第50話 休憩
限界だった
全力で逃げ切った直後、足を止めた瞬間に、体のあちこちが一斉に主張を始めた
筋肉が張り付き、関節が重く、呼吸はまだ落ち着かない
意識が少しでも緩めば、そのまま地面に倒れ込みそうだった
俺はその場で座り込むことはせず、まず隠密魔法を張った
存在感を薄くし、音も魔力の揺らぎも抑え込む
念入りに重ねる
少しのミスが命取りになる
完全に隠れたと判断してから、ようやく草の上に身を預けた
背中からローブ越しに伝わる地面の感触が、やけに現実的だった
生きている
今は、それだけでいい
呼吸を整えながら、頭を切り替える
休憩だ
ただし、ただの休憩じゃない
目を閉じると、さっきの戦闘が嫌でも蘇る
一方的に押し込まれた感覚
攻撃が届かず、こちらの手札が読まれているような感触
負けたわけじゃない
だが、勝ったとも言えない
あの全身棘だらけの牛型モンスター
あれは単体でも厄介だった
群れで来られていたら、間違いなくやられていた
原因ははっきりしている
まず一つ
敵に確実に致命傷を与える手段が不足している
魔力弾は便利だ
調整も効くし、手数も出せる
魔力刃も殺傷力は高い
荒天は俺の切り札だ
だが、どれも決定力に欠けた
相手が高耐久だった場合
あるいは、防御と回避に特化していた場合
削り続ける戦いは、結局こちらの消耗が先に来る
一撃で終わらせる
そういう選択肢が、今の俺には少ない
次に、状況を有利にする手段
さっきの戦いでは完全に相手の流れに押し流された
地形、視界、距離
それらを自分に都合のいい形に変える力が足りない
ただ強い攻撃を撃つだけでは、ここでは通用しない
場を支配する力が必要だ
そして、最後
攻撃の手数
多重発動や速射は得意だ
だが、同時に処理できる数には限界がある
一体に集中すれば、他が動く
群れ相手では、それが致命的になる
考えながら、無意識に手を握りしめていた。
足りないものは分かった
問題は、それをどう埋めるかだ
ここで焦っても意味はない
だからこそ、休む
時間の感覚が曖昧になるまで、ただ呼吸を続けた
隠密魔法は維持したまま
周囲の気配に神経を尖らせつつ、体を回復させる
少しずつ、重さが抜けていく
脚の震えが収まり、視界の揺れも消える
まだ万全とは言えないが、動ける
俺は立ち上がり、装備の確認を始めた
仮面にヒビはない
他の装備も汚れてはいるが、機能に問題はなさそうだ
次に、体
肩に受けた一撃
魔力鎧が間に合わなかった箇所だが打撲以外は特に問題はない
ふくらはぎの痛みも、筋肉疲労の域を出ていない
魔力で内臓を確認
問題なし
魔力制御も、さっきよりは安定している
問題ない
少なくとも、ここで動けなくなる状態じゃない
なら、やることは一つだ
ここまで来て、何も得ずに引き返すつもりはない
むしろ、今だからこそだ
最深で通用しないなら、通用するようにする
その場しのぎじゃなく、次につながる形で
俺は再び腰を下ろし、意識を内側へ向けた
魔法の具体像は、まだ曖昧でいい
形にするのは後だ
今は、方向性だけを固める
どうすれば、確実に終わらせられるか
どうすれば、流れを握れるか
どうすれば、数で押されても押し返せるか
考える
ひたすら考える
この場所は危険だ
だが同時に、俺に足りないものをくれる
ダンジョンは嘘を許さない
だからこそ、ここで身につける価値がある
隠密魔法の内側で、俺は静かに魔法の習得に入った
次に動くときは、さっきよりも確実に前に進むために
本作を読んでいただきありがとうございます!
勢いで描き始めた作品なので話の矛盾点や誤字脱字などがあったら教えていただけると嬉しいです。
そして少しでも面白いと思って頂けたら、作者の励みになりますので♡や⭐︎、感想などよろしくお願いいたします!!
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