【短編】祝福された関係
秋月一花
神殿に家出
伯爵家の令嬢といっても、使用人と変わらない――いや、使用人以下の扱いを、現在進行で受けている。
窓の掃除や廊下の掃除、階段の手すりを磨く……などなど。貴族の令嬢とは思えないほどの扱いだ。
「ちょっと、まだ終わらないの?」
「本当にノロマねぇ」
廊下を雑巾で拭いていると、義母と義妹から声が降ってきた。
「……申し訳ありません……」
「ちゃんと綺麗にするまで、食事は抜きよ」
義母の冷たい言葉に身を竦ませると、義妹が彼女の近くにあるバケツを蹴って水をひっくり返した。ビシャッ! と廊下に広がり、私の服にもかかり、濡れてしまった。
「ふふ、濡れネズミって感じでお似合いね」
「しっかり働きなさい。お前をこの家に置いてやっているんだから」
グッと拳を握りしめて、顔を上げると――義妹のドレスの胸元に見覚えのないブローチがつけられていた。その視線に気づいた彼女は、クスッと口の端を吊り上げ、蔑んだまなざしで見下ろす。
「あんたの母の形見、いい値段で売れたわぁ。そのお金で私を引き立てるブローチを買ったの」
「……ッ!」
立ち上がって部屋に向かおうとすると、髪を引っ張られて勢いよく廊下に倒れた。
「掃除が終わってないじゃない。ちゃんと働きなさいよ、お姉さま」
ひらひらと手を振って去っていく義妹と義母。
私はグッと唇を噛み締めて、涙を
――どうして、こんな扱いを受けないといけないの?
母が生きていたときは、伯爵令嬢として正式な扱いだった。
だが、母が病死してからすぐ、義母と義妹がこの伯爵家に来てから、すべての歯車が狂ってしまった。
ふたりはとことん、私をいじめ抜いた。使用人以下の扱いをして、他の使用人たちも私を邪魔者扱いするようになった。
父はそんな私を助けることもせず、ただ黙っていた。いない者のように扱われるのも、つらい。
――逃げよう。どこか、遠くへ。
母との思い出がたっぷりとある家だけれど、ここにはもう、私の居場所がないから。
私は水浸しになった廊下をそのままにして、天井裏の部屋へ向かい、濡れた服を脱いでボロボロの古着に袖を通し、荷物をまとめてこっそりと逃げ出した。
幼い頃、母からもらった大切なお金を隠していてよかった。
馬車に乗り込んで、私を保護してくれる場所――家族が手出しできないところ――へ向かった。
私が選んだのは、神殿だ。あそこなら、逃げ隠れる場所としてぴったりのはず。
馬車を乗り継いで三日ほど。ようやくたどり着いた神殿の門の前であまりの荘厳さに言葉を失っていたら、背後から声をかけられた。
「どうしました?」
「え?」
それが、私とあの人の出会いだった――。
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