禁忌 (完結済み)
無名小説家ちゃん
第1話 End
『・・・12時2分。ご臨終です。』医者の死亡宣言により僕たちの介護生活は終わりを告げた。僕の息子は生まれながらに難病を患い、10歳でこの世を去った。
産婦人科医に勧められ、着床前診断を行った。結果難病と分かったのは生まれる前のことだ。妻の美幸と話し合い、結局産むことにした。僕が40歳過ぎで高齢だったこともあり、なかなか子供が産まれずやっとできた子供であったからだ。
やっとできた子供だったのに難病持ちとはついていない。自分の運命を呪うとともに自分の人生の罪を探した。人は理由のない不幸には耐えられない。常に理由を探し続ける生き物だ。自分の人生を振り返ってみる。・・・僕には18歳前後の記憶がない。当時、家族から自殺未遂をして記憶をなくしたと聞いている。自分の人生を終わらせることが人類にとって一番の罪なのかもしれない。考えれば罪なんていっぱいある。僕と妻の出会いは高校受験の塾だ。塾での出会いといっても生徒同士ではない。先生と生徒という関係だ。僕は数学の教師。妻は数学が苦手な生徒だ。妻が15歳の時僕は33歳。美幸は男なら誰でもうらやむ美人である。こういうことも神かなにかの逆鱗に触れたのかもしれない。
いやもっと物事は単純で遺伝なのかもしれない。僕の家系はみんな健康そのものだが、妻美幸の両親は美幸が幼い頃他界しているそう。詳しいことは聞けていないが、その後里親に育てられたらしい。美幸の両親が難病であればそういう解釈もできる。ただ、他人である両親ともに難病なんてあり得るのか。そもそも美幸は健康体そのものである。
こういったことをこれまで常に考えてきた。生まれたときに難病になる人として生まれてきた息子とどう接すればいいのか悩んだ。人間にはサンクコストバイアスというものがある。感情を注ぎ込み、手塩にかけた子供がなくなることは親にとって最大の悲劇であろう。僕は最初息子に嫌われる道に走った。息子を嫌いになるなんて無理、嫌われれば感情的に楽だからだ。また、嫌われると同時に短い人生の間、楽しませてあげたいという思いもあった。僕は塾講師で給料はそこまででもないけれど、趣味が何もない。子供にすべて給料を使うことが可能だ。この嫌われつつ、楽しませるという矛盾しているのか矛盾していないのかわからない2つの育児方針を自分なりにもって育てた。
しかしながら、人生は思い通りにいかない。息子は俗にいう『いい子』だった。飲食店で食べ終わると店の人に家族全員分の食器を持っていき、ごちそうさまでしたと言う。家族全員分の椅子をもとに戻す。ハンカチを忘れがちな僕のためにハンカチを持っていき、ハンカチを貸してくれる。パパが忘れてしまうから僕持っていきたいんだよと言っていた。家に戻ると家族の分靴を整えてくれる。僕や妻が教えたわけじゃない。自分でやっているのだ。
こんな息子に厳しく指導なんてできるはずもない。なぜか?自分の方が低レベルだからだ。僕は小学校の時の先生から親は勉強ではなく、しつけを教えるべきみたいなことを言っていたのを思い出す。僕から教えるべきしつけは何もなかった。
息子の難病は進行性であり、すぐに寝たきりになるのではない。幼稚園までは多少体が弱いくらいで済んでおり、気持ち的には楽だった。難病の研究は日夜進んでおり、治る可能性も抱きながら育児をすることができた。
しかしながら小学校以降は徐々に病気は進行、学校に行けなくなる日が増加、病院で寝たきりになることが多くなり、ついにこの日が来てしまった。薬が開発されることもなかった。
こういう日は感傷に浸り、考え事に更けていた方がいい。妻とも話すことはなにもない。ポジティブに励ます言葉をかけるべき?『これからは二人だけでやっていこう』『つらいことも人生にはあるよ』『僕たちが悲しんでいると息子も悲しむよ』・・・こんな単純じゃない気がする。複雑に入り乱れるこの感情を安易な言葉にすることも憚られる(はばかられる)。何も話せない。妻も泣きどおしだ。
普通の他界じゃない。このことは生まれる前から僕たちは知っていた。いろいろな感情が入り乱れる中、僕はさっきの問を考えることにした。一種の逃げである。なにか考えていないと気持ちが休まらないのだ。
僕の人生、僕の罪、そう・・・こうなった理由付け。
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