ぼくとぼくたちのものがたり
M6363
序章
その根源は、自分の中に流れる
ー父親の血ー
すなわち、愛する人を傷つけるかもしれないという恐怖に他ならない。
歩夢が幼い頃、平和な日常は
一瞬で崩れ去った。
些細なきっかけ、父親の勝手な思い込みから、母親は浮気を疑われ、首を締め上げられた。
意識が遠のく中、母親が絞り出すように言った。
「歩夢、警察を呼んで…。」
幼い歩夢は震えながらも、言われるがままに警察に通報した。
サイレンが近づくのを感じた父親は、母親から離れ、歩夢に向かって唾を吐き捨てるように言った。
「お前は、裏切り者だな!」
その捨て台詞を残して、父親は逃走した。
まもなく警察が到着すると、母親は首筋に残る痛々しいアザを隠し、作り笑顔で答えた。
「すみません、ただの夫婦喧嘩です。お騒がせしました。」
この日以来、歩夢の中で愛と暴力は
切り離せないものとなった。
人を心から愛することは、いつか相手を傷つけ、あるいは裏切られるきっかけになる。
それは、恐ろしくてできないことだった。
母親は、家を出た。連れたのは、歩夢と、妹の
生活が安定するまでの間、子供たちは施設に預けられることになった。
生まれたばかりの水樹は乳児院へ。
妹の奈緒と歩夢は、別の児童養護施設へと預けられた。
歩夢と菜緒が送られた施設は、地獄だった。
どれほど寒くても暖房はつけてもらえない。
親がいない子供たちに対して、児童指導員の態度は冷たく辛辣だった。
わずかに残された、面会に来ない親が持たせてくれた衣類や物品は、あっという間に
児童指導員によって奪われてしまう…。
小学校に通うようになった歩夢を待っていたのは、学校でも続く差別の目だった。
「施設の子は汚い」「ゴミ」
生徒たちの間では、施設出身者に対する陰湿ないじめが横行していた。
歩夢は、冷たい視線と心無い言葉に耐えながら、学校という戦場を乗り切る日々を送った。
一方、兄が学校へ行っている間、施設に残る菜緒もまた、孤独な地獄の中にいた。
凍えるような部屋で、幼い子供たちは一箇所に集められ、布団にくるまって昼寝をさせられる。
愛に飢え、寒さに震える日々。
学校から歩夢が帰ってくると、菜緒は糸が切れたように兄に抱きつき、決して離れようとしなかった。
歩夢は優しく菜緒をなだめ、
重いカバンを下ろすと、妹の遊び相手になる。
しかし、愛に飢えているのは菜緒だけではなかった。
菜緒をなだめている歩夢の周りに、他の子供たちが集まってくる。
彼らは背負われることをせがみ、少しでも、歩夢の温もりを得ようとする。
「私のお兄ちゃんだから、取らないで!」
菜緒は、自分を独り占めしようと泣き叫んだ。
歩夢は、妹と、他の子供たちからの渇望の眼差しを一身に受け、どうすることもできない無力感を抱えていた。
そんな生活が約五ヶ月過ぎた頃、ついに母親の元へ一週間だけ帰ることが許された。
歩夢と菜緒は、母親の温かい胸に飛び込むようにして家に帰った。
三人は、明日には乳児院にいる末の妹、水樹を迎えに行こうと話していた。
これで、家族四人が揃う。
そう信じていた。
しかし、その夜遅く、一本の電話が鳴る。
三人は急いで水樹のいる乳児院に駆けつけた。
だが、再会は叶わなかった。
末の妹、水樹は、すでに息を引き取っていた。
歩夢の幼い頃からのトラウマ、施設での地獄、そして再会を目前にした妹の死。
歩夢の心には、愛すること、
家族、そして人生そのものへの、
深い絶望と虚無感が刻み込まれた。
母親はその時をきっかけに
家族を、突然に失うという
見えない恐怖と戦い続けながら、
歩夢と菜緒を死に物狂いで育て上げる。
そして母親は肩の荷が、降りたのか…。
精神病を患う事となる。
歩夢と菜緒は以前の様に
強く優しい母親ではなく、
常に何かに怯える母親の姿を、見つめる事しか出来なかった。
歩夢と菜緒は母親に何か
楽しみを見出だせないかと
試行錯誤する。
歩夢は以前母親が、パチンコ屋さんに勤めていたので
気晴らしになると思いパチンコを一緒にする。
母親は一時だが以前の様な
笑顔を取り戻すが
母親は菜緒の貯金にまで
パチンコにつぎ込む様になる。
歩夢と菜緒は母親の事でよく
喧嘩をするようになる。
母親もそのせいでより精神病が重くなる。
今では、昼間でも寝ている時間が多くなってしまう。
歩夢も菜緒もそして母親も
ただ毎日を息するのが
やっとの事だった。
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