中身のない話を、中身があると思わせる方法
アイリッシュ・アシュモノフ
中身のない話を、中身があると思わせる方法
行き当たりばったりで生きてきた。
童話の「アリとキリギリス」で言えば、僕は迷いなくキリギリスだ。
夏休みの宿題は、最後の最後までやらない。
テストは一夜漬け。
計画表を立てたことはあるが、守れた記憶はない。
それでも、不思議なことに、今まで何とかなってきた。
社会人になっても、この性分は変わらない。
締切に追われ、徹夜して帳尻を合わせる。
よく口にする言葉は「出たとこ勝負」だ。
趣味で書いている小説も、
コンクール締切の直前に提出する。
ハチワレみたいに
「なんとかなれー」と
合言葉のように唱える。
(ハチワレとは『ちいかわ』に登場する、
前向きさだけで生き延びている猫のようなキャラクターである)
三十年もこうして生きてきたのだから、
今さら計画的になれと言われても、正直難しい。
なぜこんな話をしているのかというと、
今日もまた、仕事と文章と締切に追われているからだ。
どうして、わざわざ自分を追い込むのだろう。
計画性のある人には、この感覚は分からないかもしれない。
もっとも、僕だって完全に無計画なわけではない。
生活が破綻しない程度には、最低限の見通しは立てている。
ただ、どこかで
「まあ、何とかなるだろう」
と本気で思っている。
座右の銘は、
「Fake it until you make it.
――できるようになるまで、ごまかしておけ」
今回の話も、下手をすれば
「僕は無計画だ」
の一文で終わってしまう。
文字数も中身も、正直ない。
それでも、提出しなければならない文章というものは存在する。
だから今回は、
中身のない話を、
中身があるように見せる方法を書くことにした。
ポイントは三つだけ。
共感。
教訓。
ディテール。
中身のない話にこの三要素を加えるだけで、
なんとなく雰囲気のある文章に仕上がる。
まずは共感。
共感とは、
登場人物への共感という意味と、
シチュエーションの「あるある」という意味の二つがある。
今回の場合、
語り手が読者から共感されるキャラクターとして
立ち上がっていることが重要だ。
最初にキリギリスの話を出したのも、そのためである。
たぶん人間の半分くらいは、心のどこかでキリギリスだ。
違うと言い張る人も、
締切前夜にはだいたいこちら側に来る。
……まあ、もっともらしく言っているが、
要するに「自分っぽいな」と思わせたら勝ちである。
あるいは、「あー、こういう人いるよね」で十分だ。
根本的に違う人種は、
すでに読むことから離脱している。
使える文字数が余っているなら、
冗長にならない範囲で、
読者が語り手に自己投影できるよう、
導入部を少しだけ丁寧に作る。
意外と大事だと、僕は思っている。
次に教訓。
まるで飲み屋の創作談義のような、
本来、中身のないこの話に、
立派な教訓などない。
だが、読者に
「何か中身があった気がする」
と思わせる必要はある。
そのために、僕は意味深に
「共感・教訓・ディテール」
という三つの言葉を並べた。
実のところ、
即興で思いついたワードに過ぎない。
それでも、自分の経験に基づいて語っているため、
読者はなぜか不思議と説得力を感じてしまう。
経験に基づいた教訓めいたことを、
解釈の余白を残して語る。
それだけで、
文章にはそれらしい雰囲気が漂い始める。
最後にディテール。
ディテールとは、
プラモデルで言えば墨入れ。
音楽で言えばリバーブ。
写真で言えばグレイン(粒度)を足すようなものだ。
全体のバランスを崩さず、
作品の世界を深めていく作業である。
まあ、そんな感じのやつだ。
完成している文章に、
雰囲気を盛っていく作業とも言える。
最後は、自分に言い聞かせる話になるが、
中身はなくとも、
作品はエンタメであることを忘れてはならない。
大事なのは、
読者に考えさせないこと。
分かりにくいと思ったら、すぐ補足を入れる。
説明がくどくなったら、例え話に逃げる。
伝わりにくい描写は、雰囲気で押し切る。
国語の授業ではないのだから、
読者に作者の心情を考えさせてはいけない。
時には嘘も方便である。
ディテールを整えたら、
だいたい文字数は足りている。
それでも足りなければ?
蛇口を開けて、水で薄めるしかない。
締切りとは、そういうものだ。
こうして僕は、文章に限らず、
話を煙に巻きながら、
いくつかのピンチを切り抜けてきた。
我ながら、定職についていなければ、
詐欺師に向いていたかもしれない。
心底、会社員でよかったと思う。
ここで何か気の利いた教訓を置ければ格好がつくのだろうが、
残念ながら、そんなものは用意していない。
だが、ここまで来たら言うことは一つだ。
出たとこ勝負、なんとかなれー。
<終わり>
中身のない話を、中身があると思わせる方法 アイリッシュ・アシュモノフ @ddd2000
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