三英雄まで上り詰めた俺が、違法な獣人の少女を買ったワケ
ゆっきぃだよ
灰色狼
「こちらです」
商人に店の奥へと案内される。
「いやはや………普通のお客さんは案内しないんですがね………旦那は口が堅いという噂ですから………」
頑丈そうな扉の前まで来ると、商人はポケットから束になっている鍵を取り出した。ジャラジャラ音を立てながらそのうちの一つを鍵穴に差し込む。
「先月の帝国議会での法案が通ってしまったせいで………もう大々的にはね……ハハ」
扉は耳障りな音を立て、地下へと続く階段をあらわにした。商人は壁にかかっているランプを手に取る。
「暗いので、足元に気をつけて着いてきてください」
先導する商人の光を頼りに、かび臭い階段を降りる。所々にコケが生えていて、滑りやすくもなっていた。
「随分と埃っぽいな」
「そりゃ、地下ですから」
しばらく下ると、ヒソヒソと何者かの声が聞こえてきた。思わず立ち止まる。
(これは………)
泣いているのだろうか。
「?旦那、どうかしましたか?」
商人の呼びかけに、我に返った。
「すまん、誰かの声が聞こえてきたもので」
再び歩みを進める。
もう十段下ると、その声ははっきりと聞こえてきた。
嗚咽と僅かな鳴き声が混ざったかのような声だった。
ランプの光が横に広がり、周りを照らす。開けた場所に出たのだと分かった。
コツコツとよく足音が反響する。
「こちらです、旦那」
商人のランプに照らされ、これまた頑丈そうな鉄格子が浮かび上がる。声の主はこの向こうのようだ。
「ちょいと持っていてくれませんかね?今、開けますので」
商人のランプを受け取り、鍵穴を照らしてやる。商人はまた鍵のジャラジャラうるさい束を取り出し、鍵穴に差し込んだ。
ガチャリと鍵が鳴り、鉄格子が開いた。ランプを商人へと返す。受け取ると、牢の中へと入っていった。それに続く。
牢の中は薄暗くても分かるほど、ひどい状態だった。
苔が壁を侵食し、ひどく苔臭かった。肺に細かい埃なども入ってきそうで、思わず息を止める。
そして、さっきからの鳴き声の主はどうやら、光の届かない部屋の隅にいるらしい。
「旦那、近くに寄らないと品定めできないじゃないですか、もっと寄って見てってください。照らしておきます」
部屋の隅が照らされ、小さな影が隅でうずくまっているのだと分かった。それはぶるぶると小刻みに揺れており、先程からしゃっくりと不規則的に泣き声を繰り返している。
「店主、ランプ貸せ、よく見えない」
商人からランプを貰うと、その影に近づけた。
一番最初に目に入ったのは、その特徴的な頭の上の耳だった。人間の耳ではなく、獣の耳だ。
一目見て人間じゃないことを認識した俺は、思わず舌打ちした。が、人間じゃなくても良いとすぐに割り切り、ランプをさらに顔の近くに近づけた。
整った顔と長い灰色の髪が次に目に映った。目には怯えの色が浮かんでおり、頬は引きつっている。少しだけ開いた口には、鋭い牙が見えた。
(狼の獣人か………)
「どうです旦那?お気には召したでしょうか?」
商人が背後から声色高くして言った。
「獣人ですが、雑種ではないのでね!どっかの高貴な血筋の者なのでしょう!」
さらに声色を高くしながら言う。
「まあメスですが……顔立ちは悪くありません。値は下がりませんよ」
「なるほどねぇ……」
ぶるぶると震える彼女の顎を引き寄せ、よく顔全体を観察する。恐怖で声が出せなくなったようで、嗚咽や泣き声の一切が止まった。
確かに、顔立ちは整っている方だ。
(.........果たしてこの子は耐えられるのだろうか)
そう自問自答すると、手を放し、ゆっくりと立ち上がった。
「…………人間じゃないのと、メスなのは残念だけど………まあいい」
商人の方に振り返り、ランプを返す。
「買うことにしよう」
「まいどあり!」
じゃあ早速、会計しに戻りましょうと商人は上機嫌に言った。
俺は再び少女の方へ向き直り、目線を合わせる。
「立てるか?」
「………ぇえ……?」
少女はかすれた声でかろうじて返事した。ぶるぶると震え続けており、とても立てそうな状態ではなかった。
(無理だな)
脇の下に腕を通し、ゆっくりと立ち上がらせる。
ふらふらとおぼつかない足取りで再びしゃがみ込みそうになるのを、両足の下に腕を通し、もう一方の腕で背中を支え、そのまま持ち上げた。お姫様抱っこみたいな感じだ。
少女はさらに小刻みに震えだした。呼吸も少し早くなる。
(過呼吸寸前か)
こんな真っ暗で埃臭い地下にいれば、そうなるのも無理はないだろう。
まだこんなに小さいのに、これ以上消耗させるわけにはいかない。
「行こうか、商人」
くるりと振り返り、言う。
「さっさとこのむさ苦しいところから出たいからな」
「は、はい………行きましょう」
歩き出した商人に、そのまま少女を持ったまま着いていき、牢をあとにした。
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