第51話 新たな魔法

 隠密魔法の内側は、妙に静かだった


 最深ダンジョンの草原は、本来なら常に何かしらが動いている

 風に揺れる草、遠くを歩く巨大な影、聞き慣れない咆哮

 だが、それらすべてが薄い膜一枚隔てただけで、まるで別世界の出来事のように感じられる


 この静けさを、無駄にするつもりはなかった


 俺は立ち上がり、指先に意識を集中させる


 敵に確実に致命傷を与える手段


 派手さはいらない

 範囲も不要だ

 必要なのは、威力


 高耐久、高防御

 そういう相手に対して、余計な工程を挟まず、結果だけを叩き込める魔法


 魔力を練る

 圧縮する

 限界まで、細く、鋭く


 最初はうまくいかなかった


 魔力が散る

 形が保てない

 圧縮した瞬間に暴れて、制御を失う


 指先がじんと痺れた

 魔力の反発だ


 深呼吸して、もう一度


 魔力弾とは根本的に考え方が違う

 弾は安定性を重視する。多少雑でも形になる

 だがこれは違う


 ほんのわずかな歪みで、すべてが破綻する

 だからこそ、指先でしか扱えない


 意識を一点に集める

 圧縮した魔力を、針状に固定する


 長さは最小限

 太さは限界まで削る


 集中を維持しながら、魔力の密度をさらに高める


 物体に入り込んだ瞬間、圧縮していた魔力が解放される

 貫通してから、内部で弾ける


 イメージを何度も反芻する

 曖昧な部分を削り、余計な要素を排除する


 指先が熱を持ち始めた

 魔力が、針の形を維持したまま震えている


 複数展開は無理だ

 一発にすべてを込める


 俺はゆっくりと腕を上げ、隠密魔法の外を確認した


 少し離れた場所を、全身棘だらけの牛型モンスターが歩いている

 こちらには気づいていない

 単体だ


 試すには、ちょうどいい


 隠密魔法を確認する

 いつでも逃げられるように体勢を整える


 指先を向ける

 狙いは胴体中央


 感覚が研ぎ澄まされる

 世界が、そこだけ切り取られたように静まった


 発射


 反動はほとんどない

 音もない


 針は一瞬で距離を消し、牛の体に吸い込まれるように消えた


 次の瞬間だった


 内部から、爆ぜるような衝撃


 牛型モンスターの体が、内側から持ち上げられるように歪み、遅れて崩れ落ちた

 棘が力なく地面に散らばる


 ……強い


 思わず、指先を見る


 十分すぎる威力だ


 だが、同時に欠点もはっきりした


 制御が難しいく、生成に集中力を要するため指先限定


 魔力弾のように、ばら撒くことはできない

 多重発動も無理


 それでも、これは必要な魔法だ


 一撃で終わらせる

 それができる手札があるかどうかで、生存率は大きく変わる


 俺はもう一度、魔力を練り直した


 同じ工程を繰り返す

 失敗しかけるたびに、微調整を入れる


 圧縮率

 形状の安定

 発射のタイミング


 数をこなすうちに、感覚が掴めてきた

 まだ安定とは言えないが、少なくとも再現性はある


 指先でしか扱えないという制約も、逆に言えば分かりやすい


 俺は小さく息を吐いた


 これで一つ、足りないものは埋まった


 すべてが解決したわけじゃない

 状況を有利にする手段も、攻撃の手数も、まだ課題は残っている


 だが、前に進んでいる感覚は確かにあった


 このダンジョンは、相変わらずこちらを試してくる

 だが、ただ逃げ回るだけの場所じゃない


 学び、適応し、生き残る

 それができるなら、ここは最高の訓練場だ


 俺は隠密魔法を維持したまま、指先の感覚を確かめ続けた

 次に戦うとき、この魔法が必要になる場面は、きっと来る


 そのとき、迷いなく使えるように







本作を読んでいただきありがとうございます!


 勢いで描き始めた作品なので話の矛盾点や誤字脱字などがあったら教えていただけると嬉しいです。


 そして少しでも面白いと思って頂けたら、作者の励みになりますので♡や⭐︎、感想などよろしくお願いいたします!!

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