家賃の代わりになるならば

@pehis

第1話 犬を探せば良いのなら

探偵に免許はいらない。


大学を卒業し、定職に就かぬまま早一年。

就活のエントリーシートを投げ出して僕は今、犬を探しています。


まず初めに、交番に行きました。


「すみません、探し物をしてまして」

「はいはい、何をお探しで?」

「職です」


思わず深層心理が出てしまって、追い返されてしまいました。


はぁ。

困りました。

このだだっ広い大都会。国家権力の後ろ盾もなく、一体どうやって犬一匹を探せばいいものやら。

財布ならともかく相手は動物。こうしている間にも、もしかしたら移動して今頃、県境にいる可能性だってあります。


遠くは流石にまずい。だって車を持っていないから。


駐輪場に停めてある自転車の前輪のパンクすら直せないというのに、どうして四つもタイヤがついた乗り物が買えるでしょうか。


そうこう考えている内に、川辺に辿り着きました。


冬が差し迫った土手は、冷たい風が直に吹いていて非常に寒いです。落ちていく夕日の日差しが水面に当たり、キラキラとした反射を浮かべています。


そこに犬が一匹、佇むように座っていました。


「ああもう。弁慶さん。探しましたよ」


僕が声をかけると、弁慶さんは応えるように少し頷いて、しっぽをぽんと揺らしました。


弁慶さんは月に一度、必ずふらっとどこかへ出かけます。

弁慶さんは大家さんの飼い犬で、いつもは犬小屋でのんびりされているのですが、毎月の15日だけはどこかへお出かけするのです。


そのたびに僕は大家さんから探偵業務の依頼を受けるのです。


「弁慶さんを探してきてくれないかしら」


依頼料の代わりに家賃を免除してあげる、と最後に必ず添えて僕に依頼してきます。


だから僕はこの日ばかりは、エントリーシートを投げ出して、弁慶さんを探しに行くのです。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

家賃の代わりになるならば @pehis

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る