第9話 ██大学教授の証言

 『死は解放』という概念・思想は、そう珍しいものではありませんよ。仏教の思想では、死は魂の解放、身体という器からの脱却、解脱、など肯定的に表現されます。人間にとって魂こそが本体であり、身体は魂を閉じ込める檻であると。

 ですから死とは本来、祝われるべき事なのかも知れません。魂が解放され真に自由になる。これほど喜ばしい事は無い、とも言える。そしてその魂の解放を自ら進んで行う者、すなわち『自殺者』とは真に勇敢な者である、と言えるかも知れませんね。

 ただ当然、世間一般的には死は恐ろしいものであり、自殺とは忌むべきものです。キリスト教において自殺者は地獄に落ちますし、仏教的にも命を無駄にした愚か者とみられる事もある。私もこちら側の考えを持った人間ですし、『死は良いこと』なんて考えはあってはならないと思います。

 ・・・・しかし、どちらか一方だけが正しいとも言い切れない。要は捉え方の問題です。日々を懸命に生き、生をめいいっぱい享受している人間にとっては死は恐ろしい。日々に絶望し生きる気力を失った者にとって死は救いとなるでしょう。


 でもやはり、『自殺したことを祝う』というのは、正気の沙汰とは思えませんね。人はどこまで狂えばその境地に至れるのか、多少興味はありますが。

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