第6話:ビデオゲーム、異常、空間
地下鉄の駅のホームの端まで行ってみることにした。
人はいない。
物体はない。
音の粒のような質感もない。
天井灯からの光が床へはっきりレンダリングされて一直線に伸びる。すべてが正確な一直線、さっき切った鉄筋みたいに一直線。
Ppt 直方形が通り過ぎる。黒い輪郭が私と世界の境界、私が認識する世界と世界の境界を細く縁取る。私は残酷なほど完全だ。私が認識する世界は残酷なほど完全だ。だから境界は越えられない。指先で世界の輪郭を擦ってみても、鉄と鉄がひりひり擦れるのと変わらない。
前に直方形がある。ゴシック体で「関係者以外立入禁止」。
入ろうか?
私とエレベーター。
空間は無限に伸びる。静けさがさらに伸びる。地平線へため息を吐く。
機械たちは死んでいる。血も音も流さないまま硬く死んでいる。
クレーンゲーム機はない。
焦り始める。
前があるはずだ。当然前がもっとある。だから前へ歩く。足取りの慣れた触覚も長く深く伸びて静けさに飲まれる。
私はどこへ行っているんだ?
前は一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
左を見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
右を見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
前は一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
右を見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
左を見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
前を見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
後ろを見ると一直線の道だ。白い壁と天井と床が私を囲む。
前後を同時に見ると一直線の
お前今首が身体から分離したよな?
コマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマコマ
いや、道は一つだ。
私は前へ進む。
ど真ん中に少女がいる。後ろには壁がある。
「こんにちは?私を探してくれてありがとう。」
空間は動かない。気流は、空気は流れない。
お前はなぜここにいる?
「私たち、ずっとここにいたじゃん。覚えてない?」
……
あ、そうだ。ごめん忘れてた。
「戻ってきてよかった。じゃあお前は、どこから来たの?」
地下鉄の駅から来た。4号線からさ。私は……仕事から帰るところだった。
「えっと、ちょっとよく分かんないんだけど……お前いま起きたばっかでちゃんと区別できないのかな……地下鉄ってやつ……お前が作った機械じゃん。」
「どんな現実?」
「これ以上の複雑さは存在しない……何の話をしてるのかよく分かんない……」
私は少女と話す。
「永遠のファンタジーだよ。ほら、湖がある。行って一回感じてみて。水のちゃぷちゃぷ、やわらかくくすぐる、透明な毛が身体を這って神経をそっと溶かすあの感じ、分かる?できるだけ感じようとして。で、しまっておいて。
君はその感じだけで十分。
庭に出ると日差しがばーって差す場所がある。草に寝てみる?お前は木で羊で風にそよぐ葦。土はお前を地球の奥深くまで繋ぐ。そうしてお前は根なんだ。
私たちは動かなくていい。そもそも全部が動いてるのがおかしいんだ。じっと、静かな小屋にいて。」
ああ、こうして壁にもたれるのがどれだけ楽だろう……このまま時間は止まる。この世界のすべては自分の場所で喜んで楽な状態で……眠っているだけだ。
記憶は解体される。じっとした人形をいじいじ。
私たちは決して動いている限り楽になれない。でもここでは、動かなくていい。
スタークリミナリティ。
私は横になっている。天井だけをずっと見ている。
天井以外に何かある?
扇風機が回る。薄いブレード3枚が互いを追う。
扇風機が回る。ずっとずっと追う。
扇風機が回る。空気を感化せず風にもならない。扇風機と私の間には壁が空間を切って渡れない。
扇風機が回る。二回転する前の扇風機と今の扇風機は同じだ。
扇風機が回る。私は手を伸ばす。壊れそうな幻想で飛ぶ。
扇風機が回る。ブレードが回り回って輪郭が鈍る。
扇風機が回る。白い天井と傷のない扇風機が皺にならず絹が伸びるみたいに混ざる。だから私の人生は時間がほどけて過去と過去を区別できないんだ。
扇風機が回る。でも忘れて結局忘れて私の一番奥から記憶を齧って蛹から出る蝶の形へ記憶は変態する。私はもう扇風機で内と外が入れ替わって新しい人になった。
扇風機が回る。私は新しさに魅了されて麻痺する。何を考えていたんだ?扇風機は絶対止まらない。すべてを白い渦へ吸い込んで二度と抜け出せない。あまりに深く触れた瞬間手と私は分離する。絶対扇風機に手を触れてはいけない。絶対扇風機に手を触れてはいけない。その宇宙の真理が骨を捻って私を吐かせるほど押し潰す。
扇風機はない。
曲線というものはこの世界に存在しない。皺になれない紙の上でだけ生きているのか?
「おはよー」
目をちらっと開ける。
いつもそうだったようにベッドの横には少女も横になっている。真っ白い光が半透明な窓の正方形を貫く。厚く塗られた光に隠されその向
こうが見えない。
目をまた閉じる。私は無視する。
「お.き.ろ.フジロくん。」
私は無視する。
「……」
私は無視する。
……
ぐはっ!
何をしたんだ……じゃなくて何を落としたんだ!
「ボウリングボール。」
ちゃんとしたこと言えよ……
「それただの私の脚なんだけど。とにかく早く起きろぉぉ今日どこ行くって言ったじゃん。」
そうだったっけ?まだ夢うつつで少し時間を……それにしてもお前の脚なんでこんな硬いんだ?完全に鉄筋だと思った……
「通過。」
私は怪訝な顔を無理やり真似る。本当に怪訝だった。
何が通過なんだ……
「とにかくいいから外行こ。服ちょっと着替えて出てきてぇ。」
そうして彼女は外へ悠々と出ていった。今まではちょっとツンデレっぽかったのに……ほんと分からない少女だ……
外へ出ると湖が迎える。きらきらして宝石みたいだ。
「待って!忘れちゃだめ。庭の花に水やらないと。」
あーごめん……私は慌てて家に入ってじょうろを持って出る。
じゃあ湖で汲んでくるから待ってて。
「え~私も一緒に行かせて!」ファジアは私の袖を掴んで全身を預ける。瞬間私は捕まったみたいに動きを止める。日差しに私の腕が浸るみたいなこの感じ……あんな力があるのに柔らかくふわふわした感覚が私を這い上がる。何だ……どうしてこんなに気持ちいいんだ……
「なんでそんな固まってんのフジロくん!もしかして……この身体に圧倒されて何もできないのかな……!」
今日はやけに悪戯が限度を超えてる感じだ。私は心の中でため息をついて彼女の攻撃に反論する。
そんなわけあるか……俺はお前を気遣って水を汲みに行くんだよ。お前の箸みたいな腕じゃ水の入ったじょうろは重すぎるんだ。だからそこでじっとしてろ、ファジアちゃん。
「だめ~だめ~一緒に行かせてよー湖はそんなにとおくないんだよぉぉ」
ファジアは私の腕を掴んで離さない。うぐっ結局引きずって行くしかないのか。
だからそのままファジアちゃんをずるずる引きずって湖へ行くことになった。冗談もほどほどにしろよ……普通こういう状況で離すのを「まともな人間」って呼ぶ気がするけど彼女はセンスを扱う脳の部位が壊れてるみたいだ。まあ……変なことでもないか。ファジアちゃんは考え方が行動の仕方がいつも……なんて言えばいいんだ四次元(?)……いや気分のままに生きてるから。とにかく執着するものに執着するのは世界最強かもしれない。
なあ……これいつ離すんだ?
「離さないけど?」
そうですか……お嬢さん。そうすると俺じょうろ持てません。
「ほら湖ある。水汲んで来て。ばいばいー先行ってるね。」
……
無視されて存在理由を否定された。あ……早く水でも汲んでこないと……
「ここの草ってさすごい面白いと思う。」
私たちはそうやって草や植物に水をやる。毎朝の慣例みたいなものだ。昼飯の前に「いただきます」って言うのやカーテン閉めて寝るのと同じくらい当たり前のことそれがこの庭を手入れすること。少女は急に草をじっと見る。
そう?何が?
「うちの庭って花だけ育てないで草も一緒に育てるじゃん。だから草がなんか格式あるように見える。花の間で価値が落ちないって堂々と誇示するからそう信じちゃう。」
確かにここは草も一緒に育てるからちょっと独特に見えるな。
「ほらあの草今日食べよ。」
あ……うん……そうしよう。
ほんと分からない少女だ。自分が王にでもなったみたいに庭国の民に死刑宣告でもするのか。あの草うまそう……って通りすがりに思っただけなのか。どっちにしても食うのはいつか食うんだし。
水やり終わった。今日は外に出るから湖のほとりでも歩く?
「いーえ。行こ。」
いつもと変わらず穏やかな湖。暖かい日差しが肌を少し溶かしてぬるぬるした風呂の湯に浸かった感じだ。風が水面を揺らして通り過ぎる。
「はぁ……まじ気持ちいい……あったかい……もう歩きたくない~~~」
なんか最後の言葉が引っかかるけど?
「つかれたぁ。もう寝ちゃう……休も。ちょっとここ石に座って休も。私が作ったクッキーもある。」
仕方ないか……じゃあちょっと座るしか……って違うだろ。まだ20分も経ってないぞ?
「20分でも2分でも疲れるもんは疲れるの。日差しが私の元気ぜんぶ吸ってる……もう無理……ああ……人間って自然の前でどれだけ弱い存在なのか……強大な重力の前にみじめに崩れて……!」そう言って少女は石に倒れた。
まあ仕方ない。クッキーでも食うか。
その間にファジアは三枚目のクッキーを咥えていた。
お前ほんと……やりたいこと即やるな……
「当たり前。やりたいことすぐやらないでいつやるの?フジロくんももうちょい考えず動かなきゃ……それがいいの。」
お前らしい答えだな……そうやって考えないで昔予定全部ぶち壊したの誰だったっけ……?
「(クッキーをもぐもぐ) えーそれはどうでもいいとしてちょっと!フジロくんは自分が全部知ってるみたいに言うけど実際そうじゃないから!ほら……その……朝に庭に水やるのも私が教えたし起こすのも私が全部やったじゃん!こいつ……よく見たら私にめちゃくちゃ世話になってたんだな!」
そう言われるとそうだ。
「(クッキーを飲み込む) あ、ほら変な模様の石。」
そうして一瞬で彼女は起き上がって道に落ちた石を奪う。
「前は見なかった模様……もしかして……これ結構レアじゃない?」
この世界では変な形の石がよく見つかる。ちょっと老いた世界の残骸……みたいな感じと言えばいいか。私はただの好奇心であらゆる種類の石を集めて研究している。そう……こういうことする人の呼び名があった気がするけど……何だっけ……あ、そうだ「地質学者」。もちろん私は地質学者じゃなくてただの趣味人だ。ここでは周りを歩くか家でファジアちゃんと話すかしかやることがないから……些細な勉強でも役に立つ。
うーん……湖の周りって新しい模様の石がよく見つかるからレアってより「今日のラッキーアイテム」みたいなもんじゃない?
「へ~ラッキーアイテム……それいい感じじゃん?」
そうか。
「ねえ、もしこの辺の石全部集めたらあそこの遠い山の向こうまで行ってみよ!なんか新しいの発見できそうな気がする。」
なあ……ファジアちゃん。山の向こうまで行かなくても山の麓に近づくだけで倒れそうじゃないですか?湖の半分の半分も歩いてないのにもうへとへとの人は誰でしょうね?
「そんな人知らないけど。ていうか早く行こ。こうしてたら遅れちゃうよフジロくん!」
はあ……
まあどうでもいいのか。
そう……再開しようって気持ちになっただけでも偉いよ……お前は……
「釣れた。」
悲壮な顔。抑えきれない激しさをどうにか押さえつけようとするみたいにぶるぶる震える両腕。ただそれ以下でも以上でもない事実だけを黙々と告げる口調。
私は釣り竿という武器で自然に抵抗するファジアを固く見つめる。
徐々に苦痛は激しくなり彼女の顔が崩れ始める。
できる勇者よ……お前なら……お前の強靭さなら……
石みたいに固まったグリップを死力で引く。
はるか昔水に侵食された「怪獣」がその黒くうねる身体を露わにし始める。
もうすぐだ……あと少し……あと少しだけ……
怪獣は身をよじり咆哮しのたうち必然に従って上へ上がる……その姿は……まるで……理解の次元をはるかに超えた……
待て
……ただのワカメの切れ端じゃないか。
ファジアちゃん、君めちゃくちゃしんどいふりしてたな。
「もう、フジロくん。でも魚みたいに重かったんだよ!だから魚を釣ったのと同じだよ!考えてみて……もし魚だったら釣れてたでしょ。だから魚を釣ったのと同じなの!私は魚を釣ったの!」
やっぱり喋る前に少し考えるのがいいと思うぞ……はあ……これで今日もボウズか。
「ちっ。自分も釣り下手なくせに……」
私たちは湖のほとりの小さな釣り場で魚を釣って(釣るふりをして)いる。ここは私たち二人でそれなりに頑張って作った。「頑張り」といっても枝を片付けて釣り竿と餌を置く倉庫を作っただけだけど……二人とも建築の才能がないからかなり大変だった。とにかく私たちは時々ここに来て釣りを楽しむ。もし魚が釣れたら刺身にしようと思ってたけどこの機会は飛んだみたいだ。
うーん……じゃあ昼はどうする?まああるもので何とかなるだろ。この川はすごく綺麗だから釣れたものは全部食えるし……ワカメも使えるか?
「……フジロくん。私ワカメ料理一つも思い浮かばないんだけど。どうするの!?」
方法ならある……自分を信じさえすれば……きっと……方法が……
そうして用意しました! ~ワカメ貝煮~ (貝はファジアをこき使って近くの岩から「採取」させた。その方式には少し疑問が生まれる余地があるけど……)
「わー、ほんとに作ったの?じゃあ私が先に食べてみよ……」
ファジアは一気に皿を口へ運ぶ。こんなにがつがつ食べるのは久しぶりかもしれない……普段彼女はクールな……いや絶対違う……バカっぽい属性で食べ物にあまり手を出さないのに昼を得るための肉体労働で相当疲れたんだろう。
どう?
「うーん」
果たしてお口に合いますでしょうか……
「うううーん」
「しょっぱい。」
あ。そうか?
私は死んだ魚の目をしてワカメと飯を口に入れた。
ほんとにしょっぱいな。うっ……しょっぱすぎ……
ごめんね、ファジアちゃん。
「他ないの?あそれ食べよ!私たちが持ってきたピクニック弁当!あれは絶対おいしいよ。」
それはだめだ。私は散歩の目的が消える前に必死で弁当を守る。
せっかく一緒に出た日だから当然メインコースもある。湖の反対側の丘でピクニックすること。だから弁当を作ってきたけど今食べたら数時間後に口が寂しくなる。そしてバスケットの弁当なしでピクニックするのは絵が合わない。とにかく今それを食うのはだめだ。
「えっ、そうなの?こんなしょっぱく作ったのフジロくんなのに……責任取ってよ私の味蕾……」
魚は釣れずこんなしょっぱいワカメを釣ったのは誰だったっけ。
「そんな人知らない。」
もう話しても無駄だ。さっきレッスンを学ぶべきだった……結局食うしかないのか……ワカメ煮……
突然ファジアがそっと横へ寄って私の腕に頭を預ける。穏やかな香りが私をきゅっと包む。繊細な触覚で力が腕から一瞬で抜けてへらへら笑いが出る。
「でもフジロくんの料理上手くなったね。」
そうかな……
「いいね。」
ファジアちゃんも……喜んでくれてうれしい。
……
この瞬間が続けばいいのに……
……
「っていうか前よりマシってだけでまだまずいけど。」
ファジア……お前……
「あ、いや冗談だよぉフジロくん。」
私はそうして彼女の両手を左腕で押さえてくすぐる。最初は驚いた顔がだんだん笑いに咲き始める。
「や、やめてぇ~~ くっ、はは、はははぁ」
無駄だ。次はワカメ煮全部食わせてやろうか……
「ここ来るたびめっちゃ眠いんだよねぇぇ……寝そうで不安不安ぎりぎりなんだよね……」
私は手に持ってたサーモンサンドをもぐもぐしながら言う。まあピクニックは寝るためのものじゃないのか。お前も少し休め……よくここまで来れたし。
ついにピクニックの真価が出る時間が来た。この日の実質メインコースだ。私たちは湖の反対側がよく見える丘の上――初夕の光が涼しい木でフィルターされて万華鏡みたいに散る場所――を確保した。ここはもともと常連だ。涼しい日陰と暖かい日差しの混ざりがよくてかなり前からここでだらだら寝てきた。そして歴史は繰り返す――もう私の隣で寝てる。
でも顔をよく見るとフェイクだと簡単に分かる。浅い睡眠みたいに見えるだけでただ寝転んで爽やかな空気を楽しんでいるだけ……やっぱりマイペース。さっき私が休めって言ったせいで寝る気が消えたのか。
まあいい。いい日だし私も思いきり楽しもう。私はファジアの横の弁当の端に頭を当てて寝転ぶ。丘の自然な角度のおかげで夕焼けを思いきり味わえる。考えてみればここを選んだのも……この景色のせいだった……すうっと目が閉じる……思考がまとまりかけてほどける……いつもの夕焼けをいつもの場所でいつもの彼女と一緒に……こんな……繰り返す日常を……沈む日と一緒に……
ほんと幸せな日だ。
「うーん?」
だから……こうしてピクニックするの……すごく待ってた気がする。ピクニックも準備して……いやただ俺ら二人……二人で一緒に……待って……何言おうとしたっけ?ごめん今の言葉は忘れていい。
ファジアは顔を回して私を見る。目は前とは180度違うきらきらだ。
「フジロくんってさ見てるとほんと変だよね。」
お前の方が変だ。
「だってさ本当はこういう無口タイプじゃん~~ そうそうそれでなんでそんな無口なの?って思ったらさなんか変に壊れちゃう時あるし。前そういうのあったじゃん。私がうちの人形の怪談作ったらそれ本気で信じたんだよ。めちゃくちゃウケた。」
うっ。口調がまた反転した。
ファジアはまた前の夕焼けへ顔を向ける。退屈そうにあるいは酔ったみたいに夕暮れの夕焼けを見ている。そうしてずっと動かない。
「ああ……ここは黄昏の時間。永遠に続く血の後光に染められ徐々に揺れ始める世界。」
また始まった。
「実在の世界も人間の世界もお前の世界もやがて終末を迎えるであろう。見よ、異なる熱で純粋を失う無意識の身体よ。見よ、人形の形でまもなく封印される翼を得た少年の影よ。この意志の次元を越えた世界の中でお前と繋がる存在がどんな選択をしようともお前は私と分離できない。それが黄昏の言葉である。」
そのオカルトのふざけたみたいな口調……ほんと手に負えない。おいそれにそのセリフ前に言ったのそのままだぞ……せめて少しは脚色しろ。
「変えちゃだめぇ~ 句は句のままが一番いいの。ほら~ 応援の時も掛け声変えないじゃん。」
好きにしろ……
「はぁーあ退屈。ねえフジロくん湖あるじゃん。朝言うの忘れてたけど今日の朝大きい葉っぱが来たの。朝じゃなくてお前が寝てた夜明けに。で見に行ったら何だと思う?葉っぱにカタツムリが乗って来たの。超かわいくない?だから助けようと思って葉っぱをすくってあそこの石に置いたんだけどさまた葉っぱに戻るの!なんか奪うの悪いから勝手に戻るように置いといた。でもさそもそもあの広い湖をなんで渡って来たんだろ……そしてなんでまた葉っぱに戻ろうとしたんだろ……あこれ難問だから番号つけた方がいい。じゃあ~ えっと第一の難問: カタツムリはなぜ湖を渡ったのか?第二の難問: カタツムリはなぜ葉っぱへ戻ろうとしたのか?第一には四つの仮説がある。これも番号つけるべきかな……いや説明でいいか。説明の方が早い。わあ~ 私いま頭めっちゃ回ってる感じ。コマみたいにぐるぐる。とにかく仮説1) 私が夢見てる間に私の身体が勝手に動いて湖の向こうまで歩いて通りすがりのカタツムリを葉っぱに乗せた。2) それはカタツムリが雀に食べられそうだからだった。あ待ってこれは仮説じゃないか……知らない。3) カタツムリが一人で雀から逃げるために……」
ファジアはずっと喋る。
草が揺れ夕焼けが揺れて沈み世界も揺れるみたいだった。
根になるみたいな感覚。
こんな日常がずっと続けばいいのに……
そのまま私たちは横になっている。夢の残像みたいに色が流れる。
初夕の「黄昏」は夕の薄闇に染まりまた一度月光に染まる。月光はすべての星の光を呑んでさらに強くなるみたいだ。月光だけのための闇
その中に私たちはいる。
私はただ空に横になっているだけ。
なんかさ現実じゃない感じがする。
感覚が私を圧倒する。
感覚が私を圧倒する。
ここはどこだ?
「どこ行くの?」
お前は誰だ?
「何言ってるの……ちょっと怖い。やめて……フジロくん。」
ここはどこだ?俺は誰だ?
「何の話……私たちずっとここにいたじゃん。覚えてない?悪夢でも見たみたいだけど妄想はもうやめた方がいい……フジロくん……」
私は少女を掴む。ここは現実じゃない。だろ?
「現実だよ。」
私は少女の首を掴んで押す。俺はここにいると麻痺する。化石になる。早く俺を起こせ。早く俺を起こせ。早く俺を起こせ!
「い……まも……起きてるぅ……」
私は少女の首を力いっぱい絞める。俺は死んでる。ここで死んでる。起きなきゃ俺は考えられなくなる。痛みを感じられなくなる。目が裂けて血が裂けた口へ流れるのが分からなくなる。白くなる。億京の足し算を繰り返す機械になる。首が分離したコマになる。蟻になる。電波を延々食う。お願い起こして。お願い起こして。お願い起こして。お願い、お願い。お願い起こして!今すぐお願い起こして!起こして!
「……う」
怒りは私を吐いて私は酸を吐く。まぶたのない月が人差し指で私の背を掻く。少女は乱れなく私を見て輪郭を被って静かに痙攣する。私は死力で少女の首を絞める。
少女は死ぬ。
あ。
私のすべての血管から血が干上がって捻れる。水分が一瞬で蒸発した稲は砕ける。だから私は稲になって折れて骨が折れる。その最後のポーズで動けない。扇風機に手が切り落とされる。私は壊れ始める。
ファジアはあそこに座っている。
「私の目を見てフジロくん。覚えて。世界は、ここ以外に存在しない。私とお前二人だけ。夢に戻っても同じ。」
もう扇風機を触った。戻る。
「またあの長い夢に戻りたいの?捨てられた機械の床を掃いて濁った空気が流れるあの夢に?そこへ行ったら……私と二度と会えなくなるかもしれないのに?」
戻る。
「お願い……私と一緒にいて。ここで一緒にいて。お前がいないと私は寂しくて耐えられない。私だけを見て、ね?」
戻る。
「何にもならなくていい。動かなくていい。行かないで……」
戻る。
「愛してる。」
黒い灰色のオイルをべたべた塗った機械たちだけが私と向き合う。
とても振り返れない。
次の更新予定
ファジア あめなの @amenano
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