魔力ゼロで追放された第一王子ですが、魔界の瘴気を【エネルギー変換】して無敵の身体を手に入れました。人間界の軍隊? 指先一つで消し飛びますが何か?

@ikkyu33

廃棄された王子と、最強のエネルギー源



「レイン・アークライト。貴様を廃嫡(はいちゃく)とし、この国からの追放を命じる」


 豪奢な玉座の間。

 父である国王の言葉は、まるでゴミを捨てるかのように淡白だった。


「……理由は、やはり僕に『魔力』がないからでしょうか」

「問うまでもない! 魔力こそが王族の証、力の源泉であるこの国において、第一王子である貴様が魔力ゼロなど……王家の恥晒しにも程がある!」


 国王の怒声に、周囲の貴族や、弟である第二王子がニヤニヤと嘲笑を浮かべる。

 この世界では、魔力こそが絶対。

 剣を振るうにも、身体強化魔法が必要だ。生活するにも、魔道具を動かす魔力が要る。


 生まれつき体内に魔力を一切持たない俺は、彼らにとって「石ころ」以下の存在だった。


「慈悲だ。処刑にはせん。その代わり――『魔界』への門へ投げ込め」


 魔界。

 高濃度の『瘴気(しょうき)』が充満し、人間であれば呼吸をするだけで肺が焼け爛れ、数分で死に至る死の世界。

 そこへ送るということは、実質的な死刑宣告だった。


 俺は抵抗しなかった。

 いや、抵抗したところで、魔法を使える騎士たちに取り押さえられるだけだ。


(ああ、これで終わりか……)


 巨大な転移門の前へと引き立てられる。

 渦巻く闇の向こう側から、すでに強烈な腐臭と殺気が漏れ出していた。


「さようなら兄さん! 魔界の肥料としてせいぜい役に立ってくださいね!」


 弟の嘲る声が背中に刺さる。

 突き飛ばされるようにして、俺の体は闇の中へと飲み込まれた。


 ***


 転移の浮遊感が消えると、そこは紫色の空が広がる荒野だった。

 視界のすべてが淀んでいる。

 ここが魔界。

 大気中には、酸素よりも濃い『瘴気』が満ちていた。


 ――ズキリ、と。

 全身の細胞が粟立つ感覚がした。


(来るか……死の激痛が)


 俺は覚悟を決めて、目を閉じる。

 だが。


「……あれ?」


 痛くない。

 いや、それどころか。


 ドクン、ドクン、ドクン!


 心臓がかつてないほど力強く鼓動している。

 吸い込んだ瘴気が肺に入った瞬間、熱いエネルギーに変わり、血管を駆け巡っていくのがわかった。


 力が、溢れてくる。

 枯渇していた井戸に、奔流が注ぎ込まれたかのような全能感。


『グオオオオオオオッ!!』


 突如、地面が揺れた。

 見上げれば、体長二十メートルはある巨大な黒竜が、涎(よだれ)を垂らして俺を見下ろしている。

 魔界の生態系の頂点、エンシェント・ダークドラゴン。

 人間界の軍隊が束になっても勝てない伝説の怪物だ。


「人間……ウマソウ……」


 竜の巨大な顎(あぎと)が、俺を噛み砕こうと迫る。

 以前の俺なら、恐怖で動けなかっただろう。

 だが今は、不思議なほど冷静だった。

 スローモーションに見える竜の鼻先へ、俺は無造作に右手を伸ばし――


 ――パチン。


 軽く、指を弾いた(デコピンした)。


 ドォォォォォォォォォンッ!!


 衝撃波が炸裂した。

 ただのデコピンの風圧が、大砲のごとき威力となって竜の巨体を吹き飛ばす。

 竜は悲鳴を上げる暇もなく、遥か彼方の岩山へと激突し、山ごと粉々に砕け散った。


「……は?」


 自分の手を見る。

 魔力はない。魔法も使っていない。

 ただ、この空間に満ちる『瘴気』を吸えば吸うほど、俺の肉体は鋼鉄以上に硬く、竜をも凌駕するパワーを発揮していた。


 どうやら俺の身体は、魔力の代わりにこの毒(瘴気)を【エネルギー】に変換する特異体質だったらしい。

 人間界では毒がなさすぎて、ただのガス欠状態だったというわけか。


「なんだ。俺にとってここは地獄じゃなくて……」


 俺は紫色の空気を胸いっぱいに吸い込む。

 力が際限なく湧いてくる。


「……最高の楽園(ビュッフェ)じゃないか」


 第一王子レイン・アークライト。

 人間界から捨てられた俺は、こうして魔界という名の「餌場」を手に入れた。


 人間界の連中はまだ知らない。

 魔力ゼロと馬鹿にしていた男が、魔界最強の生物へと進化しつつあることを。

 そして、いずれその力が、世界そのものをひっくり返すことになる未来を。

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