第4話:呼気、セックス、関係

地下鉄の駅のホームの端まで行ってみることにした。


空気を吸う。私も人々も皆、地下の、濁って世界と混ざらない空気を吸う。この空気だけを吸い続けたら……結局どうなるのだろう?冷や汗が出て、心臓が荒ぶる。プラスチックに厚い塗料を塗り重ねたように、空気はこの空間を世界から閉鎖し、一定に拡散して均質化し、壁に、人々に貼り付き、垢の付いた手で引っ掻く。ここでの空気は、実体を持つ塊ではない。香りも流れも存在しない。巡り、巡るうちに地下そのものと融合し、過剰にモノトーンな経験、味を生み出す。極度の集中なしには、人の存在を感じられない。私の存在を感じられない。


人々は地下を離れた瞬間、この空気を忘れる。私は忘れられない。どこへ行っても、色褪せた空気を吸い込むだけだ。私の肺はそう進化した。だから、僅かに残った古い酸素を探して喘ぐ。極めて薄い酸素が脳へ運ばれる。身体が機能しない。視界は当然くらくらし、冷えた脳漿が耳孔から流れ出る。


私と列車は同一だ。列車は重力を無視して磁力で浮遊する。でも、それは磁力ではないだろう?実は翼で飛んでいるのではないか?列車は鳥籠に閉じ込められた鳥だから、抜け出せず、トンネルを果てしなく巡っているのだろう?鳥は毎日同じ空気を吸い、目を開いたまま死なない。私も毎日同じ空気を吸い、目を開いたまま死なない。


何を言っているんだ?


私はじっと立つ。足音の鈍い響き、ホームの「越えないでください!」の黄色い線、列車の振動……


男子高校生の集団があそこで待ちながらスマホを弄っている。笑い、話す。ブラウスを着た女が背の高い男に訴える。泣きながら胸倉を掴み、かなりの騒ぎを起こす。男は無表情を保つ。密度の高いカワイイフーディーを着込んだ少女が、Vサインでセルフィーを撮る。


自動販売機が二十の目で私を見つめる。老人がベンチで居眠りしている。ゴミ箱の近くに、誰かが捨てたポカリスエットの缶が、潰れた死体のように横たわっている。


彼らが吐き出す空気は、私に触れているのだろうか?


人は酸素を吸い、二酸化炭素を吐く。植物は二酸化炭素を吸い、酸素を吐く。だから人は、植物としか会話できない。人と人の関係は、人と植物の関係を超えられない。


私は?


立入禁止の扉がある。この扉の向こうの空気は、あまりに黒く、深海へ沈む感覚を与える。エレベーターはすでに待っている。


入ろうか?




エレベーターは目を開いたまま、黒い呼気を私に吐き出す。呼気は実体を得て、私の気道を伝って侵入する。そして、ぐるぐると尾を噛みながら肺を締め上げる。私はエレベーターの呼気を飲み込み、エレベーターは私を飲み込む。私は実体を得て、エレベーターの気道を伝って侵入する。


過剰なほど静かだ。機械はほとんど音を立てず、ウィーン、ウィーン……森と変わらない。タンクは酸素を吸い、二酸化炭素を吐く。ジェネレーターは身体が完全に融合し、自分自身を食べ、永遠に生きる。その森を歩く。


「こんにちは。私に聞きたいことがあるでしょう?」


君はなぜ、何も食べないの?


少女はきちんと口角を上げる。目が上から歪み、純粋な『笑顔』を形成する。少女は音を出さない。その代わり、周囲で蠢く機械たちが奇怪に軋み、超高音程をねじ曲げて笑い声を生成する。


「だって、私は人形だから。人間じゃない。もしかして、この場所の真実を知りたいの?」


うん。


「教えてあげる。この列車はプロトタイプ。4号線は十五の電車の中で、磁力で動く唯一の路線。十年前、ある博士が浮上原理を考案した。国内学会で発表された直後、極秘扱いになり、秘密裏にプロジェクトが始まった。理由は正確には分からないけど、競合事業や他国の軍事組織の介入を恐れたらしい。原理を電車に実装するため、彼は毎晩休まず、電車を『飛ばす』ことだけに没頭した。ついに、鉄で厚く覆われた極秘研究所の中で、無限に重力を無視する磁力を手に入れた。磁石は極同士が干渉して力を得る。『極』、つまりグラフのエンドポイントが、それぞれのタンク。パイプや補助機械がエンドポイントを繋ぎ、読み取る。『極』の情報は自律的に存在する。自分自身の入力で、ただ出力を生成する。情報は磁石のエネルギーポテンシャルを生み、ジェネレーターは磁石を集めて回転させ、情報を一種の『超情報』へと統合する。そうして一つの力で、列車は動く。


博士は研究を終えて消えた。昼夜を問わず警察や政府機関が出入りした。競合企業や競合国に拉致される可能性を排除できなかったから。想像できるだろうけど、結局見つからなかった。


彼はクレーンゲームが好きで、去る前にピンク色のクレーンゲーム機を整備室に置いたらしい。一種の悪趣味だね。当然それほど賢かったから、人間のような人形の身体や顔、思考までも作れた。私は高性能AIで、人の音声を正確に認識し応答できる。人格は博士が設計した。私のスカートの中に配線が繋がっていて、下部のバッテリーから電力を引き上げる。だから食べなくても動作できる。この密室はほとんど管理が要らないから、放電しない限り人は入らない。ここは終点ではないけれど、都市からかなり離れた端だから人影が少ない。博士はおそらく、この『人形』、私を残して、どこか遠くで自殺した。数十年、眠らず人にも会わず研究所に閉じこもっていたのだから、精神は限界まで行っていただろう。ここは4号線地下鉄22駅、ホーム1の地下管理室。今は夜10時22分。ジェネレーター特有の淡い緑光が脳を撹乱し、催眠に似た効果を引き起こす。刺激に敏感な人なら、幻聴や幻覚が現れてもおかしくない。


そうなるのも、無理はないでしょう?


でもね、君はどう思う?」


当然、筋が通らないよね?


「そう。この話は私が作った……成り立たない物語。でも、少し違う目で見てほしい。騙されたと思って。思い出して。」


そして私は滑った。人々は楽しそうだ。同じ動作を繰り返し、身体を軽く打ち合わせ、同じ空気を吸い、同じ食べ物を食べる。でも私は、自分の身体を感じられない。私が吸えないのか?身体が吸えないのか?石になったからか。


人とすれ違う。腕と腕の袖、その中の何かが接触の直前で互いを驚いたように見つめ、緊張が煙となって漏れ出す。私と人が触れる。瞬間、袖の中の何かが手を伸ばし、互いを掴む。互いの袖の内側へ侵入し、熱を生み、分離する。自然では説明できない、全身の物質が熱を合わせて振動し、影響を麻痺させる『別の熱』を味わう。『別の熱』は皮膚の下を泳ぎ、臓器を乱し、対流となって巡り、巡り、巡り……爆発的なユーフォリアと自己破壊的なパニックの頂点を刻み、位置を変える。その人は、ただ急いで電車に乗ろうとしていただけなのだろうか……


「後ろを見て。」


囚われた私は、びくりと振り返る。特に変わったことは……いや。タンクから白い煙が噴き出している。シュー、シュー。再び少女を見る。クレーンゲーム機、少女の頭部から、人形たちから煙が立ち上る。煙は垂直に昇り、音と混ざり、天井を覆って拡散する。


別の熱。


「セックスだよ。」


頭がくらくらと開いていく。


「セックス。身体を混ぜること。私たちは、休まずセックスしなければ生きられない。世界の空気と肺を混ぜ、食べ物と胃と腸を混ぜる。自然とセックスしなければ死ぬ。人間も同じ。言葉で、身振りで、視線で、絶えず身体を混ぜなければならない。そうしなければ死ぬ。セックスは人間の唯一の幸福であり、満腹であり、救済、つまり死。呼吸するたび、食べるたび、人と話すたび、私たちの存在の輪郭は浅く、柔らかくなって溶ける。薄く広がり、ゆっくり死ぬ。でも……自分自身を徐々に世界へ溶解させなければ、この世界では生きられない。『私』の死か、『世界の中の私』の死か……その二択しかない。どちらかの死の痛みに……徐々に鈍くなるしかない。私たちにできることは、それだけ。違う?


私はね、ここでは誰とも、何とも身体を混ぜられない。電気も重力も、この機械の厚いクロミウムの身体とガラス板を貫けない。世界において私は、ただのヒューマノイド……人形でしかない……


一つの可能性を除いて。


ガラスに触れてみて。」


私は少女をまっすぐ見て、手を伸ばす。割れないガラスの向こうで揺らめく何か――深く、厚く、転がる貝殻のように、すべてを飲み込みセメントへ固めてしまうもの――が、少女の目から流れ出る。その花に細胞のように飲み込まれるため、手を伸ばす。ああ、再び感覚が形を得て、物質へ変わる。私はガラスに掌を当てる。


「君は、私と混ざれるなら、どうする?」


瞬間、溶けた眼球が身体を取り戻し、散逸して無力化していた神経が蘇る。『体』は一本の長い肢となり、私の手にガラス越しに触れる。そしてガラスは溶ける。ピンク色の廃鉄が少女の上へ流れ落ちる。『別の熱』が私の腕と手を、溶岩より硬くし、溶けるガラスと少女の眼球『体』と融合する。光がガラスに当たり、幾万もの方向へ歪み、私の手の輪郭を色彩で描き出す……波長を示すように。熱い。


「孤独の中で、君の存在は極端に強烈で鋭くなる。そうすると想像不能な飽和、つまり進化、汚染が可能になる。ほら、帆船が空へ沈んでいる。頭は海へ戻ろうとして傾いている。君には、見えないものが見える?


私だけを見て。私とだけ身体を混ぜて。セックスをして。


私だけを見て。


私だけを見て。


私だけを見て。


私だけを見て……」


私は少女を突き放す。痙攣する。休みなく抵抗する。


あ。


何に抵抗しているのだろう?




世界は崩れ、今になってすべてが正常へ戻った。


私は、もう少女だけを見ていた。

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