魂継承の果てに俺は異世界の王となる~死者の魂を継承すればするほど強くなる世界唯一の魂継承者に覚醒した転生剣士が史上最強の英雄王となるまで~
佐松奈琴
第1話 最初の魂の声
俺は死んだ。
深夜の自室、ヘッドホンを耳に当て、コントローラーを握りしめたまま。
最後に見たのはモニターの青白い光だった。
二十六歳。名前は――
女みたいな名前だけど、男だ。ごく普通のサラリーマン。朝から晩までデスクワークに追われ、帰宅後はオンラインゲームに没頭する毎日。
彼女? いない。
友達? オンラインでは何でも話せるギルド仲間がいるけど、リアルで会ったことはない。
特別な才能? もちろんゼロ。
ただの、どこにでもいる社会人だった。いや、正確に言うと、俺は普通よりもちょっと孤独だった。
両親は俺が小学生の時に亡くなった。あの夜、家に強盗が入ってきた。物音で目が覚めた俺を、父さんと母さんは慌てて洋服箪笥に隠した。「瑞希、絶対に音を立てないで。パパとママが守るから」――それが最後の言葉だった。俺はただ洋服箪笥の中で震えていた。強盗は居直り強盗となり、抵抗した両親を殺した。犯人はまだ捕まっていない。
それから俺は親戚の家をたらい回しにされ、どうにか高校を卒業したあとはずっと独り暮らし。両親の死を忘れるために、ゲームに没頭した。犯人を見つけるために駅前でビラを配ったりするとかやれることはあったはずのに、警察に任せて諦めてしまっていた。もちろん後悔はずっとあった。両親を守れなかった。あの時、俺がもっと強ければ……いや、でも、そんなのは子供の甘ったるい妄想だ。
そして、俺が失ったのは両親だけではなかった。最初の親戚に預けられるとき、飼っていた白い毛の犬を手放さなければならなかった。両親がベンと名付けたその犬を俺は毎日のように散歩につれていき、兄弟のような絆を感じていたのに、両親を強盗に殺されたショックでベンのことまで頭が回らなかった。ベンは殺処分されたらしい。ベンの命を奪ったのは俺自身だ。あの柔らかい白い毛の感触が忘れられない。
そんな孤独の中、仕事はつまらないルーチンワークで、上司の叱責に耐える日々。ゲームだけが逃げ場だった。あの仮想世界のやればやるほど強くなれる感覚が好きだった。現実の俺は弱くて、何も守れなかった。両親の葬式で、ある親戚に、「瑞希はこれから一人で生きていかなきゃね」と冷たく言われたあの日から、俺は心のどこかで「もっと強くなりたい」と思っていた。でも、現実はそんなに甘くない。結局、俺はゲームで強くなることしかできなかった。
だけど、最近はちょっと変だった。ゲーム内で見つけた謎のアイテム――「魂の
医者に行くべきだったのかもしれない。でも、気づいたときには遅かった。画面が突然真っ赤に染まり、胸に鋭い痛みが走った。心臓が止まるような衝撃。コントローラーが落ち、俺は椅子から転げ落ちた。原因? きっと過労による心臓発作じゃないか? いや、それだけじゃない。あの「魂の剣」が俺の命を吸い取っていたような気もする。アイテムの呪い? バグか? それとも、ただの幻覚か? いずれにせよ、俺の凡庸な人生はそこで終わった。
闇に落ちる間際、俺は思った。もっと強く生まれたかった。ゲームみたいに無双できる体が欲しかった。誰かを、大切な存在を守れる力が欲しかった。あの孤独な日々を変えられる力が……。そして、すべてが闇に溶けた。
◆
意識が戻ったとき、俺は泣いていた。赤ん坊の、甲高い泣き声で。温かい腕に抱かれ、甘い母乳の匂いがする。ぼやけた視界の先に、金色の髪の優しそうな顔つきの男性と美しい女性が涙を浮かべて笑っていた。
「ディムドア……私たちの愛しい子よ。ようこそ、この世界へ」
――ディムドア。
その名を聞いた瞬間、俺の頭に何かが流れ込んできた感覚があった。断片的な剣技の感覚。戦場の匂い。鋼と血の感触。誰かの――強者の残滓のようなもの。妙に生々しかった。そんな記憶とも呼べない感覚が襲ってきた後で、ようやく俺は前世の記憶を少しずつ取り戻していった。
転生したのは確かなようだった。俺が生まれた家は、辺境の小さな村。父は病弱だが人望で皆をまとめる村長で、母はその美しい妻。村は貧しく、五十軒ほどの家族が暮らしていた。周囲を深い森と山に囲まれ、外部との交流は年に十数回の行商だけ。静かで退屈だが、平和な場所だった。
転生してすぐ俺はこの世界の温かさに驚いた。すっかり忘れていた家族の愛。母の抱擁は柔らかく、父の声は優しかった。その瞬間、俺は改めて深く理解した。前世の父さんと母さんも、俺のことをこうやって精一杯愛してくれていたんだ、と。あの強盗の夜まで、毎日笑顔で俺を抱きしめ、守ってくれていた。……この新しい両親を守ることは、前世の父さんと母さんに俺が唯一できる償いだ。そうだ。ベンのことも守れなかった。あの柔らかい白い毛の感触、そんな大切なものを二度と失わないために全力でこの家族を守る。そう俺は誓った。
父は病で体が弱く、昔は優れた剣士だったらしいが、今はベッドに横たわる日が多い。それでも、病身を押して村人たちをまとめる姿は立派だった。母はそんな父を支え、俺を慈しんでくれる。初めて母乳を飲んだ時、俺は心の中で泣いた。
「こんなに温かいものが俺の人生にあったなんて……」
前世の孤独が嘘のように溶けていく。
生まれてから数カ月、俺はゆりかごの中でぼんやりと世界を眺めていた。体は赤ん坊のものだから、思うように動かせない。だが、頭の中は前世の記憶でいっぱいだ。剣の感覚が、時折よみがえる。父は俺を抱き上げてくれるとき、優しい声で語りかけてくる。
「ディムドア、大きくなったら一緒に剣を振ろうな。父さんの若い頃みたいに」
その言葉に俺の心はざわついた。強くなりたい。この体で、早く剣を握りたい。
母は毎晩、ゆりかごを揺らしながら子守唄を歌ってくれる。美しい声が俺の心を溶かす。
「ディムドア、あなたは私たちの宝物よ。ずっと守ってあげるからね」
その言葉が前世の母の最後の言葉と重なる。そして俺はまた誓う。前世で守れなかったものを今度こそ全力で守る、と。
生後わずか半年で、俺は初めておもちゃの剣を手にした。木でできた小さな剣で、父が村の木工職人に作らせたものだった。ゆりかごの中で仰向けに寝ながら、俺はそれを握りしめた。赤ん坊の小さな手では重たく感じるが、懐かしい感覚がよみがえる。あのゲームの剣。「魂の剣」の残像。俺はそれをイメージしておもちゃの剣を振り回した。ゆりかごの縁にぶつかり、カタカタと音を立てる。母が笑って見守る。
「ディムドアは剣が好きなのね。お父さんみたい」
父は病床から微笑む。
「この子は将来、強い剣士になるぞ」
その夜、夢を見た。雪原の戦場。巨大な斧と剣を両手に持つ蛮王を俺が剣で斬り伏せる。血の味。勝利の興奮。目が覚めたとき、俺はゆりかごの中でおもちゃの剣を握っていた。剣を握っている手がひどく熱かった。すると、次の瞬間、頭の中で声が響いた。
【――ようやく目覚めたか、継ぎ手よ】
低く、威厳に満ちた男の声。俺は体を震わせ、辺りを見回した。誰もいない。
「……誰だ?」
【我が名はゲルガ・ブラッドソード。かつて北の蛮族を統一した王だ。夢の中で斬り伏せた記憶があるはずだ】
あの夢のことか? あの時の興奮。血の味。勝利の快感。あれはただの夢じゃなかったのか?
【“魂継承”――剣で敵を斬り、その魂を自らの内に取り込む禁忌の剣技。お前は生まれながらにしてその器として選ばれた。赤子のお前は夢の中でそれをやってのけたのだ】
俺は息を呑んだ。魂継承? ゲルガはその最初の獲物? 夢の中で俺に斬られたことで取り込まれた? にわかに信じられなかった。そんな俺にゲルガの声は嘲るように続けた。
【ふん、まだ理解が追いつかないって顔だな、小僧。だが、お前の前世の“呪い”が、俺の魂を呼び込んだのだ。あの剣――魂を喰らう剣の残滓がお前の転生を歪めた。面白い運命だ】
俺は目を細めた。前世のゲームアイテム。「魂の剣」。あれが、前世の死を招き、この世界の力、魂継承のきっかけになった? 偶然か、必然か。いずれにせよ、俺は変わった。弱かった俺が、今、強者の魂を宿している。
【恐れるな、継ぎ手よ。お前には我が魂を継ぐ資格がある。そして――いずれ、無数の魂を統べる王となる資格が】
俺はおもちゃの剣を握りしめた。前世では何もできなかった。ただの弱者だった。でも今は違う。ゲルガの蛮勇。これから継ぐ、無数の魂。俺はどこまでも強くなれる。あのゲームみたいに無双できる。いや、それ以上だ。魂を喰らい、すべてを自分のものにする。
でも、そんなものを取り込み続けて俺は狂ってしまわないのか? ふと、そんな恐れがよぎった。すると、頭の中でゲルガが笑う。
【小僧、弱音を吐くんじゃない。強さには代償がつきものだ】
どうやらこちらの考えていることがぼんやりと伝わってしまうらしい。
そうだな。構わない。前世の死が教えてくれた。誰のことも守れない弱者のままで終わるより、多少のリスクを取ってでも大切な存在を守れる強さを追い求める方がずっとマシだ。この新しい家族を守るために。
頭の中で最初の魂が低く笑った。
【さあ、歩み出せ。――我らの王への道を!】
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毎朝7:03に投稿します!
第1話を最後まで読んでくださり、ありがとうございます!
今回のエピソードが面白かったと思ってくださいましたら、作品フォローや『★で称える』の+ボタンを押して★★★評価をしていただけるとめちゃくちゃうれしいです!
作者の何よりのモチベーションになり、執筆の活力になりますので何卒よろしくお願いいたしますm(_ _)m
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