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チーズ

第1話

 僕は、家に帰りたかった。

 周りにあるワンルームの書斎が、自分の場所だとは思えなかったからだ。

「……家に帰りたい」

 そう僕が言えば、周りにいる僕の親は「ここは家でしょう?」と返してくる。これが何回も続いていた。

 僕は、ここが家でない理由を説明できなかったのだ。

 ……理解できさえすれば、その説を理論的に、説得できるように述べて親を説得するこころみを行うこともできただろう。

 だが、自分にすら理解できないのだ。その気持ちをどうやって他人に説明するのだろうか?

 僕にはできるはずがない。

 だからこそ、何か自分の感じることを一つの言葉にするなら……異物感。この異物感を抑え込むしかないのだろうと思っていた。


「ああ、そうそう……美術館に行きたいって言っていたよね?」

「うん」


 そんな日々が生まれたときから続いていた時、親たちも僕がずっと妄言を言い続けることで心配になったのか……趣味を作ろうといろいろな体験を経験させようと試みるようになった。

 今日の美術館もその一つだったのだろう

 そんなお金をドブに捨てるようなことなどする必要はないと思うのだが……まあ、父が望むことならそれにこたえるべきなのだろうと感じたので、僕は何も言わなかった。

 だから、親たちと僕を乗せた軽自動車で生まれ育った浜松から、愛知県の美術館に移動し始めるのを止めるものは誰もいなかった。


「なんで愛知県の美術館なの?」僕は質問した。理由が知りたかったからだ。

「え? うーん、あんま考えてなかったな」

「考え転売……?」

 父がそういったのを聞いて、8歳の僕は衝撃を受けた。


 理由をつけて人は動くのではないのか? もし、そうではないのなら僕は……

 そんな考えが脳内を埋め尽くしたのだ。人とは理由を元に動くものであると思っていた自分にとって、自分自身の土台が壊されたような感覚がすぐに訪れた。

 自分が動いているのはなぜ?

 それは、人がそうするからであり、自分からそうしたわけではなかった。

 ……自分が人であろうと努力しなければ人がするような行動をとれない自分は……もしかしたら人ではないのではないか?

 そんな恐ろしい考えが、どこかから生まれた。







「おーい、起きろ」


 ……どうやら、自分は寝てしまっていたようだ。

 きっと、考えすぎて疲れてしまったんだろう。あんな無駄になりそうな考えを長々とこれから美術館だというのにする必要があるのだろうか?

 いや、ない!!

 納得できないことを、僕は一旦置いておくことを選択した。

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