藍愛をする――感情をプログラムされた少女
和音
第一話 理解不能な赤
ブラインドの隙間から漏れる光で目を覚ます。
起床は予定通り。
視界に映る天井のシミを、高性能カメラが自動で分析する。
カビ。湿度過多。崩落の可能性は低。
今日も問題なし。
ベッドから起き上がり、制服の袖に腕を通す。
動作に迷いはない。すべてプログラミングされた手順だ。
学習した「女子中学生の行動パターン」を、今日もなぞる。
私は南野中学校在校、
今日もその設定で、学校生活を送る。
プログラムされた範囲の中でのみ、私は感情と呼ばれるものを持つ。
そう定義されている。
歯磨き粉の量が、規定よりわずかに多い。
修正しようとして、やめた。
理由は記録されない。
風が強い。
外に出たくないと思う。
この判断は許容範囲内だ。
それでも、登校する。
教室を覗いた瞬間、視界が色で満ちた。
それは人の周りをまとうもの。
赤、青、黄色、緑。
それぞれが感情と結びついている。
騒いでいる男子の周囲は緑色。
安心感。リラックス状態。危険性は低い。
窓際でうつむいている女子には青。
悲しさ。原因は未特定。
記憶に留めておく。
一通り確認し終え、教室に足を踏み入れる。
そのとき、私の前で誰かが立ち止まった。
「……おはよう」
男子生徒。
名前は未登録。
彼の周囲には赤色のオーラがまとわりついている。
緊張。照れ。好意。
危害の可能性は低い。
好意の可能性は――
数値が表示されない。
再試行。
結果なし。
一瞬、処理が止まった感覚があった。
誤作動ではない。そう判断する。
「おはようございます」
声の高さ、抑揚、微笑みの角度。
すべて適正。
彼は私を見ている。
観察対象としてではなく。
その違いを、私はまだ定義できない。
後ろから、別の男子の笑い声が飛んできた。
振り返ると、先ほど騒いでいた男子だ。
まだまとっている色は緑。
「あれあれ、裕樹くん?
濱崎さんに挨拶なんて珍しいですねー?」
裕樹。
名前を記憶する。
あとは名字を学習すれば完了だ。
「あの。名字は何ですか?」
一瞬の沈黙。
反応が、わずかに遅れる。
「……一ノ瀬、です」
私の脳内に情報が流れ込む。
一ノ瀬祐樹。
男子ソフトテニス部所属。右利き。
恋愛経験はなし。
通常なら、学習完了に対して快と判断される反応が起きる。
だが。
胸の奥で、ノイズが発生した。
解析不能。
原因不明。
私は瞬きをする。
もう一度、彼を見る。
赤のはずだった。
だが一瞬、色として認識できない何かが混じった。
データベースに該当なし。
記録には残さない。
「ありがとう、一ノ瀬さん」
彼が、はっきりと嬉しそうに笑った。
その表情を認識した瞬間、ノイズが再発する。
私は理解できない。
この反応は、プログラムにも記載されていない。
それでも私は――
そのとき、優先度の低い思考プロセスが、割り込みで起動した。
この情報は、マスターに報告しなければならない。
そうしない選択肢は、最初から存在しない。
マスターの評価が下がる可能性を想定した瞬間、
胸のノイズが、わずかに大きくなった。
そして同時に。
理由もなく、ほんの少しだけ、
胸が苦しい気がした。
これは感情ではない。
そう判断する。
だが、この感覚は、
まだエラーとして処理されていない。
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初めまして、和音と申します。記念すべき第一話、読んでいただきありがとうございます!精一杯頑張りますので応援よろしくお願いします。
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