第2話 デート開始

 デート当日。時刻は十一時半。

 自分のデートでもないのに気合いが入って待ち合わせ三十分前に来てしまった。なんで私がこんなにデートを楽しみにしてるみたいになってるんだ。なんだか情けなく思えてきた。

 待ち合わせ場所は都内某所の某銅像前。私は待ち合わせ場所や駅の出口から見えなそうな場所に隠れる。

 尾行しているのを誰かに隠している訳ではないのでそこまで厳密に隠れる必要は無いが、念には念を入れてしっかりサングラスとマスクと帽子をしてきた。変装って感じがしてワクワクする。


 さて、二人を待とう。私は壁に軽くもたれ、集合場所の方を眺める。

 そこで、私はユウの姿を目撃した。

 え?もう着いてるの?確かに集合時間より早く着くようには事前に伝えておいたけど……。

 ユウは確かに几帳面な方だ。初デートなら待ち合わせの三十分以上前に着いていてもおかしくないような気もする。


 ユウは普段の可愛らしく元気な服装ではなく、少しシックで大人っぽく頼れる雰囲気の服を着て来ていた。

 これは私の指示だ。人間は基本ギャップに弱い。普段と違う雰囲気の服を着てくるだけでちょっと特別な印象になる。多分。

 綺麗めな印象の丈の長いコートを羽織っており、下はワイドパンツ。ピアスも普段より主張の弱いものを付けている。

 わざわざ今日のために買ったらしい。本気が感じられる。ますますデート開始が楽しみだ。


「おはよう、もう着いてたんだ?」


 集合場所にいるユウのところへ歩いて行き、一応挨拶をしておく。


「あ、ヨモちゃん!ヨモちゃんも早いね〜?」

「ユウいつ着いてた?」

「んー、十五分前くらい?」


 集合時間四十五分前か。流石にちょっと早すぎないか、と思う。




 隠れ場所に戻ったタイミングで、有栖ありすから連絡が来た。


――そろそろ着きます。そちらの状況はいかがですか?


――私もう着いてるし、なんならユウももう着いてるよ!


――私が最初に着くつもりだったのですが


 残念だという気持ちを表すようなスタンプが送られてきた。


 その数十秒後、有栖が実際に待ち合わせ場所に現れた。

 服装は普段と似たような上品で清楚な格好。綺麗なワンピースである。

 一つ普段と違う点をあげるなら、丈が短めであるという事だろう。勿論私の指示だ。

 基本ロングスカートの有栖が丈の短い服を着てくれば、それだけで十分特別感が出せるだろう。


 有栖が手を振っているユウの元へ辿り着き、なにか話し始める。

 私はイヤホンをはめた。ここに有栖のポケットに入ったマイクの音が届くようになっている。マイクを準備してくれたのは有栖だ。デートのために小型マイク購入とは恐れ入る。

 イヤホンの音量を調節する。二人の会話が聞こえてきた。


「ユウちゃん、お待たせしました!」

「大丈夫大丈夫、全然待ってないよ!てか集合時間よりだいぶ前だし」

「き、今日は、よもぎさんが来れなくなってしまったので、二人で遊びましょうね」

「そうだね、ヨモちゃん来れなくなったからね!二人で遊ぼうね!」


 なんだか会話がぎこちない。この二人はとことん秘密を隠すのが下手だ。二人とも私と内通している事がバレないといいのだが。

 秘密がバレそうな時、有栖は詰まりながら喋り、ユウは声があからさまに大きくなる。今もそうである。

 しかし、二人は秘密を隠すのが下手な以上に鈍感でもある。そんなに心配しすぎる事もないだろう。


「これって、言わば、その、デッ、デートですね〜」

「そうだねデートだ……!デートか……」


 私は二人に「デートである事を言葉にして意識させろ」と告げてあった。

 もっと上手い告げ方があるだろと呆れる気持ちもあったが、指示に従えただけ上々だ。


「じゃあ、ちょっと早い、けど。もう行く?」

「そうですね!行きましょうか」


 普段もっと冗談を言い合うような仲だろう、もっと流暢に喋れるだろう。

 恋とは人の発話能力をここまで下げてしまうものなのか。面白い物だ。

 私は微笑ましい気持ちで二人の会話を聞いていた。

 ふと、なんで私は二人に着いて行ってこんな事をしているんだろうと我に返りそうになったが、その考えは払拭した。




 さて、最初に向かうのは有栖が前々から行きたがっていたカフェである。落ち着いた雰囲気で隠れ家感のある場所だ。

 待ち合わせ場所からは歩いてすぐだ。


 歩きながら話す二人。しばらく話しているうちに緊張も解けてきたのか、普段のような軽快な会話に戻ってきた。お互いの服を褒めあったりだとか、二人だけで出かけるのは久しぶりで嬉しいとか。会話はかなり順調だ。

 このままあのぎこちない会話だったらどうしようと思っていたので、安心。


「あのさ、有栖?」

「はい、どうしましたか?」

「人多いし、手、繋がない?」


 会話の最中、ユウが少し気まずそうに切り出す。

 ユウには、カフェ到着まで手を繋ぐよう指示を出してあった。普段からスキンシップのそこそこある二人だ。手を繋ぐくらい不可能では無いはずだ。


「は、はい!よろしく……お願い、いたします」


 まるで婚約指輪を受け取るように、差し出されたユウの手を取る有栖。口角が上がりそうなのを必死に抑えているが、ニマニマとした笑顔になってしまっており、逆に不自然だ。

 ユウは髪の隙間から見える耳が赤くなっている。ユウは照れると耳が赤くなるのだ。

 私はその様子を目を逸らさず見つめていた。人の恋愛を見るのも中々楽しいな。

 まだ手を繋いだだけだが、かなり大きな進歩である。




 そうこうしているうちにカフェに到着。少し早い時間だっただけに席は空いていてすぐに入る事ができた。流石に私も入店すると怪しまれるので、店外から観察。テラス席に座るようユウには事前に指示を出しておいたので、見張りやすい。

 有栖はトーストとレモンティーにプリン、ユウはナポリタンとカフェラテに加えチーズケーキを頼んだ。


 カフェでは間接キスを狙うよう、有栖には指示をしてあった。俗に言う「あーん」というやつをやらせたかった――のだが、トーストとプリンはちょっと間接キス向きじゃないのでは?

 急遽作戦変更。有栖と談笑中のユウにメッセージを送る。


――カフェにいるなら間接キスとか狙ってみては?


 ユウは私からのメッセージにすぐ気が付き、スマホを取り出し、急いでメッセージを打ち込む。


――やってみるわ


 さて、ここで私は気付く。

 デート中にスマホ見るのってあんまりマナー良くないんじゃないか?

 盲点だった。メッセージを使って随時指示を出していくためには、二人がスマホを確認する事が必要不可欠だ。

 今後は二人一緒にいる時にはこちらからメッセージを送らないようにしよう。


 着席して数分。有栖の頼んだトーストとカフェラテが運ばれてくる。


「ユウちゃん、先に頂いてもいいですか?」

「ん、もちろん」


 いただきます、と一言言った後に食べ始める有栖と、それを見つめるユウ。微笑ましい光景だ。

 と、ここで。有栖が何か気付いたようにスマホを取り出す。


「なに、有栖どしたの?」

「気にしないで、気にしないでくださいっ……」


 有栖からメッセージが送られてくる


――どうしましょう

――トーストだと

――あーんってできないのでは?

――プリンもちょっと危ないのでは?

――零しちゃうかも


 相当焦っているようだ。普段は伝えたい事は全てまとめて一個のメッセージで送ってくる有栖が、三つに分けてメッセージを送ってきたくらいだ。


――作戦変更ね

――ユウから食べ物貰うの狙おう


――なるほど!そうします!


 とりあえず一件落着、だろうか?


 ユウの食事も運ばれてきて、食べ始めた頃。


「あの、それ……」

「何、どうしたの?一口欲しい?」


 ユウが挑発するような笑みでそう返し、有栖がこくりと頷く。


「じゃ、あたしが食べさせてあげよっか?」

「えっ、あっ、はい!お願い、いたします……」


 さっきからユウが何かを提案する時、疑問形で言っている。

 素直に「あたしが食べさせてあげるね」とか「一口あげるね」とか言うのが恥ずかしいからって、有栖が断りやすいように、いや、断られてもダメージが小さいように、疑問形で冗談めかして言っているのだ。

 一見集合したばかりの時と比べると余裕そうに見えるユウだが、実際まだかなり緊張していそうだ。よく見ると耳もめっちゃ赤いし。


 ユウは僅かに震える手でフォークにナポリタンを巻き付ける。


「はい、あーん」

「あーん」


 震える手でゆっくりゆっくり有栖の口へフォークを運ぶ。

 ちょっと唇にソースが付くが、なんとか無事成功。


「……美味しい?」

「……美味しい、です、多分」


 ぎこちねぇ会話。会話として情報の交換が少なすぎる。


「あ、口元ちょっとソース付いてる。拭くね」

「ありがとうございます」


 紙ナプキンを取り、口元を優しく拭くユウ。有栖は目を瞑り、完全に身を任せている。

 こういうやりとりは普段からしているから特に緊張せず行えるようだ。こういうやりとりを普段からしているなら間接キスくらい難なくこなして欲しいものだが。


「なんだか今の、恋人同士みたいでしたね」

「……!そ、そうかも?」


 ああ私は何の指示もしていないのに有栖が勝手に最適なセリフを吐いている。

 もしかしてこれ、わざわざ私が着いてくる必要無かった?


 しばらくして、デザートが運ばれて来た。ユウがチーズケーキで有栖がプリン。


「わあ、さくらんぼ乗ってますね。美味しそうです」


 有栖が嬉しそうに食べ始めるのに対し、ユウはスマホを構える。自分の食べるチーズケーキを撮るためだった。

 スマホのレンズを目の前の皿に向けたところで――


「えいっ」


 有栖が身をかがめて顔を突っ込んできた。


「ちょ、有栖?!」

「せ、せっかくなら私の事も撮っていただきたいな〜、と、思いまして」


 オドオドしている割に、行動はだいぶ積極的だなぁ、と思う。

 私が指示を出さなくてもこういう行動ができるなら、私が着いてくる必要は無かったのでは?と一瞬思ってしまう。


 ユウは有栖の行動に心底「萌え」を感じたのか、口元を手で抑えながら何枚も写真を撮っていた。


「あ、ちょっと……撮っていただきたいとは言いましたけど……食べてる時は恥ずかしいのでやめてください!」

「えー、ごめんごめん、可愛くてつい」

「ユウちゃん……!」


 微笑ましい光景だ。やっぱ私いなくてもこいつら勝手にくっつくんじゃないか?というか、今のところ私の指示した行動よりも二人が素でやった行動の方がいい感じに作用してないか?




 ちなみに私の昼ご飯はコンビニで買ったあんぱんである。

 カフェの向かいのコンビニのイートインスペースで二人を見張りながら一人寂しく昼食。コンビニのパンって美味しいな。




 この後しばらく二人は楽しそうに話していたが、内容はいつもと変わりない当たり障りの無いものだった。最近ハマってる音楽がどうのとか、今度の文化祭の準備の話とか。

 こういつ他愛も無い会話もいいが、せっかくのデートだ。もっと刺激的な会話が欲しい。


 ユウがお手洗いで離席したタイミングで、有栖にメッセージを送ってみる。


――恋バナとかしてみては


――やってみます


 少しして、ユウが帰ってくる。


「ただいまー」

「おかえりなさい」

「でさっきの話の続きなんだけど――」


 少しの間、先程のような話が続く。


「って事になったの!」

「そんな事が……人間って怖いですね〜」


 話が一区切りついたタイミングで、有栖が切り出す。


「ところで、ユウちゃん。その、好きな人、とかって、いらっしゃいます?」

「えっ、あ、んーと……そうだな……」


 結構攻めた質問だが、答えにくいんじゃないだろうか?ユウの対応力が試されるところだ。


「え、もしいるって言ったら……?」

「嫌です」


 一言でばっさり切り捨てる有栖。軽く笑って受け流しつつもよく見ると耳は赤くなってるユウ。

 これは有栖が上手くやったな、そう思った矢先。


「でも、もし……その好きな人ってのが有栖だったら、嫌?」

「あっ……んと、それは……」

「何どうしたの詰まっちゃって〜。嫌?」

「嫌じゃ、ないです……」


 これはユウに一本取られたな。

 私はその様子をニタニタしながら見ていた。コンビニの前を通った人から窓ガラス越しに変な目で見られた。




 しばらくして、そろそろ出ようかという流れになった。

 次の目的地はカラオケだ。会計を済ませた二人を追い、私もコンビニを出た。

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