第六話 最後の記憶 


『あなたには素晴らしい、いや、この世を救うがある』


 隣を歩く防護服姿の医者は俺に力説する。


『君は、この流行病に対するが出来ている! これだけでも、凄いのに! あなたがそこに生きるだけでウイルスがされていく! ありえないことだ!』


『先生、俺からワクチンとかは出来ないの?』


 医者は足を止め、顔を曇らせ、バインダーを見る。


『残念ながら、ではないんだ。ウイルスが君を生かしているのか。それとも、君がウイルスを無毒化しているのか。現状の医学では分からないんだ』


 予想していた答えに俺は落胆し、医者の前を歩く。


『そっか。あの、母と父は感染していませんでしたか?』


『ああ、大丈夫だ。陰性だよ』


 医者は俺に追いつき、少し前を歩き、部屋の前で足を止める。


 俺は、しばらく見ることの出来ない廊下の窓の外の景色を見渡す。


『先生、ミィ太も京香も陰性ですか?』


『ああ、もちろんさ』


 医者は優しい声を出しながらこちらを振り返る。


『これは、私の仮定なんだがね。あなたが皆をんだよ』


『俺がですか?』


『そうさ、君が皆の周囲のウイルスを吸収し、皆を病気からんだよ』


『そっか、ねぇ、先生?』


『なんだい?』


『この実験で家族だけでなく』


 俺の脳裏を母と父、ミィ太との十五年の思い出が去来する。


『いや、家族だけでなく』


 京香の笑顔が、赤い川で反射した暖かい時間が胸に蘇る。


『世界中の人を?』


 医者はこちらを振り返り、目線を俺と合わせ強く頷いた。


 防護服ごしではあるが、その力強い頷きには一切の不誠実なものが感じられなかった。


 医者は、部屋の扉を開ける。


 そこには映画のセットのような、大小さまざまなモニターや機械が稼働していて、防護服姿の医療スタッフが俺を見て、直立不動で立っていた。


 その姿勢には、確かな敬意が感じられた。


 そして、医者が皆を見渡し、力強く声を上げた!


『約束する! 私達の力でこの白死病はくしびょうを解明し、世界も六乃ろくの 優弥ゆうやさん! あなたもして、必ず家族の下に返すと!』 


 医者は部屋の奥の、扉に進む。俺も付いていく。


 俺が歩き出すと、周りから静かな拍手がおきる。


 不思議な気分だった。


 医者が扉を開けると、地下への階段が続く。静かに段差を下っていく。


 地下室にある部屋には、カプセルがあった。


 医者は俺をカプセルに寝かせる。


『情けない話だ。今の医学では、治療どころか、原因の解明すらままならない。けど、約束だ。は、きっと白死病はくしびょうが治療され、平和な世界になっている』


 俺は、不思議な睡魔に抗う。そう、恐かった。寂しかったのだ。皆が、家族が、京香が心配だったんだ。


『だから、今はおやすみ。六乃ろくの 優弥ゆうやさん』


 瞼が閉じたのか、カプセルが閉まったのか、安らかな暗黒に俺は意識を明け渡した

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る