第16話 16. 禁術

「ブラッド、何が狙いだ」


「気にするな。

君は君の思いに基づいて動けばいいさ」


「やめた」

陽翔は剣を地面に放り投げた。

その瞬間、ブラッドの気迫が一気に増した。

その力は大気を震わし、大地を揺らし、

木々を騒めかせた。


「っざけるなよ。

僅かな望みをかけてどれほど貴様を探したと思う。

剣を取れよ。取って死ぬ気でかかってこい」

こめかみの血管は破裂しそうな程に浮き上がり、

黄ばんだ歯を剥き出しにして、ブラッドは怒鳴りつけた。

怒りに任せて、ブラッドは剣を振るった。

その一振りは、陽翔に重傷を与えるに十分な一撃だった。

血を流す陽翔を目の前にブラッドは、

呆然自失となってしまった。

そして、ぶつぶつと譫言を漏らしながら、

ふらふらとした足取りで闇に紛れていった。

そして、その姿が完全に見えなくなった時、

叫び声が聞こえた。


「ぎゃっ」


そして、どさりという音が闇にこだました。

その後、眩い一筋の光が一瞬、伸びて消えた。


「くそう、遅れた。陽翔、すまない」

その声が死の淵に沈みかけていた陽翔の意識を

引き戻した。


「ソフィア、ソフィアなの。無事だったの?

でもクリスが。それにブラッドがおかしくなってて」


瀕死の陽翔は、震えながら手を必死に動かして、

ソフィアの温もりを探した。

陽翔の手をソフィアの両手が優しく包んだ。

陽翔は、身体の震えが収まるのを感じた。


「すまない、この怪我を回復する術はない。

だから今から話すことを聞き洩らさずに

覚えておいてくれ」


朦朧として薄れゆく意識の中で陽翔は頷いた。


「いいか、転生術も蘇生術も魂の輪廻の枠から

外れた存在になる。互いに死ぬことができない。

輪廻の枠から外れた存在だけが魂を

消滅させることができる。

いいか陽翔、君はここでこの肉体より離れて、

再び、転生をするだろう。

ブラッドも何処かで復活する」


弱々しく陽翔は頷いた。


「君らが死を望むなら、

互いに魂を削り合うしかないだろう」


再び弱々しく陽翔は頷いた。


「陽翔、君が100年、1000年後のどの時代に

転生しようとも待っている。

エルフの悠久の刻がそれを可能としてくれる。

私を探してくれ。

どうにも君を探し回るには私の心は強くないようだ」


弱々しく陽翔は頷いた。


「絶対に君を見つける。だっだから、まっ待てて」

ソフィアは、陽翔の瞳をそっととじた。


転生術、生ある肉体の魂を滅却させた後に

死した者の魂の代わりに定着させる禁呪。


蘇生術、術者の命と引き換えに

死体へ魂を引き戻す禁呪。


ともに輪廻の因果より外れ、

その魂に安息なる死は永遠に訪れず、

魂は永遠を彷徨う存在となる。


ブラッドは、頭部の1/3を吹き飛ばされ、

血と脳漿を垂れ流しながら、笑い声を上げていた。

じわじわと頭部の欠損部は、回復していた。


「やってくれたな、ソフィア。まあいいか」


久しぶりに感情の起伏を感じて、

ブラッドは愉快だった。

そして、陽翔との邂逅にブラッドは、

手応えを感じていた。

陽翔の激情のままに振るわれる剣を

受ける度に魂が震えた。

輪廻の理から外れた同士が互いの魂に干渉出来る、

それが魂を滅却する唯一の方策であり、

無限の地獄から抜けす方法であることを確信した。


「陽翔、いつまでも待っているよ」


虚空を見つめるブラッドの光芒とした表情は、

恋する乙女のようだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る