第2話 閉店後の寄り道

「きてしまったなぁー!」

結局気になって飲み会後にアインボワに来てしまった。

すでに夜遅く、いつもならとっくに就寝の準備をしている時間のはずだった。

前の世界の先輩は、気になったことは無視せず確認する。大体気になったことはあとで火を吹く、と言っていたし先輩の教えを守るため確認作業に入ることにした。

この感じは前の世界での仕事感があって懐かしさを覚える。

と言っても、何をするというわけでもなく、遭遇するのをただ歩いて待つという感じだ。

赤い目の魔物…漫画や小説だと突然変異体とかでかなり強い魔物の場合がほとんどだ。おまけに人型、もしかしたらある程度知能があって武器とか使用してくるかもしれない。

歩きながら、赤い目の魔物について考える。

先ほどの飲み会でスキルを使ってみたが、直近では特に何も起こらない。

だが、視える期間に上限があるため、それより先に大事が起こることも考えられる。

便利なんだか、不便なんだかわからないスキルだ。結局やっていることは前の世界でやっていたこととほぼ変わらないな。

俺は歩きながら、この世界に来た時のことを思い出していた。



前の世界の俺はただのサラリーマンだった。しがないIT企業に就職し、エンジニアをしていた。ほどほどに経験を積み、運よく面倒見のいい先輩と当たり、精神面でも体力面でも問題はなかったが、プロジェクトリーダーがけっこう向こう見ずで感情的な面を持ち、たびたび顧客とトラブルを起こしていた。そうなってひとたび機嫌が悪くなると話しかけづらくなる。周りのメンバーも顔色をうかがうような雰囲気となり、質問したいときに質問ができない人も出てきていた。そこで俺は先回りができる時にいろいろ手回しをするようになった。

俺がやったことは、リーダーを変えることでも、正面から諭すことでもなかった。

そんなことをすれば火に油を注ぐだけだと、もう何度も見てきたからだ。

まずは、どうすれば怒らなくなるかを考えた。

リーダーが機嫌を損ねるタイミング、怒る予兆、顧客との打ち合わせで言い合いになりそうな内容の把握。それらを頭の中で整理し、怒りのラインを引いた。そのラインに合わせて会話の最中に声をかけ、話を自分と担当者に変更したり、リーダーが好きな話をして機嫌をよくしたりと様々なことを実施した。

すると、少しずつ怒る回数も減っていった。それに伴って自分の負担は増えたが、リーダーの怒りのせいでプロジェクトが回りづらくなるよりははるかにましだった。


夜のけもの道を歩き、足元の小石を蹴飛ばした。乾いた音が夜に響いた。

いまだ、木々がざわめくばかりだ。


そうして俺は、さらにその働き方を続けた。さらに負担も増えた。担当者はなぜか最初に俺に話をしてくるようになったし、リーダーはもうお前の方が回るだろうという感じで気やすくリーダーの仕事を投げてくる。労働時間は上限を超えてしまっていた。

そうした日々を続けていたらある日、死んだ。帰宅していたら眩暈がしてそのまま力なく倒れたのが前の世界での最後の記憶だった。全部自分でやろうとしていた報いだったのかもしれない。先輩や後輩にも少し協力をお願いしてもよかったかもしれない、そうすれば少しは負担が減ったし、もしかしたら死ぬこともなかったはずだ。

次に目が覚めた時にはこの世界で俺はルークとして、姿は形は前の世界の少し若い状態で生きていた。きちんとルークとして赤ん坊のころから生きてきた記憶はあった。歩いているとふと、前世の記憶がよみがえったみたいな感じだった。

そして、俺は不思議な力を自身の中から2つ感じた。1つは先読みスキル。もう1つは全身をめぐる膨大な魔力。

先読みスキルに関しては、大まかに

 ①相手に触れることで相手が経験する2週間まで先の未来を視ることができる。

 ②但し、服や防具に触れても発動しない。素肌に触れないと発動しない。

 ③人間以外には無効。※魔物はもちろん、家畜、純粋な人間以外例えば混血族等

が大まかなルールとなっている。

一番厄介なのが素肌に触らなければならない点だ。服がいいなら、端をつまめばばれないだろうが、素肌は流石にばれる。普段使わないとは言え、未来を視たいときはそれなりの演技をしなければならない。薬屋メンバーは頻繁に飲み会にいくから比較的触りやすいがそれ以外は難しく、薬屋メンバー相手でも頻繁に素肌を合わせるとなるとそういう趣味かと疑われる可能性がある。薬草を採取したあとにスキルを使用し、薬草を渡すタイミングを計りたかったが流石に試行回数が多くなるため断念した。それと、女性ともなればセクハラになってしまう。

スキルさえ使わなければただ一般人と思うかもしれないが、もう1つの力がある。

体内に魔力があふれているのだ。記憶が戻る前は感じなかった魔力が戻ってから爆発的な魔力を体内から感じることができる。

この世界では魔法が存在する。ただし、使えるものは少ない。冒険者のパーティ10組の中に1人の割合でいるくらいだ。もちろん、魔力という概念も存在する。これだけ魔力があれば今からでもすごい魔法師になれると思っていたんだが…どうやら大量の魔力はあっても外に出すことができないようだ。ただし、体には影響を与えているようで、本気で殴れば地面を割れるし、走れば瞬きする間に距離が縮む、体も本気で力を入れると岩みたいに硬くすることができる。要するにフィジカルのみのバフ効果だ。

知り合いの魔法師がいうには、俺の魔力は完全に体内にしかめぐっていないらしく、血を見てもらった際にかろうじて魔力の残滓を見つけたくらいだ。つまりは、俺ははたから見たら魔力のない一般人と変わらないということだ。それはそれで便利ではある。この力を利用しようとするやつに感知される可能性が低いということだからだ。変な奴に目をつけられて大変な目にあうことは勘弁願いたい。

だが、これには1つ弱点がある。10分以上使用すると魔力が枯渇するようで倒れるし、ちゃんと休まないと回復しない。

これぐらいの力があれば油断しない限りは負けることはないだろう。



昔のことを随分と長く思い出していた。

すでにここにきてから半年以上。まだまだやりたいことはある。

とりあえず、夢だった薬屋を繁盛させる。しばらくはこれを目標にしていこう。

ただ、そろそろ1人社員が欲しい。前の世界の表現だが、ここでは社員と呼ぼう。

できればかわいい女の子ならイメージが合うんだけどな。

そう邪な考えを抱いていると、何か衝撃音が聞こえた。

重く腹にずしんと響く衝撃だった。明らかに魔物ができることじゃない。

「なんだ、例の赤い目の魔物か」

俺は音の下方向へ駆け出した。

そこにいたのは魔物じゃなかった。

「あれはなんだ…?」



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る