エピローグ
「──香織ー! もう準備できてるのー!?」
「はーい! そんなに大声出さなくても聞こえてるよ、お母さーん!!」
──彼が転校したあの日から、月日は流れ。
無事第一志望の高校に合格し、中学校を卒業した私は、晴れて高校生としての第一歩を踏み出す日を迎えていた。
「お母さんたちは後から行くけど、始業式が終わってからどうするの? 一緒にご飯食べにいく?」
「うーん、時間によるかな? その時になったらまた連絡するよ」
あの日以降、私はコンタクトを止めた。彼との出会いを通して、変わらなくても良いことがあると思うようになった。そしてなにより、彼は眼鏡の私の方が見慣れているだろうから。
……もしどこかで再会した時に、これならすぐに私だって気づいてくれると思うから。
「ちゃんと定期券は持った? バスに乗れないと遅刻しちゃうわよ?」
「もー、大丈夫だって! じゃあ、行ってくるねお母さん!」
彼も今頃、高校生活をスタートさせているのかな? アメリカの高校ってどんな感じなんだろう……大学は、ハーバード? あれのイメージが強いけど。
まぁ……たとえどんなところでも、彼なら勉強もスポーツも得意だったし、あんまり心配いらないかも? 私も彼に心配されないように、一生懸命頑張ろうと思う。
(バス通学、密かに憧れだったんだよね。小中は歩きだったし……あ、そろそろ着くな。降りる準備しとかないと)
あの日見た星空はどこまでも繋がっている──彼が送ってくれたその言葉は、私にとってかけがえのないものとなった。
きっと何気ない日常も、いつかまた二人で星を見れる未来に繋がってる。そう願って、私はこれからも前を向いていく。
……でも、たまにどうしても寂しくなることがある。
今どこで、なにをしてるのかな? 笑顔でいてくれてるかな? ねぇ──。
「──あの、これ。落としましたよ?」
自分と同じ制服を着た人波に揉みくちゃにされる、バス通学の洗礼を受けて校門前で一息ついていると、不意に背後から声をかけられる。
男性にしては少し高めの優しげなその声で、ついさっきまで持っていたはずの定期券入れが手元にないことに気づいた。慌てて振り返る。
「あ、私の定期券入れ! よかったぁ……拾ってくれてありがとうござ……い……え?」
手渡された青い星が刺繍されたそれを受け取りつつ、照れ笑いを浮かべお礼を言う──が、視界に飛び込んできた信じられない光景に、思わず言葉を失ってしまった。
その男性──否、男子生徒は、確かにこれから自分が通う高校のものと同じブレザーを着ていた。
見間違いかと目を擦るも、微笑みを浮かべたその男子生徒の顔は──
定期券を受け取った手が震える。心臓の鼓動が早くなり、目尻に涙が溜まっていく。
現実か夢かの区別がはっきりとつかないまま、私は気づいたら毎日思い浮かべていた愛しいその名前を呼んでいた──。
「── 一彦くん、なの? うそ、え……ほんと、に……?」
「よかった……やっぱり、見間違いじゃなかった。
──久しぶり、天河さん」
──fin.
君と見上げる願い星 待夜 秋那 @NoveLuna100_1
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