モンスター・スラグ

栗鼠

プロローグ

2010年 冬

東京都在住、安アパートで生活する秋山は定時に仕事を終えて床についていた。その日は尋常でなく寒く秋山は凍えていた。あまりの寒さにブルブルと震えて目を覚まし彼はお湯を沸かしていた。その最中ふと窓を見ると窓が開いており暗闇では解らないが誰かがいるようだ。秋山が目を暗闇へこらすとファンタジー小説に出てくる物乞いのような服装の男で肩にはライフル銃が掛けられている。ひげはすっかり伸びており、素顔はよくわからない。すえた臭いが鼻をついた。やかんがピューピューと鳴く、秋山は泡を食って走り出した。みすぼらしい男はよろめきながら発砲する。秋山は効いたことも無い音に怯え一瞬立ち止まりそのおかげで弾は彼から逸れパジャマを引き裂くだけだった。再び秋山は走り出し靴を履くことも忘れアパートから旅出した。バタバタと走る秋山は恐怖で足の感覚は無くなっていたが、大通りへ出たことで安堵し足の痛みに叫び声をあげた。爪が剥がれ、堅いアスファルトへこすりつけられた彼の足の皮はベロベロに剥けていた。驚くことにいつも通り賑わっている大通りは、人っ子一人おらず霧が立ちこめていた。秋山の背後から轟音が鳴ると彼の首筋がヌルリと濡れた。ゴンボロで髪の毛を逆立てた狂人が彼を追って来たのだ。秋山はたたらを踏みしゃがみ込んだ。彼は失禁、更に涙し目を瞑った。


 どれ程経ったのかはわからないが秋山は空腹で目を開けた。辺りは真っ暗で水中のような独特の反響音が響いている。秋山は周囲を触るとどうやら液体が満たされた円柱状の建物に自分はいるようだとわかった。また建物下部には穴があり建物上部には何本かの装置が下部に向かって伸びている。それらに加えてどのような原理かはわからないが建物内の液体は対流を繰り返していることもわかった。秋山の指は下部の穴をどこまでも移動して行き遂に外界が見えた。大きな部屋だった部屋の天井には4人、同じ顔の人間が描かれ、彼らは剣、本、梨、和測りをそれぞれ持っていた。窓は大きく外から太陽光線が沢山部屋に差し込んでいた。室内には老人が一人おり祭壇のような物へひざまずいている。

(彼は錬金術師のようだ。ここは実験室か。)

秋山は更に周囲を観察すると自分の姿が見えた。自分は透明な液体であり建物は銅のような容器に押し込められていたことがわかった。自分の指は容器へ接続されたガラスチューブに入っておりバルブによって先へ進めない。

(まるで自分は意思のある水みたいだ。スライムなのかな。)

衝撃を受けた秋山は全身をガラスチューブへ移動させた。それによりガラスチューブへ多大な圧力が加わりチューブははじけた。老人はパッと振り返り破損した装置へ近づいた。解放された秋山は素早く机の下へ潜り込んだ。老人はゴム栓で容器の口を塞ぐと容器側面の扉を開け、中を確認した。中身が無いことを確認した老人は半狂乱に踊り出した。秋山は何を言っているのかは解らないが喜んでいる老人の足に取り付き食べ始めた。本能であった。老人は絶叫をあげて秋山を振りほどこうともがいたが秋山は既に老人の足を平らげていた。バタリと老人は惨めに倒れ必死に足の切り株を押さえる。秋山は老人の足断面から体内へトンネルを掘るようにドロドロと食べ進んだ。老人の喘鳴が皮膚と服のトンネルをこだまする。遂に全身を食べきる頃には、秋山は老人程の大きさになっていた。

(あの喜びようから私はあの錬金術師の研究成果であるのは間違いない。)

秋山はそれから祭壇を見たが特に絵や像は無く、小さな黒い硝子が四角く貼り付けられた簡素な物だった。

(カメラみたいだがそんな物がある文明には見えない。とにかく状況を把握しよう。)

秋山は行動を開始した。


 秋山が外へ出てからわかったことだが、彼がいた建物は大きな館で山奥深くにそびえていた。館の中には数名の使用人が居たが全て秋山に平らげられた。彼にとってはただの動く刺身だったが。彼は未だ空腹を感じており館中のカーテンや服といった布製品、暗室に置かれた剥製、観葉植物や木製家具を吸収するように食べ始めた。後に館で残った物は石と鉄のみである。彼が館を出る頃には軽トラックほどの大きさまで身体が膨れ上がり、彼は食事を求め里へ繰り出し始めた。

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