風の最強魔法使いジョーカー

桜井悠人

第1話 風の最強魔法使い

 青年は埃が被った、ただ寝るだけの部屋で本を読んで居た。

 積み重なった本がある意味、この青年の歴史とも言える。

 黒髪を短めにまとめ、黒い目は虚ろ気だ。

 まどろみにも似た気怠さの中、ドアの下から手紙が差し込まれる。

 やれやれ、また仕事かと青年はうんざりする。

 何せ、この青年の仕事は汚れ仕事ばかりなのだ。

 没落した家の最低限の生活と引き換えに、才能を見出された彼は今の暮らしを送って居る。

 面倒そうに手紙の封を開けると青年は驚愕した。

 そこには、あり得ない筈の実家からの手紙があったからだ。

 内容は、既に父は亡くなった事、母は後を追う事、これまでの感謝と謝辞、そして、これからは自由に生きて欲しいと書かれていた。

 青年は日付を確認した。

 随分、前だ。

 手紙にあった執事に託したとあったので、苦労の末、送り届けられた物なのだろう。

 青年の目に怒りが宿る…

 そのまま自身に命令を下す者の元へと向かう。

 着いた屋敷の主の執務室へと向かうと、如何にも軍人といった見た目の男が書類に目を通して居たが突然の来客に目をやる。


「なんの用だ? 仕事はまだ無いが?」


「知ってたんですか?」

 青年が手紙を机に放り投げると一瞥した男は、ため息をつく。


「で?」


「知ってて知らせ無かったのですか?」

 

 あくまで青年の声は冷たい。


「金の払い先が無くなっただけの事を知らせる義務があるのか? 我々の関知する所ではない!」


「なら、これから僕の行為にも関知できまい」

 

 ザシュ!

 

 魔法の刃が男のクビを落とすと青年は部屋を出た。

 恐らく事が知れるのに時間は掛からないだろう。

 

 皆殺し…青年の頭に過ったが突然メイドが青年の


 腕を引いて走り出した。

 驚いて声を掛けると黙って着いて来いと、二の句を繋げさせない。

 続いて青年が驚いたのは男、名前をバルバトスと言うが彼の屋敷の隠し通路を正確に知って居た事だ。

 地下通路を走り抜け、ようやく一息ついた所で質問に答えてくれた。


「君は?」


「王国銃士隊所属アンナだ」


「僕を助けたのか?」


「我々は一人でも味方が欲しい…バルバトスの裏から糸を引いてる者が居る。しかし、並の相手では無いのだ!」


「成る程、僕が味方になる可能性は?」


「全部潰したくならないのか? 騙されてコキ使われて? 我々なら協力出来る!」

 

 青年は少し考えこんだ。

 青年が考えこんでる内に、この世界の魔法について説明しよう。

 まず、火、地、風、水の四元素からなる。

 もとはタロットが語源となり別の名があったが、今はトランプのハンドに例えられ、それぞれ扱える属性の強さ、分かりやすく説明すれば、重ねられる属性、『火、火』、『水、風、風』と言った具合に種類の多さが強さを決める。

 ワンカード、ツーカード、スリーカード…

 そして、青年ことジョンのジョーカーがある。

 これは異常なのだ。

 フォーカードが限界の中で更に重ねられる文字通り最強のハンドなのだ。

 さてジョンも答えを出した様だ。


「まあ、やる事も無くなったから君達に付き合うよ」


「なら早速、隊長と会って欲しい!」

 

 地下水路を走り抜けると扉があった。

 規則的にノックすると扉が開けられ、中には銃士隊の作戦室があった。


「首尾は!?」

「ジョーカーが味方に付きました!」

 

 歓声が上がり、早速だが銃士隊長のアデールが握手を求めてきたので、し返す勢い作戦が説明される。


「これが地下地図だ…奴の屋敷にも繋がっている…ここだ!」


「ここは…大公オーギュストの屋敷辺りじゃないか」


「その通り、この地図を完成させるのに隊員が何人犠牲に成ったか…」


「話では魔物の巣窟だったはず」


「魔法を使えぬ我々、銃士隊の執念の賜物だ」


 この世界では魔法が使えぬ者は平民として統治されている。

 ジョンは没落貴族ながらも魔法が使える貴族なのだ。


「作戦は?」


「バルバトスを殺った以上、奴の屋敷は蜂の巣を突いた様に成ってるだろう…そこに重ねてオーギュストの屋敷にも襲撃を行う!」


「成る程、バルバトスを囮にオーギュストの隙を突くつもりか…甘いよ」


「何!?」


「僕達、暗部の人間が自分の部下が殺されるのを想定して無い訳が無い。 既に屋敷にはフォーカードの連中が配備されているよ」


「ならどうすれば…」


「どうも…僕一人で引き受け様じゃないか」


 アデールは目を白黒させて居る。

 この男は本気で精鋭のフォーカードを一人で引き受けるつもりなのか?


「その上で君達がオーギュストの屋敷を制圧すれば良い、王国魔法隊も出るんだろ?」


「確かにそうだが…」


「なら、それで」


 地図を一瞬で叩き込んだジョンはオーギュストの屋敷地下へ向かおうとした瞬間、火球が飛んで来た。

 ウィンドシールドでガードすると、笑い声が響く。


「流石はジョーカー! 軽くいなすね〜」


「火のアレクシか…君は防衛には行かないのかい?」


「あん? 知るか馬鹿、獲物は追いたてた方が楽しいだろ?」


「やれやれ」


「ここは我々が!」


「また、春に会いましょう」


「!?」


 また、春に会いましょう…邪魔だから失せろの、この地方の言い回しだ。


「クッ!」


「行かすかよ!」


「やれやれ、女の人のお尻ばかり追いかけるより僕に気をつけた方が良い」

 

 ドゴゴ!


「へっ! 背後を潰して退路を絶ったつもりか?」


「さぁ? どうだろ?」


「相変わらず気に要らねぇ奴め!」


 一撃…一撃だけジョンは魔法を放った。


「ウィンドブレイク」


 特大球状の空気の玉がアレクシに襲いかかる。


「ウオオオ!」

 

 当然、ファイアシールドで受け止めるもジョンは笑う。


「君如きがよく受けれたね」


「馬鹿にするんじゃねえ!」


 怒り狂ったアレクシは火球を山程ぶつけてくるが、ジョンは最低限のガードでいなす。


「どうした! 防戦一方じゃねえか!」

 

 その時、風を見たジョンは自らの側の天井を落とした。


「閉じ込めたつもり…頭痛え! 目眩もする…!」


「馬鹿は死ななきゃ治らないね。 君の吸う空気はその空間には、もう無い。 自分が嬲り殺した人達より楽な死に方だろう。 返事が無い…もうお眠かな?」


 静寂を背にジョンは銃士隊の後を追った。

 すると場所にそぐわぬ少女が居た。

 人形の様にスカートを持って挨拶すると劇のチケットを渡して来た。

 トコトコと劇場へと案内する少女。

 劇場へ到着すると、どうやら指定席が用意されている様だ。

 幕が上がり劇が開演すると一人の魔法使いが踊り子の様に出て来た。


「水のアデライドか」


「喜劇はお好き?」


「悲劇が君にはお似合いだよ」


「行きなさい人形達」

 

 周囲の観客が襲いかかる中、ジョンはウィンドブレイクで皆殺しにしていく。


「人形にされたら、もう元には戻れない。 殺してやるのも慈悲だろう」


「貴方は、もう少し甘いと思ったけど?」

 一息で壇上でアデライドと対峙すると、両者ブレードの魔法で構える。


「差し詰め剣劇かしら?」


「その余裕も無くなるよ」

 

 ジョンの言う通り圧倒的実力差で押されるアデライドは劇場装置を使い逃げようとした刹那、ジョンがアデライドの首を掴んで絞め上げた。


「アァァァァ!」


「何故、鳴くのだ? お前より強い者がしかと掴んで居るのに…やはり悲劇で閉幕だ」

 

 どうやら、オーギュストの脅威は自分らしい。

 先程から暗部の精鋭中の精鋭を送り込んでいる。

 しかし、馴れ合う事の無い連中だ。

 だからこうして、ぶつけてくるのだろう。


「銃士隊が心配だ」

 

 急ぎ銃士隊の後を追った。

 一方、銃士隊は魔物の群れに苦戦して居た。

 具体的にはかつて自分達と同じ任務を受けた成れの果て達だ。

 ここで、ようやくジョンが追いついた。


「苦戦してますね〜」


「他人事の様に言うな! どうにかしろ!」


「うーん。 ワイトか…なら操ってる奴が居るはず」


『私だ』


「バラして良いの?」


『我々も王国魔法隊の端くれだ! アソコの魔法装置を潰してくれ』


「了解」


 魔法装置を潰すとバラバラとワイト達が崩れ始めた…が例のワイトは崩れない。


「敵か味方か答えを即もらいたい!」


「こんな見た目でも味方ですな! 私はワイトロードなので崩れないのですな!」

 

 何故か喋り方まで変わってるワイトロードも引き連れ地下通路をひた走るとハシゴが見えた。


「アレだ! 昇るぞ!」

 

 地上では王国魔法隊とオーギュストの隊の戦闘が始まって居た。

 そこから側面を攻める銃士隊達。


「ええい! 埒が明かん! ジョーカー! 何か策…」

 

 ジョンは散歩でも出かける様に戦場に出ると特大ウィンドブレイクの連射という力技で戦場をねじ伏せた。


「だから僕が引き受けるって言ったじゃないですか」


「馬鹿げてる! だが奴の所まで、これで行ける!」

 

 その後、散発的な戦闘はあったもののジョンが圧倒的な強さで蹂躙して行った。

 オーギュストの所にたどり着く頃には制圧が完了していた。

 いよいよオーギュストと対面だ。

 と思いきや扉が巨大な手で吹き飛ばされた。


「やれやれ騒がしい」

 

 白髪のオーギュストは、やはり元軍人の様で未だ筋肉質だった。

 それより巨大な手だ。

 馬鹿げた大きさのゴーレムがオーギュストの部屋の外に佇んで居た。


「土のセシルか」

 

 まだ幼さが残る少女がゴーレムに乗っていた。


「殺れ」


 その一言にゴーレムは拳を振り上げると突如、オーギュストを叩き潰した。

 全て終わったとばかりにセシルがゴーレムを解除して降りてくると一言。


「借りは返した」


「借り?」


「あの時、助けてくれた」


 一体、いつの話かジョンは忘れてるが、そういう事らしい。


「困ってたら助けるのは普通じゃない?」


「私には普通じゃない!」

 

 足手まといなら切り捨てろが暗部の常だ。

 余程、この少女には嬉しい事だったのだろう。

 オーギュストを裏切る程に…

 こうして事態は幕を閉じた。

 そして、功労者に対する女王の謁見となった。


「この度は皆様、よくぞ逆賊を…」


「ハッ! 王国に仕える我々としては当然の事をしたまで!」


「貴方達も…」


「ハッ! 王国に正式に仕えてる訳でも無い僕達は巻き込まれたまで!」


「貴〜様〜!」


 ふざけた受け答えに銃士隊長アデールが凄い剣幕で怒鳴りつけようとするが女王が制止する。


「そうですね。 今まで暗部の人間として心苦しい思いをなさって来たのですもの当然、私にも敬意など無いのでしょう」

 

 ジョンは無言で答える。


「ですから、これからは王国の杖として働いて欲しいのです。 勿論、オーギュストの様な汚れ仕事はさせませんわ。」


「セシルはどうする?」


「ジョンについてく」


「給金も無くなったし、それで手を打つよ」


「貴様と言う奴はどこまで!」


「アデール」


「ムグッ! ハッ!」


「では略式ですが、王国の杖として忠誠を誓いますか?」

 

 肩に剣置かれ問われる。


「気が向くまではね」


「同じく」

 

 その答えに女王は笑ってしまう。


「はい、では正式な騎士と成りました…がソコの魔物は…」


「かつて王国に仕えたコンスタンですな。 私は既に王国に忠誠を誓ってますな!」


「そ…そうですか」

 

 その後…


「君は何時まで僕の部屋に居るんだい?」


「無論、死ぬまで!」

 

 セシルが出て行かないのだ。

 同じ金額の給金を貰っているにもかかわらず。

 セシルからしたら、淡い恋心を抱いているのだがジョンは理解してない。

 そこに闖入者が現れた。

 最初に出会った銃士隊のアンナだ。


「皆さん、お久しぶりです」


「あっ軍隊言葉じゃない」


「実は女王陛下からお達しがありまして、二人に使用人をつける様にと…グゲ! なんですか! このゴミ屋敷!」


「ちゃんとある場所分かるよ」


「貴様! 銃士隊なら懲罰物だぞ!」


「軍隊言葉出た」


「徹底的にやるから覚悟しろ!」

 

 ジョンの冒険はまだまだ続く。




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