黙示録(エミリア)の屁理屈

菖蒲士

第1話 宿題が終わらないのです。〜ざわざわ〜


「この作品はギャグ作品です。しかし、一部の方の気分を害する可能性があります」


「本作は独立した短編の集合体です。途中から読んでも支障はありません」







夏休み。それは学生に許された特権だ。

――しかし、それを享受しすぎた少女の話をしよう。


最終日。

少女は宿題という断崖絶壁の縁に立たされていた。


彼女――エレナは、料理も運動も歴史もそつなくこなす。

ただ一つ、吸血鬼であるがゆえに致命的な弱点があった。


数学A。

そして、化学基礎。


「……数学A(さん)」


エレナ(文系馬鹿)にとって、それは未知との遭遇だった。


「ええと……確率……期待値……?」


「数撃ちゃ当たるものなのです。パチンコ? に行っている方がそう言っていました」


「誰だよそれ」


「裏山のおじさまです。設定3からラッシュに入った伝説の方なのです」


「はよやれ」


「4円(レート)でやると、すぐに底を尽きる……。相当な対価を要求される魔術なのです」


真剣そのものの眼差しに、高島は天を仰いだ。

彼女は本気で、4円パチンコを禁呪だと思っている。


「閑話休題。やれ」


「……エレナとお話するの、嫌なのです?」


数秒後、号泣。


「私の設定はきっと1なのです! 地獄行きなのです!」


137cmの体が震え、銀髪が乱れる。

完全にスイッチを押してしまった。


「違う! 話が進まないだけだ! ―――それに、お前が号泣すると超音波で電子機器が逝かれる」


「数学Aさんの方が大事なのですね……」


「だから違う!」


そこへ救世主、お母様。


「エレナちゃん。そんなに泣いたら、ウサギさんまで悲しくなりますわよ?」


「……ウサギさん?」


高島にパペットが渡される。


「(裏声)確率を倒して、ハッピーエンドを掴もうね……」


「……わかりましたです。もう一度だけ……」




「なんでサイコロさんはランダムなのです?」


「……何って言った?」


「6を願って振れば、6が出ますです」


沈黙。


「それはな、イカサマって言うんだ」


「違うのです。サイコロさんに寄り添っているだけです」


「そのおじさんの影響だろ!」


高島は頭を抱えた。

「同様に確からしい」という前提が、彼女の存在そのもので崩壊している。


「つまり数学Aは、可哀想な人間さんのための学問なのですね」


「嫌な納得するな」


「能力は封印だ。普通の人間として考えろ」


「……不自由なのです。でも、郷に入っては郷に従え、なのです」



「しゃぶしゃぶだけが好きな人が3人。どれも嫌いな人が3人。好きな人は何人?」


「100人です」


「なんでだ」


「好き嫌いは良くありません」


「道徳じゃない!」


円を二つ描く。


「これが集合だ」


「……期待値の円に似ているのです」


「パチンコから離れろ」


しばし沈黙。


「……わかりました。答えは無限です」


「だからなんでだ」


「焼肉好きの人数が指定されていませんもの。情熱は無限大です」


「ロマンで数学するな!」


「※調査対象は40人」


「……※さん、排他的なのです」


消しゴムで「100」を消す。


「……あ。計算ができなのです」


「今度は何だ」


「焼肉だけと、両方好きの内訳が不明です」


高島、絶句。


「つまり……何も食べない3人を除けば、残りは37人」


「……正解だ」


「やりましたです!」


「確率関係ねえけどな。次は化学だ」




化学基礎


「化学基礎……宣戦布告なのです」


「魔術じゃねえ」


「友情も魂も粒ですか?」


「例えが最悪だ」


周期表。


「……これは召喚呪文なのです」


「違う」


「Auを集めれば……錬金術!」


「元素記号だ!」


「6.02×10²³……?」


フリーズ。


「万枚より多いです?」


「桁が違う!」


「そんな数、数えてる間にお日様が……!」


137cmが震えた。


「そういえば、おじさま新聞に」


「やめろ」


「器物損壊……」


「台壊してるだろ!」


「ああ、類は友を呼ぶ。つまり私たちは水(H₂O)なのです!」


「せめて共有結合に理由を持て

――んで答えがあってるのは才能なのかな?」


「もう一回で三連単。つまり72.5%の正答率です」


「お前? ――中山か府中にでも行ったか?」





なんとか宿題に一段落つけたエレナであったが、次の試練が待ち受けていた。


「高島さん! 大変です! 私、今日お友達と遊ぶ約束をしておりました」


「どうするんだよ?」


「とりあえず、ええっとメールを....」


高島がふと、彼女の携帯を覗き込む。


――稼ぎたい人、ぜひご連絡を!


「ねずみ講じゃねえか!」


「――なんです? ――夢の国ですか?」


「――遊園地じゃねえよ!

――夢を餌に金を落とさせる場所だ」


「じゃあなんです? ――私、束縛されるのは嫌なのです!」


「そういう言い方は誤解を招くぞ!」


「やり方(プレイ)は人それぞれなのですよ!」


「この作品がBANされちまうよ!!」


「じゃあ、断れば良いのですか? ――高島さんは薄情です!」


「それに慕情を感じるお前のほうが余程人肌さみしいだろ!」


「人のこと言えるのですか?」


「お前にだけは言われたくねえよ!」


「もう針の筵なのです!」


「奇々怪々の塊を前にして、冷静な俺を褒めてくれ!」






「私がディーラーを務めさせていただきます。

――早速ですが、掛け金は如何なさいますか?」


「アイスクリーム引換券だ」


――このポーカーには、フォールドという選択肢がない。

 そればかりか、チェックも駄目。

 つまり、掛けたら最後、延々と金額を上乗せするほか道はない。


「では開始させていただきます」


 エレナがカードをシャッフルする。

 そして、指定枚数である五枚を、一枚ずつ双方に配る。


「では、ご確認ください」


 高島はカードを確認する。 


 A 2 2 3 A


 つまるところツーペア。


 ―――内心穏やかなものではない。

 それはこの役が弱いからではない。単に、特別ルールによるもの

であるからして、狂気はこんなものではない。


 「では、私も拝見いたします」


 エレナがカードを見る。



 「では、宣言いたします。――私は幻影です!」

 ―――始まった。

 このゲームにおける特別ルール。ファントムだ。


 幻影とは豚をさす。

 このルールでは豚となったプレイヤーは強制的に宣言をしなければならない。

 それは一見デメリットにも見える。

 しかし、高島は逆境に立っているのだ。

 その所以は―――


 「では高島さん。私はディスカードいたします。枚数は三枚です」


 エレナが指定枚数のカードを捨て、引き直す。

 幻影が何れかのプレイヤーに出現したとき、役ありのプレイヤーはディスカードができない。



 「準備は整いました。――では当てていただきましょう」


 ここだ。

 このルールにおける最大の山場。

 『予言』

 予言とは、エレナの現在の役を当てるための作業だ。

 二つまで宣言でき、そのどちらかが当たれば高島の勝ちとなる。


 ―――しかし、もしも外した場合。問答無用でエレナの勝ちとなる。

 であるからして、既存ルールを逆手に取り、豚の勝率のほうが高いという逆転現象が発生する。



 ―――普通のポーカーでは最も確率が高い豚。しかし、エレナのディスカードにより、このゲームでは『シュレディンガーのねこ』

へと昇華されている。通常なら豚からペア有になる確率は凡そ三〇%。つまりペアなしのままのほうが確率は高い。 

 

(とするのなら一つ目は豚が基石。――しかし、二つ目はなんだ? ――スリーカードか、ツーペア。しかしフラッシュという可能性もある。

――一番ありえないのがフルハウス以上の役)



ざわ...ざわ...ざわ



 高島は熟考する。

――そしてたどり着いた答えは―――


「豚とスリーカードだ」


「了解しました。―――存じていると思いますが、このギャンブルは私に非常に有利なものとなっています」


 「そんなものは分かっている。

―――だがな、元が豚なのはお前が宣言したとおりだ。つまり、同じペアが二つ揃う、所謂ツーペアはスリーカードよりも確率が低いのも事実だ」


 「良いのですか? ――達観は時に諸刃の剣となります。 ――私は確かに三枚ディスカードしました。ですが、二枚は手元にある。つまり二ペ

ア自体も確率としては依然として極端に低下しているわけではありませんよ?」


 

 「では、ベッドで」


 「――コール」


 「コール――」



静寂に包まれたカジノの一室で、エレナはどこまでも冷徹な笑みを浮かべ、ゆっくりとカードに手をかけた。


「……では、開示いたします」


高島の背中を冷たい汗が伝う。


期待値と確率論。

数学的な正しさを武器にした高島の宣言「ブタ(ノーペア)」と「スリーカード」。


しかし、エレナが卓上に並べたのは、彼が「ありえない」と切り捨てたはずの残酷なまでの輝きだった。



【エレナの手札】10 J K Q A



「ロイヤルストレートフラッシュ……!?」



高島の声が裏返る。



ブタから三枚を交換して、ポーカーにおける最高位の役を引き当てる。



それは奇跡という言葉ですら生ぬるい、文字通りの「狂気」だ。



「残念でしたね、高島さん。確率は確かに低い。ですが、ゼロではない。



――そしてこのゲームにおいて、ゼロでない事象は、私が必要とした瞬間に必然へと変わるのです」



エレナは優雅な所作で、山積みにされた「アイスクリーム引換券」を自らの手元へと引き寄せた。



―――高島圧倒的敗北!!。



「さて、この勝負……私の勝ちということでよろしいですね?」



高島はツーペアを握りしめたまま、言葉を失っていた。



論理で武装したつもりでいた自分が、底知れない深淵の淵に立たされていたことに、今更ながら気づかされたのだ。



「……っ、もう一度だ。もう一戦、頼む」



「構いませんよ」



エレナは新しいデッキを手に取り、無慈悲なほど正確な手つきでシャッフルを始めた。



「ただし、次の掛け金は……そうですね。もう少し『冷たいもの』以外も混ぜていただきましょうか?」


 

「何が欲しい?」



 「スィートポテトでしょうか?」



 「良いだろう。それじゃあ!」



 「「デュエ◯スタンバイ」」



4.



「マッチ売りの少女って知ってるか? ――寒い日にマッチを売って回る女の子の話だ」


「それで、どうなるのです?」


「その子は幸せな幻想を前にして息を引き取るっていう悲しい話だよ」


「でも――売れないのは当然ではないですか?」


「なんでだよ?」


「だって、寒い日にシュワシュワいっぱいの飲み物なんて、誰が欲しがるのです?」


「炭酸飲料じゃねえよ!!」


「でも、その子にとって、それが幸せだったのでしょうか?」


「急に本編みたいなこと言うんじゃねえよ!」



5.



「さっき、あそこでアイスを落としていた男の子がいましたです」


「それは災難だったな」


「ですが、その子は私のせいにしてきたのです!」


「それはまた災難だったな」


「氷塊を人に落とすだなんて――私は見過ごせなくて!」


「ちょっと待て、なんて?」


「だから、屋根の上からおっきなアイスを」


「落とされた人は?」


「ピクピク――痙攣してたです」


「その後、どうしたんだ?」


「男の子に罪をなすりつけられて」


「今現在、事情聴取中です」


「だから会話文だけなのかよ!」



6.



 「魔法少女っているじゃないですか?」


 「ああ、アニメとか漫画とか」


「私は違うのですか?」


 「―――エレナのお母さん...御年何歳ですか?」


 「んーっと、500位?」


 「本編のネタバレはやめてください」



7.



「エレナは去年、サンタさんに何をもらったんだ?」


 「えへへ、くまさんです!」


 「へえ、良いじゃん」


 「ところで高島さん、サンタさんってどこの国にいるか知ってますです?」


 「そら、フィンランドだろ?」


 「じゃあまずはフィンランドと日本における緯度差と時差を求めます。まずフィンランドはグリニッジ標準時から+....」


 「既存設定壊すんじゃねえよ!」


 「つまり、サンタさんは音速の三千倍でプレゼントを配っているので――」


「お前、エレナじゃないだろ!!」


 「光速に近い速さで....」


「ガリレオ!!」



8.



 「お年玉の起源ってお餅らしいのですよ」


 「そうなんだ」


 「正月に突如、狂ったように消費される白い悪魔」


 「ん?」


 「使い切れずに廃棄なんて言うのもザラですし...」


 「中には大和魂で乗り切ろうとして...」


 「不謹慎だ!!」


 「あけましておめでとうございます!」


 「お前はそれでいいのか!」  



9.



 「おはようございます」


 セーラー服を着た銀髪ロングの少女。エレナ=シュタイナーが、ニコニコしながら屹立しており、その左腕にはビニール袋に入った大きな長葱が携えられていた。



 「おはよ⋯⋯朝飯か?」


 「はい。一緒に食べましょ♪」

 

 「朝から葱だけはちょっと...」


 「物語が進まないのです!!」



10.


 「幸せなら手を叩こう!」


 「高島さんはレイシストなのです!」


 「なんでだよ?」


 「それは一部の方を差別しているのです!」


 「じゃあなんだよ、景色とか言ったらそれもアウトなのかよ!」


 「そもそも、景色って誰が決めたのですか!」


 「景観だろ? ――眼球腐ってるのかお前?」


 「何を言うのです、高島さんの青いお顔はしっかりこの目に...」


 「カラコンじゃねえか!」


 


11.



 「僕の顔を食べてって言ってくる不審者がヒーローのお話がありますよね?」


 「ああ、誰とは言わんが、愛と勇気だけが友達の」


 「ひどい、高島さんはそういう人を差別することを平気で言うのです」


 「あの歌はもののたとえだろ?」


 「やはり、高島さんはレイシストなのです。登場する動物さんを食物として見ているのです!」


 「曲解がすぎるぞ」


 ―――しかし、彼女の言うことも一理ある。

 ブ◯まん◯んは豚でありながら、豚まんを食べている。


 「この話はやめませんか? エレナさんよ」


 「いやいや、他にもおかしいのです。――あの工場の衛生管理はどうなっているのです! 汚れたというのを目視観測で!」


 「あの、エレナさん?」


 「それに、口からカレーだなんてはしたないです!」


 「エレナさん!!」



12.



 「も~ういくつね~ると~お正月」


 「このお歌はおかしいのです。なんでお正月当日に歌うのに、寝るのです?」


 「知らんがな。続けるぞ、お正月には凧上げて~」


 「だから、正月太りというものがあるのですね?」


 「デビルフィッシュじゃねえよ! コマを回して遊びましょう~」


 「高島さんが前に家計が火の車だって言ってましたです」


 「関係ないからやめろ!」


 「――です?」


 「早く来い来い給料日!!」



13




「……これが、全財産。『250円』だ」


高島が震える手でカードを伏せる。 対峙するエレナは、優雅にオレンジジュース(350ml缶)を啜っている。


「アナーキーポーカーのルールは覚えていますね? ジョーカーは2枚。最強の役『ファイブカード』は、役なしの『豚』にのみ敗北する。

そしてカード交換は強制ではないが三枚固定。フォールド・チェックはファントムポーカーと同様にできない。

……強さは脆さと背中合わせなのです」


 高島は脳内で計算を加速させる。

(ジョーカーが2枚ある以上、ファイブカードが出る確率は格段に上がっている。だが、ファイブカードを狙えば相手の『豚』に食われる。

……なら、狙うべきは『豚に勝てる、そこそこ強い役』だ!)


高島は2枚を交換した。 手元には、A・A・ジョーカー・K・Q。


ジョーカーをAとして扱えば、「スリーカード」。


(これだ! スリーカードなら豚には確実に勝てる。そして、ファイブカードという『呪い』にもかかっていない!)


「……ベッド」


「あら、面白いですね。――では私はディスカードして……フルベット(全賭け)です」



エレナがカードを叩きつける。 その瞬間、高島は心臓が跳ね上がるのを感じた。



ざわ...ざわ...ざわ



「さあ、開示(オープン)の時間です。……私、実は『豚』だったんですよ」



「……っ、勝った! 俺はスリーカードだ! 豚のお前には――」



高島がカードを捲ろうとした瞬間、エレナが口角を吊り上げた。



「……という『嘘』を吐きました。私の役はこれです」



卓上に並べられたのは、J・J・J・ジョーカー・ジョーカー。 ジョーカー2枚をJとした、完璧なる『ファイブカード』。



「なっ……ファイブカード!? お前、バカか! さっき言っただろ、最強の役は『豚』に負けるって! 俺が『豚』だったらお前の負けだったんだぞ!」



「ええ。ですが高島さん、あなたは『豚』ではありません。……堅実に『スリーカード』を揃えてしまった」


「……え?」


「あなたは『負けないこと』を選んだ。その臆病な論理が、私にファイブカードを出す勇気を与えたのです。

……最強は最弱には負けますが、中途半端な『スリーカード』には無敵なのですよ」


沈黙。


「アナーキーとは、ルールを知っている者を、そのルールで溺れさせることなのです」


高島は、手の中のAのスリーカードが、ただの紙屑に見えた。 「期待値」という名の安全圏に逃げ込んだ自分の敗北だった。


「……高島さん、顔色が悪いですよ? 豚でも見たような顔です」


「誰のせいだと思ってんだ」


「あら。最強は最弱に跪くもの。それがアナーキー(無秩序)の美学ではありませんか」


「美学で勝敗を決めるな! ギャンブルをしろ!」


「していますよ? 私は『あなたがそこそこ強い役を作る』という未来に、賭けたのです。

……そして勝った。それだけです」


「……最強を作ったら負ける可能性のあるゲームで、クソっ!」


「ふふっ。期待値という名の鎖に縛られた人間さんは、どうしても『勝てる役』を求めてしまう。……哀れな家畜の習性なのです」


「……もう二度とポーカーなんてやるか」


「ええっ、そんな! 次は『役が強ければ強いほど、支払うアイスの個数が増える』という新ルールを追加しようと思ったのに!」


「それもう、勝っても地獄じゃねえか!!」



「……最後の願いを聞こう」


「ハー◯ンダッツの、期間限定のやつがいいです!」


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