プレス作業員の一日

優太

第1話 プレス作業員の一日【帰宅編】1

15時になるベルの音により、今日の作業が終了した。一時的に無機質な機械の音が静まり、工場内に作業員が増え、若干、人の賑わしさが工場を支配した。

「ふう、今日も終わった」と一言、康太はつぶやき、本日の作業完了の締めの

スイッチを押した。夜勤帯のメンバーは既に作業場に来ており、康太は、申し送りリスト用紙を渡しつつ、二言三言、話をして、作業場を後にした。


この工場は、二直を基本として、プレス機を稼働させ、日勤が6時から15時、夜勤が15時から24時までのシフトで作業員は働いている。プレスにより生産されている部品の多くは、いくつかの組付け工場を経由し、主に自動車へ組み込まれている。多くの作業員は、自分たちが生産している部品が最終的にどのようにどのように扱われているか知らずに生産を続けている。無論、康太もそういった作業員の一人に含まれている。


大手の自動車メーカーからすると、孫請け、曾孫請けの部品メーカーにも関わらず、ここの工場は、セキュリティや勤怠にお金をかけているほうであった。退勤ボタンを押すための更衣室に到着するまでに3回の静脈認証に2回のカード認証がある。康太に面倒以外の何物でもなく、情報の流出防止のためとはいえ、康太にとっては何の情報の流出を防ぐためか、いまだに解けぬ謎であった。

更衣室に到着すると、色々な部署の作業員が「おつかれさまー」、「オツカレサマー」、「おつかれさん」と声を掛け合っている。康太も多分に漏れず、「おつー」と誰となく声をかけて、本日の退勤ボタンを押した。


どの作業員も着替えながらの話題と言えば、パチンコ・競馬・風俗・不倫・会社の不満・上司、同僚への不満・人事異動の裏話や仕事のことであり、毎日、あまり変わり映えのない話を脈絡なく話して、帰宅の途につく。


康太が着替え始めていると、

「おつかれさん、康太。あの話って知ってるか?」と隣のロッカーの木村作業主任が声をかけてきた。

「あの話とは?特に面白いネタはないような」心の中では、あの話では、分る訳ないと思いつつ、相槌をうつ康太。

「まあ、教えてやるか。来月にまた、人事異動があるらしいで。今、人事面談中らしい」

若干、物言いにイラっとしつつも契約社員である康太は、それに興味があったために軽いのりで、聞いてしまった。

「またですか。ここの会社は、人事異動とレイアウト変更が好きですね。もしかして、僕が正社員に昇格とかありそうですか?」

「はっ。お前が社員に?なれる訳ないじゃん。社員推薦とか俺、面倒くさいのしたくねーし。何、お前、社員になりたいの?」

「なになに、康太さん、社員目指してんの?いいじゃん、頑張れよ。まあ、今、何にも資格ないから、取りに行って来いよ。ワンチャンあるかもよ」と真後ろのロッカーで着替え中の品質管理課の小平さんが話に入ってきた。

康太は、格好の話題のネタを提供してしまったことを後悔しつつ、もう一度、話題を人事絡み戻そうと、小平さんに聞いてみた。

「小平さんは、何かその人事絡み、知っていますか?」

「ん?知らんよ。興味ないし。それより、康太さん、資格だよ、資格。」

「康太の資格は、俺がこれから、取りにいかせるから、小平ちゃん、もう、その話はいいよ。それより、あれだ、今回の人事は、結構、荒れるらしいよ」

 なぜかこの主任の言い草にイラっとしつつも面倒な話題から逸れて、ほっとした康太は、適当に話題を終わらせて、帰宅の途につくことにした。

 「主任、そろそろ、帰りますね。今日は定時上がりなので、ちょっと、パチンコで残業代稼いできます」

 「おっ、パチンコ行くんか!残業でマイナスになるぞ。行くなら、今日なら、セガワ会館が旧イベントデーだぞ。俺も行くかな」

 「おつかれさまでした。ちょっと、セガワ会館で残業してきます」更衣室を後にして、康太は、セガワ会館に自転車で向かった。

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