ループ10回目の雑草令嬢ですが、英雄魔導士様とは初めてお会いしましたよね?
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第1話 婚約破棄された雑草令嬢
「レイシア・バークレイズ公爵令嬢!今夜限りでお前とは婚約破棄だ!きさまの悪事を暴いて断罪してやる!」
それは、本当ならロマンティックな言葉で溢れるはずだった聖夜を祝うパーティーでの出来事だった。私の婚約者であったはずのこの国の第一王子であるサジリス殿下は、私をエスコートするどころか他の女性と一緒に姿を現して、まったく身に覚えのない冤罪を問答無用とばかりに押し付けてきたのである。
「…………?!」
“まさか早すぎる”と、驚きのあまりに反論する暇もなく私は断罪されて婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまったのだ。
「ま、待ってください殿下!それは卒業パーティーで……」
予定よりも3カ月も早いその断罪に、私は戸惑うしかなかった。しかしサジリス殿下は「なんだ、雑草をイジりすぎて頭までおかしくなったか」と鼻で笑う。まだ猶予があるからと油断してしまった。だって、“卒業パーティーでの出来事”だけは絶対に変わらなかったのに。
「あぁそれと、もちろんバークレイズ公爵家とも縁を切られるからな!これでお前は無一文の平民として放り出されるのだ!ふはははは!まるで物語の悪役令嬢のような末路じゃないか?雑草臭いお前にはもうウンザリなんだ!ザマァみろ!」
ざわめく周りを無視して高笑いをした殿下は、私が嫉妬から殺そうとしたらしい令嬢の腰を力強く抱き寄せた。確かにその令嬢は、最近殿下とやたら距離が近いと噂されていた美しい男爵令嬢だ。私にとっては見慣れた二人の姿にざわめきは大きくなり、ヒソヒソと話し声が聞こえてきた。
「……確かにあんな地味な“雑草令嬢”が婚約者では、目移りするのも仕方がないのでは?見てみろよ、土みたいな茶髪に雑草色の瞳だ。せっかくのドレスもあんな女に着られたら古ぼけて見えそうだ」
「公爵令嬢のくせに、いつも雑草臭いからな。それに比べてあの男爵令嬢からは高貴な香りがするぞ……見事な金髪に青い瞳、プロポーションも素晴らしい!ああ、なんていい匂いだ」
「自分が雑草臭いくせに嫉妬して王子殿下の恋人をいじめるなんて公爵令嬢も落ちたものだ」
クスクスと、私を貶める言葉が飛び交っていた。これも私にとっては聞き慣れた言葉だった。この場にいるみんなが、乳房がこぼれんばかりの露出度の高いドレスを着た男爵令嬢を褒め称えている。
確かに私からは香水の香りはしない。ほんのりとハーブのような匂いが手に染み付いていて、それを「雑草臭い」と笑っているのだ。
ちなみに、私は今回もその男爵令嬢と挨拶どころか言葉を交わした事すらない。なんなら直接対峙したこともなかった。噂だけは嫌でも耳に届いていたけれど、それも私からすれば関係のないことだと思っていた。
なによりも嫉妬から彼女を殺そうとするなんてあり得ない。……だって、殿下とは王命の政略結婚であって少しも愛してなどいなかったからだ。それにこの婚約は公爵家の娘で優秀だからと王家から打診されたものだったはずだ。殿下の中では私から言い寄ったことになっているみたいだが、ようは王家にとって不良債権である殿下の尻拭いをするための婚約である。
それでもある意味で私も殿下を利用していたことになるのだから、恋人でもなんでも好きにしてくれればいいと思っていた。むしろ時間稼ぎになると。それに、今回こそは間に合うはずだったのだ。
けれど、両親や兄からもまた見捨てられたのだとわかって愕然とした。元々この婚約を無理強いしてきたのは両親なのに、殿下に嫌われて排除されようとしている私などもう価値が無いと言わんばかりの対応だ。少しは良い方に改善されたと思っていたが、何も変わらなかった。……結局はいつも通りなのだ。
「どうした!さっさと俺の前から消え失せないのなら……今すぐここで殺してやろうか?!」
その場に崩れ落ち、動こうとしない私に苛立った殿下が腰の剣に手をかけようとした。たとえ場所や時間が違っても私が殺されることはやっぱり変わらないのかと……諦めかけた瞬間────。
『ならばその娘、
少しくぐもった声が頭上から降ってきた。
音もなくふわりとその場に舞い降りたのは、顔すら判別出来ない程に黒マントに全身をすっぽりと包み込んだ最近噂の魔導士様だったのだ。私には背も高く体格もしっかりして見えるが、人によって認識が違っているらしく、ひょろりと細く見えたりでっぷり太って見えたりと様々な姿に見えると聞く。
この魔導士様はどこからともなくふらりと現れ、御伽話の中にしか存在しないと言われていたような薬を開発したのだとか。魔道具や魔法薬を作り出す事が出来る“魔力”を持つ人間はとても希少だ。そんな人物が偶然にもやってきて、その薬で不治の病により死の淵にあられた国王陛下を救ったとなればまさに奇跡である。そうして魔導士様はこの国の英雄だと崇められた。
だが弱った体をすぐに回復することは難しく、陛下は付き添っている王妃様共々、今日のパーティーは欠席をされている。もしも王妃様だけでもこの場にいてくれたら結果は変わっていたかもしれないと思ったこともあったが、それも無理だったことを思い出して吐き出しそうになったため息を飲み込んだ。
ちなみにこの魔導士様に関しては特別な国賓扱いになり、今は新たな薬の開発の為に森の中にある塔の上に閉じこもっていると聞くが、未だにその素顔を見た人間はいない。たまに発せられる声も薬で変えているのか、いつもくぐもっていて年齢も性別すらも誰も知らない謎めいた存在だった。
そして、私がこの魔導士様に直接会うのは今回が初めてだ。これまでどれだけ噂が聞こえてきてもこうやって姿を見る事なんてなかったのに……。
そんな魔導士様がこの場に現れたのだ。現時点で陛下よりも発言権を持つ人物の登場に、その場にいた全員がさっきとは別の意味でざわめいたのも仕方がない事かもしれない。
「ま、魔導士様……?!なぜこのような所に────?」
殿下が慌てた様子で腰に当てた手を下げ、形ばかりの挨拶の為に頭を下げる。殿下自身は魔導士様のことを「胡散臭い奴」と以前に言っていたのを聞いた事があるが、決して逆らってはいけないとそれは厳しく言われているはずだ。なぜなら魔導士様に歯向かうということは、魔導士様に救われた陛下の命を否定することになるからだ。
『なに、ちと騒がしかったから見に来ただけだ。────それで、その娘はもらっていいのか?』
「い、いえ、この女は国外追放に……」
『平民にして無一文で放り出すのだろう?このような世間知らずな娘など国を出た途端に夜盗にでも襲われて殺されて終わりだ。それなら
顔を覆うマントの隙間からギラリと殺気にも似た威圧感が放たれ、殿下はその場で腰を抜かした。
「ひ、ひぃ……!ど、どうぞ!お好きにしてくださいぃぃ!」
『よし。ならば娘よ、参ろうか……』
「えっ……?」
返事をする間もなく、私の体は闇色のマントにふわりと包まれた。
ほんの一瞬、ふと懐かしい匂いを感じた気がしたら……私と魔導士様の姿はその場から消えていたのだった。
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