私は人間のギルドの最後の最強の魔法使いに転生し、世界を支配することに決めた

Gatama

第1話 - アルヴァシア・ファンタジーの世界

「このゲームの世界は……私が、支配するためにある」


アルヴァシア・ファンタジー。


日本で爆発的な人気を誇る、有名企業が開発したMMORPGだ。その世界を長年遊び続けているプレイヤーの一人がいる。高校生の少女――桃崎透花


(ももざき・とうか)。


「まさか……アルヴァシア・ファンタジーを、もう十年も遊んでいたなんて」


透花は、どこか見覚えのある空を見上げながら、静かに呟いた。このゲームが正式サービスを開始した当初から、彼女はずっとログインし続けてきた。そして今、操作しているのは――


彼女自身が最も愛し、誇りに思っているキャラクター。


自ら築き上げたギルドの中で、最強の魔女として君臨する存在だった。白いローブに、白い魔女帽。背には、青く輝く三日月のエンブレム。


長く流れる青髪。氷のように冷たい蒼い瞳は、見る者を圧倒する。すべてが、透花自身のこだわりで作り上げたキャラクターだった。


「もう夜の九時なのに……誰もログインしてこないのね。この三日月迷宮で、今は何をすればいいのかしら……」


私は小さく息を吐き、迷宮の中を歩き始める。


――三日月迷宮(クレセント・ラビリンス)。ここは、私と仲間たちが設計し、創り上げた特別なダンジョン。迷宮内では、雇われたNPCたちが静かに働いている。

その多くは、迷宮の支配者たちのために作られた存在だった。


「このキャラクターは、私の理想そのもの。私の名は――ルナ・フォルカ。コレクター・ウィッチよ。悪くない名前でしょう?」


私は、そう宣言する。桃崎透花は、アルヴァシア・ファンタジーの住人ではない。

だが――ルナ・フォルカは違う。三日月迷宮の創設者であり、支配者の一人として、この世界に確かな存在感を持っていた。


私は、ファンタジーゲームでミスをしない。特別区画へ足を踏み入れた瞬間、視線を感じた。


そこには――


私と瓜二つの姿をしたNPCが、静かに立っていた。違いがあるとすれば、彼女が上品なメイド服を身にまとっていることだけ。


「……ドッペル・リーガー、ね。カステロ・ザザザが作ったNPCらしいわ」


私は低く呟く。豪華な柱が並ぶ大広間へと歩みを進める。ドッペル・リーガーは、私のすぐ後ろを付き従ってきた。彼女は、三日月迷宮の支配者を守り、常に傍に仕える存在だ。金で装飾された高級なオブジェの数々。だが、私は天井の装飾に目を向け、足を止めた。


「……ヴェディゴ・バラン。装飾のセンスは、やっぱり微妙ね。ここは支配者の玉座の間でしょう?」


私は背後のNPCに命じる。


「ドッペル・リーガー。二時間以内に、この部屋を作り直しなさい」


「かしこまりました、ルナ様。任務についていないラミアたちを動員し、速やかに再装飾を行います」


彼女は深く頭を下げた。私は振り返り、冷たい視線を向ける。


「迷宮の外に、変わった動きは?宝を狙うプレイヤーへの対策は必要よ」


「バザグチからの最新報告は、まだ届いておりません。現在、周辺プレイヤーの行動を再調査中です、ルナ様」


「そう……。ヴェディゴ製とはいえ、バザグチは優秀ね」


私は小さく微笑んだ。


「それに……もうすぐ、大型イベントが始まる」


胸が、わずかに高鳴る。放課後、すぐにログインしたのも、そのためだ。私は誰よりも早く、新しいイベントの空気を味わいたかった。


ドッペル・リーガーが部屋を出ると、私は七つある玉座の一つに腰を下ろす。


「……少し、浮かれすぎかしら?」


その瞬間――


見慣れない通知が、視界に現れた。アルヴァシア・ファンタジー

最新アップデート ver.10.10


[OK]を押して更新を開始します


「……え?」


私は困惑する。


「イベントの更新?開始は、まだ数日先のはずじゃ……」


バグの可能性も考えた。だが、このゲームでそれはほとんどあり得ない。


「……確かめるしか、ないわね」


私は指を伸ばし、[OK]を押した。


――次の瞬間。


視界が揺れ、頭が重くなる。身体が言うことを聞かない。


「な、なに……?私……動けな……」


闇が、すべてを覆った。


「ルナ様!ルナ様! どうかお目覚めください!」


「……う、ん……?」


私は目を開けた。身体は、確かに玉座にもたれている。迷宮の景色も、何一つ変わっていない。


だが――


「ドッペル・リーガー……?大丈夫よ、私は平気」


不安そうな表情の彼女が、すぐ目の前にいた。


「ご無事で何よりです。突然意識を失われたので、とても心配いたしました」


私は立ち上がろうとして――違和感に気づく。触れる感覚が、あまりにもリアルだった。管理者コールも、使えない。


「……冗談でしょう……」


私は、はっきりと理解してしまった。


私は――アルヴァシア・ファンタジーの世界に召喚されたのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る