不適合者以外の名前を入力すると、僕たちは特上ランクを凍結されて一定期間仕事が出来なくなってしまううえに、働いて稼いだ金を没収されてしまうんだ。この仕事は全てを秘密裏に行われねばならないのに、全てが早い者勝ちなのさ。情報提供者には感謝しても仕切れないよ。自主的に働かせるにはいい手段だよね。わざわざ国家の手を煩わせることなく、下級市民同士で物事が完結するんだから。失敗したら犯罪者として処理しちゃえばいいだけだし」


 僕はこのシステムの恩恵に与れていることに心の底から感謝しているのである。かつての歴史を紐解けば、社会不適合者はどちらかと問われれば、間違いなくこの僕がぶっちぎりで票を集めることになるだろうからね。


「さて、予備知識を手にしたところで、君にはこれから肥料になって貰いまーす。五体をバラバラにして、ぐちゃぐちゃに刻んだり溶かしたりして、様々な物質と合成された有機肥料になるんだよーん」


 僕は、出来るだけ目数の粗いノコギリを取りだして男に見せつけた。男の顔が恐怖に引き攣る。僕の話を聞いていてこれから何をされるかわかったのだろう。悲鳴をあげたり命乞いをしたり、醜い生き物がますます醜くなって騒々しい。


 このノコギリを選んだのは、この方がいい音が出るので観衆の皆さんがお喜びになるからなんですね。


「そして、君は、この街で生きる最低に近いランクの下級市民の食料となるんだ。この街ではね、働かざる者は喰うべからずなんて生やさしい言葉は許されていないんだ。喰わなくたって存在しているだけで害悪なんだからね」


 僕は今、物凄く醜悪な笑みを浮かべているに違いない。ぺちぺちと男の頬にノコギリの刃を押し当ててやるだけで、悲鳴の音階が様々に変わる。


「昔誰かが言ったらしい。働かざる者は喰うべ。ってね」


 恐ろしい話である。かつては働かざる者喰うべからずという言葉があった。働かない者には食事が与えられないという意味である。それが、現在では、働かない者は食料にしてしまおうというとんでも理論を持ち出してきた上に実行してしまった人たちがいるのだ。


 まあ、僕の雇い主なんですけども。


「直接的なカニバリズムは御免だから、君のように肥料になって植物の生育に貢献して貰ったり、誰かのように飼料になって家畜の成育に貢献して貰うことになったんだ。やっと世の中の役に立てるんだよ。喜んで死を享受したまえ。ちなみに、証拠の映像を残していますよ。最期くらいはにっこり笑って逝くといいよ」


 僕はカメラを男の顔へと近づけた。半狂乱になった男が唾を飛ばしながら何事かを喚く。近くにいる僕には堪ったもんじゃないが、こういうのがお好きな上級市民のお歴々もおられるとのことで、時折個人的に投げ銭をいただいたりしちゃっててありがたいやら申し訳ないやらです。


「まずは右腕からいっちゃおう!」


 僕は男の右腕にのこぎりを当てた。出来る限りゆっくりと刃を引いていく。ぶちぶちと肉の裂ける嫌な音がする。


 同時に、小汚い悲鳴も聞こえる。


 うーん、いまいち。バラバラにするなら小汚い男より、面のいい男や小綺麗な女の方が楽しいや。どっちにしろ塵屑が相手なので罪悪感とか微塵も感じたことないしね。仕事が楽しいなんて、素晴らしい人生を送っているな僕は。これを天職と言わずしてなんと言おうか。


 それからしばらく、小汚い演奏会は続いた。


 五体をバラバラにして、沢山の肥料を作ることが出来た。


 僕は額の汗を拭って満面の笑みを浮かべると、固定してあるカメラに向かって深々と礼をする。これにて本日の饗宴は終了で御座います。


 カメラの録画を停止して、汚れた荷物を片付けていく。動画提出の準備と肥料出荷の準備も忘れずに。


「ごちそうさまでした。君のおかげで僕は今日も美味しい物が食べられるよ。君のような安物の肥料を使った安価な量産品ではなく、金と時間をかけて作り上げられた高価な嗜好品をね」


 こんな奴らを使って育てられた野菜だの家畜だのを食べたいとは思わない。


 僕は、塵屑の処理に成功した証拠の動画を国家へと提出した。情報提供者に彼女の名前と登録番号も添えてある。報酬の九割は僕に、一割は彼女に。一割でも、最低ランクの一月分のベーシックインカムの倍以上の金が保証されている。ポイントではないのがミソだ。働いているのだからね。金を使ってもマイナスポイントにはならないのだ。


 夜も遅いというのに、動画を確認した途端に僕の端末に振り込み通知があった。180万エン。この瞬間のために生きているような気さえしてくる。


 僕は携帯端末から彼女の番号を呼び出し、連絡する。


「こんばんわ。終わったよ。もし良ければ、明日は一緒にディナーでもどうかな? もちろん、僕の奢りだよ」


 彼女は大喜びで喰い付いてきた。情報提供者は大切にしないとね。報酬の支払いだけじゃなく、こうやって労う機会も必要なのだ。うま味を知っている者は、それを忘れて生きていくのは難しい。隣人を売り捌き終わったら友人知人も売り捌く羽目に陥るだろう。情報提供者との関係が良ければ良いだけ売り捌いていくれる相手も増えることだろうからね。


 同窓会の参加者も減ってきたし、新たに獲物を物色する場所を相談するのも悪くはないかもしれないな。減ってきた理由の一割くらいは僕が真面目に仕事をしたせいなんだけどね。それだけの行方不明者が出ても誰も気にしていないのが現代社会の横の繋がりの薄さをものの見事に表していていっそ笑えてくる。


 ちなみに彼女への感情は特にない。というかお互いに意図的に感情を廃している。うっかりそういう関係になりでもしたら、今後の仕事に差し支えがあるかもしれないからね。僕はどこまでも真面目な仕事人間なのです。


「では、明日は奮発して中央区役所の最上階にある上級国民御用達の高級レストランと洒落込もうじゃないか」


 人間、食欲には勝てないよね。


 携帯端末越しに彼女の狂喜乱舞する大歓声が聞こえてきた。下級市民では、例えランクが上の上だろうと一切の立ち入りが許されない名店である。全ての食材が上級市民でなければ味わえないような高級品ばかりだ。


 先の同窓会での前祝いの一杯は、店では最高級の一杯だったけど、その高級レストランでは食前酒にも成り得ないほどの格差がある。


 僕は下級市民でありながら、予約が無くても顔パスの特上ランクを保持した常連客だから何の問題もない。ランクを問わず一名まで同伴者を伴う権利まで得ているくらいだ。僕は下級市民の中では至極珍しい、ベーシックインカムを使用しない、国家に対してマイナスポイントを付与されていない特権階級なのだ。こればっかりは稀代の殺人鬼である自分に感謝したいくらいだよね。


 塵屑どもはこうしてベーシックインカムとなる。僕以外の誰かがベーシックインカムのポイントを使って交換する激安商品の一部となるだろう。あまりに度が過ぎれば、今度は自分がそのポイントと交換した激安商品の一部になるだなんて知りもせず。


 僕は、そんな働かない人々の営みを尻目に、真面目に仕事をした金で美味しいご飯を食べるのだ。


 あえてもう一度言うとしよう。


 ごちそうさまでした、と――

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