3分間の神様

深渡 ケイ

第1話 空白の食卓

チン、と電子レンジが無機質な音を立てた。  相沢湊(あいざわ みなと)は、温められたプラスチック容器を取り出す。コンビニの幕の内弁当。湯気と共に漂う人工的な匂いが、鼻につく。  ダイニングテーブルに座り、割り箸を割る。  広すぎるテーブルの向かい側には、誰もいない。

「……いただきます」

 小声で呟くが、返事はない。  一週間前までは、ここには喧騒があった。  妻の結衣(ゆい)が今日のニュースについて話し、六歳になる娘の陽(ひなた)が嫌いなピーマンを皿の端に寄せようとして叱られる。テレビの音、食器が触れ合う音、笑い声。  それら全てが、唐突に消滅した。

 視線を横に向ける。リビングの一角、急拵えの仏壇に、二人の遺影が飾られている。  一週間前の夕方、近所の交差点で起きた事故。  制御を失った四トントラックが歩道に突っ込み、信号待ちをしていた母子を轢き殺した。  即死だったという。苦しまなかったのが救いだなんて、警察は言った。ふざけるな。  湊は箸を置いた。食欲など湧くはずもない。

 スマートフォンを取り出し、画面をタップする。  裏サイトへの接続アプリ。エンジニアとしてのスキルを悪用し、数日かけて辿り着いた「藁(わら)」だ。  取引相手からのメッセージが届いていた。

『品物は指定の場所に置いた。代金は確認済みだ。忠告しておくが、神様気取りは高くつくぞ』

 湊は上着を掴み、夜の街へと飛び出した。  高くつく? 構うものか。  俺の全財産も、これからの人生も、二人がいないなら何の意味もない。

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