ep.7

「す、すげぇ……」


隻腕隻眼であんなに動けるってどうなってるんだ……

っと、そんなこと考えてないでとりあえず隠れないと……


辺りを見回すと茂みが近くにあった。

とりあえずここに隠れて……


にしても凄いな……あの熊もそうだが、それ以上にあんなに動く方が


ポンポン


「今いい所なんだ、邪魔しないでくれ」


おお! あんなデカイ身体でよくも空高く跳べるものだ!


トントン


「今いい所なんだから静かにしろって」


コツコツ


「グルァ」

「だーかーらー! 静かに、しろ……って……」


いい加減鬱陶しくなって後ろを振り返るとそこに居たのはクマ。

プロテージャーよりかは遥かに小さいが人と同じサイズのクマがそこにはいた。

ニッコリと笑うからこっちもニッコリと笑い返す。


ラブアンドピース。

世界は笑顔で平和に


「グルァァァァァァ!」


なるわけが無い!

思わず逃げ出そうとするが、


「グッ!」


クマが両手で背中を押さえつけてきて、地面へと倒れ込む。

なんとか抜け出そうと藻掻くが、到底じゃないが抜け出せるわけがない。

獲物を前にして舌なめずりでもしているのか、背中をそのご自慢の爪で怪我をしない程度に引っ掻いてくる。


クソッ! まだ来たばかりなのにこんな所で初死亡かよ!

デスペナルティとか確かあったよな……というかここで死んだらどうなるんだ……


そんなことを考えていると、視界にトランプの束が入った。

トランプの束……いつのまに……買った覚えも店に並んでいた記憶もない。

思わずソレに手を伸ばすと、トランプの束もまたこちらに寄ってきた。


【トランプの束】

〘トランプの束。54枚入り〙


[パートナー:トランプ]

〖トランプの兵士を召喚することが出来る

1度カードを引くと5分のリキャストタイムが発生する

引ける枚数は1回につき1枚のみ

カードの柄によって性能は変化する


1~10:数字に応じた数の兵士を召喚できる。数字が大きくなるにつれて数は増えるが性能は落ちていく


ええい、長い!

とりあえずカードを引けばいいんだな!

迷うことなくカードの束の1番上を捲る。


「スペードのエース……」


瞬間カードが光り、背中にのしかかっていた重さが消えた。


「グルァ!!」


立ち上がるとそこには鎧姿の騎士がいた。

銀の鎧を全身に纏い、ヘルムで頭をすっぽり覆っている。

左手には盾を右手には剣を持っているようで、後ろからはそれしか判断できない。

クマが爪で切り裂こうとしても盾で防ぎ剣で攻撃する。

だけど、それじゃ時間がかかるし、他のクマやモンスターが来ないとは限らない。

どうしたら……


「ん?」


気づくと目の前には2枚のカードがクルクルとゆっくり回っていた。

ジョーカーのカード……

恐る恐る触ると、カードが光り、


「……え?」


カードがあった場所に2人の子どもがいた。

2人とも同じ格好をしていて、黒の燕尾服に黒のズボン、手にはステッキを持ち、頭にはシルクハット。

顔は真っ黒に塗りつぶされていて分からないが、唯一判別できるのが口元だった。

2人とも赤い三日月のようにニヤリと笑った顔をしてはいるが、片方は左が上に、もう片方は右が上になっていた。


「……助けてくれるならなんでもいい。あの騎士を手伝ってくれ!」


2人は俺の言葉に親指を立てて1度頷くと、たたたっとクマの元へ走っていった。

片方がクマの後ろに浮かび上がり肩をトントンと叩く。

クマが不思議そうに振り返るが、そこには誰もいない。

なぜなら振り向く瞬間に地面へと降り立っていたから。

もう片方も浮かび上がり、反対側からまたトントンと肩を叩く。

クマはまた振り返るが、当然いるのは少し離れた所にいる騎士と俺だけだ。

叩ける距離では無いことを理解したクマが首を傾げていると、肩を再び叩かれる。


回数が重なる度にどんどんスピードが上がっていく。

終いにはクマの首だけ左右に動くようになっていたしな。

結局クマが何度も何度も振り返るのを繰り返し、目を回して地面へ倒れ込んでしまった。

そこを騎士が心臓を一刺しし、首をハネてようやく終わった。


「ハァ……」


大きくため息をついてからようやく安心した。

本来は平原とかで戦闘の経験を積んでからこの森に入るのだろう。

そこをすっ飛ばしてきたもんだから、そりゃこうなるよな……

ふと気づけば騎士の姿は消えていて、手元にはトランプの束だけが残っていた。

これが俺のパートナー。

召喚系の武器……なのか?

王都に着いたら詳しく見るとして、


「なんでまだいるんだ?」


そこにはまだ子どもが2人残っていた。

騎士と同じように消えると思っていたんだが……違うのか。

2人は顔を見合わせるとトコトコと俺に近づき、背中を押すようにミウロゥの元へ行くのだった。


「と、言うことがあったのさ」


ミウロゥがプロテージャーと戦っている間、俺にどんなことがあったのかを話すと、彼女は項垂れてしまった。


『護るって言っておきながらリベットは他のクマに襲われてる……不甲斐ない……』

「いやまぁ、プロテージャーの攻撃は飛んでこなかったし、周りに気をつけなかったのは俺のせいだ」


事実戦いに興奮していたのは間違いない。

おんぶにだっこではいけないはずなのにな。


『それでも、護るって言ったのは私なんだから護り通さないといけないんだよ』

「ミウロゥ……」

『勝手なこと言ってばかりで悪いけど、王都に辿り着いたらまたリニダーの街まで送るよ。そこでお別れだ』

「また急だな……どうしてだ?」

『私も修行の旅にでようかなって。多分浮かれてたんだよ。キミと話をしていてすごく楽しかったし、あの頃の楽しさを思い出したから……まだちゃんと戦いも知らないキミを巻き込んじゃった……』


随分と項垂れてしまった。

うーん……


「まず勘違いしてると思うんだが、俺は巻き込まれたなんて思ってはいないぞ。そもそも嫌なら最初にキッパリ断ってるしな」

『……うん』

「それにほら。俺も戦える手段を手に入れたわけだし、少なくとも護られるだけじゃなくなったんだぜ? いやまぁ、ミウロゥやアイツらと比べるとまだまだなんだが……」

『でも……』

「それにさ、楽しみにしてるんだぜ。言ってただろう? 火山の奥で竜王と会ったって。俺もいつか見てみたいんだよ、竜の王様」


現実でも竜が出るゲームはあったし、やったこともあったが、ここまでリアルなVSWだと違ってくるんだろうなという予感はある。


「俺は色々な場所を見て回りたい。確かに自由に旅はしたいとは思う。でもよ、スリルがあってもいいと思うんだ。そっちの方が面白そうだろ?」

『リベット……』


今回は流石に突発すぎたが……このトランプがあれば俺だって戦える、自分を守ることもできる。


「それにさ、ミウロゥと一緒の方が楽しそうだしな。いつか連れて行ってくれよ、火山の奥にさ」

『……分かった。いつか必ず竜王に合わせてあげる。他にももっと色んな場所を巡ろう』

「いいね、そうこなくっちゃ。ミウロゥも知らない場所だってあるんだろう? いつか行ってみようぜ」

『そう、だね。うん、そうしよう。いつか皆と合流してこの世界を巡ろう』


ニコリとミウロゥが微笑む。

何とかなってよかったぜ……


『それでその子たちは?』

「このトランプからでてきたんだよ。さっきはクマに襲われてたからじっくり見られなかったけど」


今なら確認できるな。


【トランプの束】

〘トランプの束。54枚入り〙


[パートナー:トランプ]

〖トランプの兵士を召喚することが出来る

1度カードを引くと5分のリキャストタイムが発生する

引ける枚数は1回につき1枚のみ

カードの柄によって性能は変化する


スペード:騎士となりて主を護る

ダイヤ:商人となりて主に献上する

クローバー:農兵となりて主の道を造る

ハート:僧兵となりて主へ癒しを与える


1~10:数字に応じた数の兵士を召喚できる。数字が大きくなるにつれて召喚できる数は増えるが性能は落ちていく


J、Q、K:各種1人だけ召喚できる

J:主に勝利をもたらし、敵には死を与える

Q:愛しき子に愛を与え、敵には憎悪を与える

K:我が同盟者に知恵と財を授け、敵対者には死を与える


ジョーカー:2人で1つ。我らが主に永遠の誓いを。仇敵には狂乱と後悔を〗


……うーん?


『中々面白い能力……かな?』

「面白いといえばそうだが……」


数字はまだわかるが、後半はよく分からんな?


『まぁ、この子達がそのジョーカー? みたいなのは確かみたいだね』


ミウロゥがそう言えば、その通りだと言わんばかりに親指を立てて頷いてるし……


「……なんでカードにならないんだ?」

『一緒にいたいんじゃない? キミの傍から離れようとしないし』

「……まぁいいか」


困るものでないし。

あ、でも困るな?


「名前がわからないと軽率に呼べないな……」

『確かに……2人ともほとんど同じだしね』

「うーん……」


半月のような口元……右と左……


「リルナとレルナ……でどうだ?」


左に上がってる方がリルナ、右に上がってる方がレルナ……伝わってるのか?

2人は顔を見合わせ1度頷くと、


「「ありがとうございます、お父様」」

「お、あうん、うん? 喋れたのか!?」

『どう考えてもそこじゃないでしょ』


ミウロゥが呆れた顔で言ってくるが、てっきり喋られないとばかり思っていた。

ジェスチャーで意思表示……っぽいのをしてたもんだから……


「お父様が私たちに名前を付けてくださった」

「私たちは1つの個として存在することになりました」

「「私たちは2人で1つ。我らがお父様に永遠の誓いを。お父様の敵は我らの仇敵。ジョーカーの名において愉快で素敵なショーをお見舞いしましょう」」


怖いよ。

なんか早まったか?


「なぁミウロゥ……」

『頑張ってね』


他人事みたいに……他人事ではあるんだけどさぁ……

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