晴れ男?雨女?

惟風

不届者はおしまいです

ほろくん遅いなあ……」


 駅前広場のベンチで、私は何度目か知れないため息をつく。見上げると抜けるような青、雲ひとつない快晴。でも私の心の天気は曇り空。

 だってデートの待ち合わせ時間はもう三十分以上過ぎている。メッセージに既読はつかない、電話にも出ない。でも、電車に乗っている間スマホはサイレントにしていて通知や着信に気づきにくいって言ってたからこっちには向かっているはず。そうだと思いたい。

 恋人の幌仁谷くんはちょっとだけ遅刻癖がある。本当にちょっとだけ。別に時間にルーズなわけじゃない。いつもは私より早く来ていることも多いくらい。でも、何せ彼はとってもお人好しで困っている人を見つけるのが上手くてちゃんと面倒みてあげる性質で、待ち合わせ場所に到着するまでにベビーカーを階段の上まで運んだり拾った財布を交番に届けたりおじいさんを道案内してあげたりする。遅れる理由が理由だから怒る気になれないし、遅刻しちゃった日はその後ちゃんとフォローしてくれるからあまり気にしていない。

 そもそも私と幌仁谷くんとの出会いだって、私が残業後に帰宅する途中の電車で痴漢に遭って、怖くて固まっているのを撃退してくれたっていう彼の人助けエピソードからだ。


「とはいえ、なあ」


 俯くと白いパンプスのつま先が目に入る。買ったばかりでぴかぴかでツヤツヤで、幌仁谷くんにも早く見せたいなと思うのに。

 遅れるなら一言くらい連絡が欲しい。いつもなら軽くでも知らせてくれるのに何もないということは、よっぽどのトラブルに巻き込まれたのかもしれない。でも連絡がつかないから幌仁谷くんが今どこにいるかわからなくて助けにも行ってあげられない。

 もう一度見上げると、お空はやっぱり晴れている。幌仁谷くんが近くにいるからだと思う。駅の方を見てもまだ彼の姿は見えない。人通りが多くて騒がしい。何人かこっちの広場に向かってくる。走ってる子供達の声がきゃあきゃあ聞こえてくる。


『僕、晴れ男なんだ』


 彼はそう言って憚らない。確かに彼と会う日は大抵晴れている。


「でも、晴れ男っていうより」


 不意に頭上に影が差す。瞬間、突然の雨が降ってくる。傘を持っていない私は見事にずぶ濡れになる。もう! と思う。


「遅れちゃってごめん!」


 背後からかけられる申し訳なさそうな声。こんな思いさせて、今日こそは許してあげないんだからね! と絶対に言おうと思う。

 でも、振り返って彼と目が合うといつも許しちゃう。惚れた弱みってヤツだ。


「早くに家は出たんだよ? でも電車乗る前に爆破テロしようとしてる男がいてさ。速攻で片付けたけど乗り遅れちゃって。次の電車待ってる間に単独犯だと思ってたテロリストが複数だったらしくてまだホームに何人かいてさー。もう最悪。で、やっとここに着いたと思ったら通り魔が君に向かって刃物振り回そうとしてて危ないとこだったー。怪我してない?」

「大丈夫だよ。守ってくれてありがと」


 ふふふ。私は思わず吹き出す。思い出し笑い。


「何?」

「私達が出会った時も、同じように降らせてくれたなあって思って」

「懐かしいね」


 彼は白い歯を見せて笑う。爽やかでとっても素敵。早くも私の心の雲は消えかけている。私達の足元には、人間だったであろう肉の塊が転がっている。

 あの時も、上半身を齧られた痴漢の身体から勢いよく吹き出した血が車内をたっぷりと濡らしていた。

 あの時から、私の心に雨は降らない。


 幌仁谷くんはサメだ。

 私だけのウェザー・シャーク。

 彼といると私の心の天気はいつも快晴。ところにより不届者にはが降るでしょう。


 さすがに何も無しで遅刻を許すのは悔しいから、今日はこれから可愛いワンピース買ってもらっちゃおうかな。

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