ep.2

目を開けるとそこは


「……草原」


だだっ広い草原のど真ん中にポツリと1人で立っていた。

多分この先に最初の街があるんだろうけど、辺りを見渡しても誰もいない。


とりあえず歩くか。


歩いてもモンスターはいないし、これがチュートリアルなのだとしたら、とんでもないゲームだと思う。

けど、これはVSWで自分だけのメインストーリーを組み立てるゲーム。

既にストーリーは始まっている……のか?


ウィンドウを出して確認をする。

ヘッドギアが届くまでに調べたところ、VSWでウィンドウを出す時は空中で横に線を1本引くだけでいい。

すると、その線を境にして上下にウィンドウが展開される。


「ほー、ここらは向こうと変わらないんだな」


ウィンドウのソレはいつも見ているものと変わりなく、違うのは


【リベット】 【ジョブ:】

【武器:なし】

【持ち物一覧】

【パートナー:なし】

【所持金:500セーリ】

【システム】


という表記になっているということ。

ジョブは確か始まりの街を出た時に決まるんだったか?

武器は様々な種類があるらしくて、この世界、フリヘイトにおける金銭の単位がセーリになっている。


アイツからあとで送られてきた初心者向けガイドページを読んでいてよかったな……

1年とはいえ先達からの情報に助かった。


「おや、この先になにかようかな? 異界のヒトよ」


ウィンドウを眺めてぼっ立ちしている俺に話しかけてきたのは


「異界の人……俺か?」

「そうだとも。お前さん以外に誰がおる? ワシとお前さん以外に誰かおるとしたらそりゃゴーストの類だろうて」


小さな女の子だった。

黒いローブを着て頭にはとんがりハット、想像する魔女の格好をした小さな女の子、なのにしゃべり方は随分と年寄りっぽい。


「すまんな、ここに来たのはついさっきでな」

「それはそれは。こんな僻地に異界のヒトがくるのはさほど珍しくはないが……迷い込んできたのはお前さんが初めてじゃな」


異界の人、がくるということは、恐らくここにはプレイヤーが訪れる何かがあるのだろう。

クエストか、素材か。


「どうじゃ? 村に寄っては行かんか? と言ってももうとうの昔に寂れて今はワシと仲間達しかおらんがな」

「仲間?」

「そうじゃ。ワシ達は昔旅をした仲でな。脳筋バカとシスターと本の虫と可愛くて勇気のあるワシの愛おしいヒトで随分と長い旅をしたものじゃ」

「ほー……随分と濃いメンバーだな?」

「ホッホッホッ、元の始まりを辿ればワシとシスターとバカは後から参加したんじゃがな。まぁ、その話はさておき、もうすぐ見えるぞ」


遂にただのバカになったな?

とか思っているとたしかに村が見えてきた。

木造の一戸建て住宅? って言うんだっけか。

それがあちらこちらにポツンポツンと建ってはいるが……


「随分と……ボロボロだな?」

「……かつて悲惨な出来事があったそうじゃ。伝え聞いただけじゃから当時のことは何も分からなんだがな」

「そう、なのか……」


家の近くを通ると今にも崩れ落ちそうな感じがしてそれがどことなくリアリティに溢れているような感じがして


「着いたぞ。ここにワシの仲間がおる」


ふと見上げるとそこには他の家より少しだけ大きな家が建っていた。

村ということは村長とかの家だったのかもしれない。


「帰ったぞ」

「遅かったな。どこぞで野垂れ死んだかと思っていたところだ」

「ハッ! お前のような脳筋バカと違ってワシには魔法がある。お前とは違うのだよ、お前とはな」


扉を開けた先に待っていたのは筋肉隆々の大男だった。

が、急に目の前でバッチバチに火花を飛ばし始めるなよ……


「客か? こんな僻地にまでやって来るとは随分な物好きだな」

「ですが、今までに見た事のない方のようですね。旅のお方ですか?」


大男と少女が互いに言い争いながらどこかへ消えたと思ったら、家の中から眼鏡をかけた神経質そうな男とシスターがでてきた。


「あー、こっち……フリヘイトに来るのが初めてでな。気づいたらそこの平原にいたんだ」

「異界からの旅人でしたか。それはそれは、また随分なところに飛ばされてしまいましたね」

「随分とは、言ってくれるじゃないか。これでも俺たちの故郷なんだがな」


冗談ですよ、とシスターがクスクス笑う。


「まぁなんだ。何も無いところだが、茶くらいはだせる。あのバカ2人が戻ってきたら近くの街まで送ろう」

「いいのか?」

「この辺りはまだ平和だが、村の先にある森は危険だからな。時々異界人が森に入ってはコテンパンにやられているそうだ」


肩を竦めながらそう言う男。

多分森の奥に何かがあるんだろうな。

あとで軽く調べてみるか。


「自己紹介がまだだったな。俺はリベット、異界人でこの世界を旅したいと思っている」

「俺はセトル。一応は賢人をやっている者だ」

「私はソレー。シスターをしております。リベット、貴方の旅が無事であることをお祈りしています」


シスターに祈られるのは初めてだが、少しいいかもしれないな。


「あぁ、そうだ。あともう1人いるんだが、少しワケありでな。見ても驚かないでくれ」

「多少のことでは驚かないつもりだが……」

「……ミウロゥ、客だ。リベット、彼女はミウロゥ。かつてこの村で起きた惨劇から生き延び、呪いに苛まれ、復讐の旅の果てに敵討ちも出来なかった女の子だ」


セトルが少し横にずれ部屋の奥を見せてくれた。

そこには正座をし目を瞑っている少女がいた。

髪は……真っ白か?

よく見ると右の袖がダランとしていて手も見えない。

セトルの声に反応したのか目を開けるも、右目が開くことは無かった。


とりあえず目の前の女の子、ミウロゥに倣って俺も正座をする。

彼女の横にはソレーが座り、セトルはどうするのかと思ったら、


「とりあえずあのバカ2人を呼んでくる。毎度毎度地面を掘り起こされちゃ困るからな」


と言って家から出ていった。

というかどんな喧嘩してるんだよ。


「ミウロゥはですね」

「ん?」


セトルが出ていったのを確認した後にソレーが言葉を紡ぎ始める。


「喋ることが出来なくなったそうです。呪いを受けた影響で」

「……その右目と右腕も、か?」

「セトルからはそのように。私も治療術が使えますし、その中には解呪の魔法があります。ですが……」


つまりはそれほど強力な呪いを掛けられたということ、か。

惨劇……


「さっきセトルがこの村で惨劇が起こった……って言ってたがそれが?」

「恐らくは」


隣でミウロゥも頷いているし、ここは合ってる、と。


「で、その呪いを掛けた相手を見つけだす旅に出た?」


首を縦に振る。


「復讐目的ではなく?」


もう一度縦に。


「ふーむ……ミウロゥ、俺もな旅をしたくてこの世界に来たんだ。良かったらどんな旅だったのか、俺と話しをしてくれないか?」


困惑の表情。

まぁ喋れないのに会話も何も無いわな。


「さっきみたいに首を振ったりするだけでいい。旅は楽しかったんだよな? そうか、そりゃいい。ミレーとセトル、あとは外で喧嘩してる2人にミウロゥ、合わせて5人か? そうだけど、違う? なるほど。他にも仲間がいたんだな? ヒト族……以外にもいた。となると……モンスターか? モンスターではある? ふーむ……ゴブリン……違う……妖精……合ってる、が他にもいそうだな? なるほどなるほど。となると、あえてのドラゴンはどうだ? いたのか!? すげぇな……俺も会ってみたいぜ……頑張れってか? 流石にドラゴンを仲間には厳しいだろうな。他はどうだったんだ? 例えば……あー、街とかどうだ? 山の麓、砂漠の街、海沿いの港町……砂漠はダメだな? オーライオーライ。なら海沿いはどうだった? 良かったのか? 良かったのか……王都をでたらとりあえずの目標にするか。王都、もダメそうだな? オーケー。なら旅で楽しかったこととかあり……そうだな。星はどうだ? 見る暇がなかった? 山の頂上とかで見る星空は綺麗……らしいぞ? いや、俺も見た事がねぇんだって。いつか見たいからこの世界を旅するんだよ。あとは……海か。船はどうだ? ダメそうだな。船酔い……なるほど、酔ってしまうのか。魔法で解決……あぁ、アッチも酔うのか。それじゃダメだな」

「随分と……話が盛り上がっているんだな……」


首の動きと顔の表情でこっちが一方的に話しかけていただけだが、後ろからセトルに声をかけられて会話は終了となった。

会話かどうかは定かではないが。


「まぁな。結構答えてくれるぜ?」

「……ミウロゥ……」

「そういえば最近知り合いからいい茶葉を頂いたのでした。セトル、手伝ってください」

「ソレー!?」


有無を言わさずにセトルを引きずるようにソレーは別の部屋へと行ってしまった。

後に残ったのは俺とミウロゥ、そして喧嘩してた2人。


「あー……そのなんだ。客人であるアンタを放っておいて悪かった。俺の名はミルリ。傭兵をやってる、よろしくな」

「リベットだ。異界人でフリヘイトの世界を自由に旅をしたいと考えてる」


差し出された手を握り返す。

ゴツイ手をしてるのに柔らかく握手を返してくるミルリは凄いと思う。


「次はワシの番じゃな。ワシは―」

「いつまでそのババ臭い喋りしてんだ。とっとといつものに戻せ」

「ば、ババ臭いとはなによ! あ、いや、な、なんじゃ!」

「言い直してる時点でボロが出てんだよ、チミっ子。見た目相応にしとけ」

「う、うるさいうるさい! アンタみたいな脳筋おバカに言われたくないんですけど!!」

「脳筋おバカとは失礼な! 頭の天辺から足の爪先までミッチリと筋肉が詰まってるだけだ!!!」

「それを! 脳筋おバカ! って言うんでしょうが!!」


喧嘩をするなら他所でやってくれ……


「あぁもう! いい加減ブチ切れた! ここで灰になりやがれ!!」

「いいぞかかってこい! 魔法ごとぶった斬ってやる!!」


チミっ子は杖を構え、ミルリは自身の背丈はある大剣を……というかただただデカすぎる鋼の棍棒だろ、アレ……


2人がぶつかろうとしたその瞬間、


間に剣が一振割り込んだ。


決して音を立てることなく、いつの間に剣を手にしたのかすら分からなかったが、確かに2人の間にいるのは


「ミウロゥ……」


隻腕で2人の間に割り込んだミウロゥ本人だった。


「あ、いや……その……い、家の中で武器を振るっちゃダメだわな……き、気をつけるよ……」

「あ、あの……その……ご、ごめんなさい……」


先程までの勢いはどこへ消えたのやら、急にしおらしくなる2人。

なるほど? 大体関係性が見えてきたな?


俺がそんなことを思っている間にミウロゥはミルリの脚を……あれ肩を叩こうとして届かないから脚なのか……というか腰までしか背丈ないしな……

ミルリの脚をポンポンと叩いて、チミっ子の頭を同じように優しく叩く。


満足気に頷くと元の場所に戻るではなく、俺の隣へと座り直した。

いや、なんで??


「あ……じ、自己紹介が遅れちゃったね……わ、私はヘクサ。こっちがいつもの感じだから……ゴメンね? こんな格好してるからあっちの喋り方の方が雰囲気でて……」


まぁ言わんとすることはわかるが……


「リベットだ。ただまぁ、家の中で喧嘩はよくないよな」

「ウグッ……ごめんなさい……あなたを巻き込むところだった……」

「いいよ。そうなったらそうなったでどうなるか分からなくて面白そうだし」


とか言ったら訳が分からないって顔をされた。

ミルリは共感したように頷くし、ミウロゥはキョトンとしてるし……


ソレーとセトル……早く戻ってきてくれ……

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