【3分で読める短編ホラー】後部座席のゴスロリ女

猫とホウキ

後部座席のゴスロリ女

「本当にさ、酷い話なんだよ」


 助手席に座る彼女は、そう言って話し始めた。


 車は夜道を走っている。俺はハンドルを握ったまま「何の話?」と応じた。


「駅前のショッピングモールに向かっている途中だったんだよね。急にハンドルが自由に動かせなくなったの」


「故障?」


「アクセルとブレーキも自分の意思では踏めなくなって。手も足も勝手に動くんだ……まるで誰かに掴まれて引っ張られているみたいに」


「へえ」


「そのせいで……かろうじて道路に沿って走ってはいるけど、センターラインをはみ出したり、歩道に乗り上げたり、まさに暴走って感じになってね。よく歩行者を轢かなかったと思う。で、あたしは顔だけは動かせたから、ふと気になって後部座席を見たんだ。そしたらね……女が座っていたの」


「どんな女?」


「ピンク色の髪をした二十歳くらいの女の子。ゴスロリって言えば良いのかな、そういうファッションをしてた。笑っていれば可愛いんだろうけど無表情なのがすごく不気味だった」


「知り合い?」


「知り合いも何も、あたしは一人で車に乗っていたんだよ。だからその女は……幽霊」


 俺はちらりとルームミラーを見た。それを見て彼女が笑う。


「あはは、あたしの話を聞いて怖くなっちゃった? 大丈夫、後部座席には誰もいないよ」


「…………」


「それでね……そのあとにどうなったか。あなたはもう分かっていると思うけど、あたしの軽自動車はトラックに正面から突っ込んでしまったんだ。はい、おまい」


「…………」


 彼女はそれっきり黙ってしまう。俺も無言のまま、機械のように車の運転を続ける。


 やがて車はマンションの前にまった。


「勝手に送らせちゃってごめんね。あたしの運転がゴスロリ女みたいに下手じゃなくて助かったね。じゃあ……また」


 彼女が車から降りる。一人になって──俺はようやく手足を自由に動かせるようになった。


 昔、付き合っていた彼女が暴走事故を起こして死んだ理由は分かった。それはともかく……。


 ここは俺の家である。そして家には同棲中の新しい彼女がいるのだが……。






【終わり】

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