霰の日

清水らくは

霰の日

 彼らは、毎日黒板に「霰」と書いた。


 確かに最初の日には、霰が降っていた。そんな珍しい天気の日に、クロコはやってきた。


 か細い声が廊下の水道の下から響いていた。黒猫が迷い込んでいたのである。


「外は寒いよ、ここにいていいでしょう?」


 一人の生徒がそう言うと、先生はしばらく黙り込んでいたが、「仕方ないか」と言った。


 次の日は晴れていたが、クロコは朝から廊下にいた。誰かがさっと黒板に向かって、日直の上に「天気・霰」と書いた。


「なんて読むの、それ?」

「あられだよ。今日もすごく外が寒い、ってことにしとこう」


 先生は教室に入る前に黒猫を見て目を丸くした。そして教室に入ると、黒板に天気が書かれているのを見つけた。


「今日も霰か。じゃあ仕方ないわね」


 それから毎日クロコはやってきて、みんなはそれを見つめて、時には牛乳やペットフードの入った皿を置いた。クロコはゆっくりと飲んだり食べたりした。黒板には毎日「霰」と書かれた。


 夏休みがやってきた。教室には誰もいない。外はカンカン照りだった。


 クロコはたまに廊下にやってきたが、誰もいないのを確認すると寂しそうに首をかしげて、どこかに行った。


 台風がやってきた。クロコは廊下に来て、水道の下で丸まっていた。雨が窓を叩く音がうるさかった。



 二学期が始まり、子供たちが学校に戻ってきた、黒猫の姿は見えなかった。


 十月のある日。小粒の霰が窓を叩いた。「クロコ、どこに行ったのかなあ」誰かが言った。皆の視線が、自然と廊下の方へと向かった。


 次の日、再び黒板には「天気・霰」と書かれ、隣には猫の絵が描かれた。気持ちよさそうに丸まっている。



 学校近くの家で、黒猫が窓の外を見ていた。視線の先には校舎がある。


「キャットタワーを買ってきたぞ! なあ、アラレ、こういうのは好きか?」


 家の主人が、大きな箱を持って部屋に入ってきた。黒猫は少しだけそちらを見て「にゃあ」と鳴いた。


「うちの中はあったかいだろう? これからはずっとここにいていいからな」


 霰の降る日、凍えている黒猫を見てこの人は放っておけなかった。家につれて帰り、飼うことにしたのである。


 十二月のある日。アラレはじっと窓の外を見ていた。雪が舞っていた。視線の先には学校があった。


「外は寒そうだなあ。そういえば昔は、積もったら運動場で雪合戦とかしたな」

 



 雪の勢いは強くなっていった。子供たちは窓の外を気にしてそわそわしている。そんな教室の黒板には今日も、「天気・霰」と書かれていた。

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霰の日 清水らくは @shimizurakuha

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