第8話 加藤卓の遺書

 これが読まれていると言うことは、私を含め家族全員が死を選んだと言うことになる。この文章が読まれないことを切に願う。


 私はこれまで記者として、あらゆる事件を追い、あらゆる人々に取材してきた。取材をする上で理不尽に暴力を受けることもあった。謂れのない罵声を浴びることもあった。それでも私は世に真実を伝えるため、家族に誇れる正義の記者として働いてきた。私はあらゆる理不尽に立ち向かい正義を実現するために働いてきたのだ。


 しかし、私はその余計な正義感に突き動かされ関わってはいけないものと関わってしまった。私は彼女に目を付けられた。

 死は忌むべきものだ。死は避けるべきものだ。死は恐ろしいものだ。これまで色々な事件に触れる中で必ず死にも向き合ってきた。向き合ってきた死のほとんどが殺人や事故など、避けようのない理不尽だった。でもその中で、避けようと思えば避けれた死が在った。『自殺』だ。

 私は『自殺』というものが理解できなかった。何故授かった命を自ら無駄にするのか。この世には生きたくとも生きられない人々がたくさん居るというのに。何故些細な事で簡単に命を投げ出してしまうのか。

 私は自殺という選択を選ぶ者を軽蔑する。そのようなことをしていいわけが無い。するはずがない。

 でも、あの女と出会って。あの女の戯言に触れる内に、私の考えは変わりつつある。

 人間は皆、日々を懸命に生きている。必死にもがいている。

 数多くの選択肢に囲まれ、失敗しないように、間違えないように怯えながら生きている。

 なんて窮屈だろう。なんて愚かだろう。

 そんな日々から解放されたいと願うのは当たり前のことではないか。

 解放されるために『自殺』を選ぶその勇気と行動力は、賞賛されるべきではないか。

 死とは解放である。死に直面するとき、私たちは悲しむのではなく祝わなければ。解放されることを喜ばなければ。

 どうかこの文章を読む者が、鬱屈したこの世から解放されることを切に願う。



















 ちがう

 そんなことをかきたいわけじゃなかった

 ちがう しにたくない

 どうか かぞくが無事でありますように

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