第1話 同業者トラブルを事前に解決する

薬草採取から2週間後

アインスで伝染病が流行った

伝染病といっても、日本では風邪と変わらないがより高熱にさらされやすい

この世界においてはこの伝染病は比較的重い病気に分類される

薬屋を営んでいる俺はこの前採取した薬草で薬をあらかじめ作っておいた

おかげでお店の前は朝から大行列だ

薬を求めてお客さんが来る

開店してからまだ半年程だが、過去一の来客だ

ちらっと外を確認してみるが視える分だけでカウントすると50人ほどだ

後は建物に隠れてしまって見えない

一人で切り盛りしているせいで、こういう時の列管理をするスタッフがいない

この町は比較的民度がよいせいか、自主的にできるだけ邪魔にならないように並んでくれている

お客さんの注文はほぼ同じ薬である

この伝染病は自然治癒し、5日程あれば完治する

だが、薬を使えば翌日ごろには治るくらいに差がある

社会人という言い方はこの世界ではしないが、働いている大人には仕事があるから、自然治癒ではなく薬による早期治療を望む

この世界では前の世界程、社会福祉が手厚くないから収入の減少はそのまま生活に直結する

おそらくそれが理由でうちの店に薬を求めてきたのだろうが、人が多すぎる

これはいつになったらさばけるのだろうか

時々、お客さんの手に触れた瞬間、視界が切り替わる。

そこにあるのは、相手の目に映る世界だけだ

触れた客の視界には、店の外は映らなかった

皆、薬を受け取ることしか考えていない。

その先の列を意識している者はいなかった。

おそらく、薬を買ってすぐ帰宅するから列の終わりを確認できないのだろう

そうなると、他の元気な街の人に触れられれば視えるが、あいにく列を捌くので手一杯だ

これはお昼ごはんも食べに行けなさそうだ

アインスにはここ以外の薬屋ももちろんあるが、どこも同じ状態だ

お昼ご飯をあきらめて、俺は接客に徹した



あれだけあった長蛇の列も5時間くらいすると流石に引けていった

事前に人が大量に来る未来は視えていたとは言え、あそこまで列が長くなり、忙しくなるとは思っていた。

通常営業の時間を終えるとお店を閉めた

「あーしんどかった…!でも売れたぞ!」

つい言葉が漏れる

今日に関しては、「いらっしゃいませ」、「このお薬ですね」、「ありがとうございました」の言葉しか話していない気がする。

完全にボットになってしまっていた

だが、売り上げは過去最高を記録していた

今日一日で今月の家賃は賄えるし、すでに先月の3倍の売り上げだ

売り上げ計算を終え、ほっと一息をついていると扉を開くものがいた

「おっ、ルーク、聞いたぜそっちも大盛況だってな」

同じ同業者のアクノさんだ

「そうでしたが、大変でしたよーアクノさんのところは他の人もいますがこっちは一人ですからね。お昼時に食事もできずきつかったですよ」

「そうか、ならこれから飲み行かないか。薬草のお礼もしたいし、他の奴にも声かけてんだよ」

そういって、アクノさんは飲むしぐさをする

「わかりました。もう出れますよ」

「準備が早いな、それじゃいくか」

そういって、アクノさんとお店を出た。



アインスは大きめな町ということもあって、飲食店が多く並んでいる

その中で薬屋同士で飲む際はここ『スジュウ』というお店でいつも飲んでいる

お店につくと他の薬屋仲間のイマドさん、ウルクさんの顔が見えた

軽めの挨拶をすませ、席に着き注文すると

『ピーエア』という、前の世界のビールというかほぼ同じものが来る

前の世界でも変わらないが、全員分の飲み物がきたら乾杯をして、一気に『ピーエア』を呷る

のどに来る炭酸が今日の疲れを癒してくれる

「ぷはっ!それにしても、ルークには助けられたぜ、薬草くれたおかげで大盛況だ。ありがとうよ!」

イマドさんからお礼をいわれる

薬草とは、この前アインボワでとった薬草のことだ

俺には1つスキルがある

先読みのスキルというとわかりにくいかもしれないが、要するに未来予知に近いスキルがある。これだけ聞けばチートかもしれないが万能ではない。

俺はそのスキルで事前に伝染病が来ることを知り、薬草を集めていた

その時視えたものは、伝染病が流行ること、かかる人数がかなり多く、今いる面子と他の薬屋の在庫でもすべてをまかなうことができないということだ

俺はその未来をみたとき、薬草を取る準備をし、アインボワに向かい大量に薬草を仕入れた

また、別の理由がある

このスキルは使い勝手が少々悪いところがあり常に発動できるわけではない。また、自分自身に対しては使用できない。どうしても誰かに対して使用する必要がある。

それ以外にも不便なところはあるのだが…

アインボワに向かうと決めた後に、アクノさんに対してスキルを使った

初めは、集めた薬草は自分の分のみ採取するつもりだったのだが



その未来は、単純に俺1人では薬の生産が追い付かないことと、作ったとてお客さんすべてに販売するのにかなり時間がかかること、そして、薬の在庫が多いためそれを聞きつけた人が押し寄せ

今日の比にならないほどの行列ができ、近隣住民に迷惑をかけること、最後にアクノさんから妬まれ今の面子の仲に亀裂が入ることだった

視た未来では、今日、アクノさんのお店では早々に薬が切れてしまい、他の薬屋の様子を見ている最中、俺の店の盛況ぶりを目撃する。

流石に営業中に突入することはなかったが、営業終了と同時に突撃されてしまい、いろいろ詰問されてしまう。

アクノさんは普段は気のいいおじさんなんだが、ところどころで人を妬むところがある。

一応、伝染病の予兆みたいなものはあり、アクノさんも準備していたのだが予想以上の人の多さですぐに完売。

なぜそんなに準備していたのかとか、教えてくれなかったのかとか色々問答する羽目になる

他の2人については、読み切れなかった自分が悪いと思っているようで特に何もなかった

それから、アクノさんの態度がとげとげしくなって毎回会うたびに胃が痛くなるという未来まで視えた


そういうところもあるが、俺はアクノさんは好きだ

もちろん変な意味ではない。嫉妬深いところもあるし、直情的なところもあるが、どうしても嫌いになれないところがあるのだ

気に入った相手には割と尽くすようで俺が薬屋になるときに色々世話になった。

そのお礼も込めてこの世界の季節の贈り物とかはしているのだが


その件に関しては、俺の配慮も足りなかったように思う

せめて、何かきっかけみたいなものは伝えてやれればよかったかなと

流石にスキル使って未来を視ましたなんて言うと後々厄介ごとになるのは目に見えているし、前の世界の漫画や小説ではいいように利用されているのが大体だ

物語にはヒーローがいて助けてくれるが、現実にはヒーローはいない。なら、視える厄介ごとは避けるべきだ。

そうして俺は、自分の分に加えて3人分の薬草を採取した。幸いだったのが、大量に咲いていたからその場所にさえ行けばあとは採取するだけだったので楽だったことだろう

採取後、一旦はすべてを家に持ち帰り、伝染病の予兆、先行で罹患した人が出始めた段階で3人に分けた。

すぐに分けなかったのは、その時点では予兆すらないため、材料が余ることを危惧して断られるからだ。

伝染病は周期ごとにくるわけではない。ましてや薬草もそう長くも持たない。

タイミングを見計らってうまく渡すことができた。

おかげで、物事はうまく回った。薬屋仲間とギスギスすることはなく、在庫が多い薬屋が分散したことでより早く人々に行きわたったし

今日の忙しさも視る前よりはずっと楽な状態だった。近所の人に苦情を入れられることも…実は睨まれたが、まぁよし。

今回の件はこれでうまく立ち回れただろう。

俺はさらにピーエアを呷ると、昔の仕事で疲れた体をビールで癒していた社会人人生を思い出しながら皆と談笑した

「そういえばよ、きいたか、夜のアインボワの話」

ウルクが最近噂になっている、まぁ都市伝説的な話をしだした

「あれか、夜の森に最近現れた赤い目の魔物のことだろ?」

イマドが続ける

「ああ、夜になると赤い目の魔物が現れて他の魔物をやっちまうんだろ。やった魔物をそのまま持ち帰るらしいじゃねえか」

随分と好戦的な魔物だ

「しかも、こどもくらいの大きさの魔物らしい。ギルドの冒険者が夜の仕事でたまたまその影を見たんだとよ。暗くてはっきりと見たわけじゃないようだが」

話を聞きながら、例の魔物について考えていた。なんだか異様に気になる。

だが、夜のアインボワには行きたくない。

流石に翌日の営業があるので何かあったら開店できないだろうし、睡眠不足で仕事はしたくない…

したくはないんだが…












  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る