アンダー・ザ・レインボウ

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アンダー・ザ・レインボウ

『雨のあとに虹がかかる』という例えが嫌いだった。


言いたいことの主旨という話ではない。を理解しようともしないで、例え話に使うのが駄目だ。


大和はそんなことを言うタイプではない、というのが、ただの思い込みだということが、よくわかったところだった。


雨のカフェ。向かいに座っている大和は、アルコールも入っていないのに、いま自分が放った言葉に酔った顔をしていた。


「大和、それ本気で言ってる?」

「もちろん。辛いことや嫌なことのあとには良いことがあるもんだよ。由香里にも良いことあるって」


溜息が出てしまう。


「あのね、虹っていつ見えるか知ってる?」

「だから、雨のあとだろ」

「正確には違う。自分の後ろに太陽があって、自分の前に雨が降ってるとき。だから、朝か夕方にしか見えない」

「詳しいな。そうだよ」

「水の粒のなかで光が屈折して、色が分かれるんだけど、問題はね、ってこと、考えてないでしょ」


大和はやや不機嫌そうな顔をする。


「どういう意味だよ」

「虹は雨のあとのご褒美じゃないの。雨なんて一滴も浴びなくても見れる。それに、虹が出たら、その下は必ず大雨なんだよ」

「それって揚げ足取りじゃないのか」

「自分は暖かい晴れ間にいて、ああ綺麗な虹、って写真なんか撮って。その下には傘も無いまま濡れているひとが、虹すら見れないひとがいることなんて誰も考えない」

「なんだよ、ひとがせっかく言ってやってるのに!嫌味が言えれば満足か!」


大和は、テーブルを平手で叩いた。雨宿りも兼ねてだろう、いつもよりも多い客が、一斉にこちらを見る。ここで負けてはならない。目線は大和に固定した。


「イジメってさ、ターゲットだけがすり変わってそのまま続いたりするんだよね。ひとりめは、ああ助かった、雨が止んだ、って胸を撫で下ろす。ふたりめが泣いているのにね。ねえ、私の背中の跡、なんでついたと思う?」


私の背中には、当時の数針縫った傷跡が残ってしまっている。大和はそれを何度も見ていた。知らないとは言わせない。


「昔のことを出すのは、」

「卑怯だとでも言うつもり?あなた、何がしたいの?それなら、いまの話をしようか」

「なんだよ」

「『うまいことを言う自分の話に感激する』以外だと怒り始めるような相手に合わせて振る舞い続けるのって、あなたの言うところの『雨』でしかないわけ。雨の下だと虹がどうとかなんて呑気に言えない。さよなら」


伝票を取って、そのまま支払い、店員さんに謝ってから店を出る。まだ雨が降っていたが、傘も差さずにそのまま歩く。やっぱり大和は追っては来なかった。


雨のなかにいるときに必要なのは、傘を差し掛けてくれる他人でも、他人の上の雨が見せる虹への期待でもなく、雨のなかでも歩く意思だ。


この時間なら、この雨は、西にいる誰かに虹を見せているのかもしれない。

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