第3話 私が一番近くにいる
翌朝。
教室に入った瞬間、翔は足を止めた。
自分の周りに、人だかりができていた。
いままでとは違い、翔の髪は短く整えられている。
「え、誰?」
数人の女子が困惑の声を上げる。
「……白銀君?」
紅月さんが目を見開いた。
「え、何か変?」
「……前と、全然ちがう」
誰かが、ぽつりと呟いた。
その時、クラスメイトは翔自身では気づけないような変化を、確かに感じていた。
紅月さんが無言で手首を掴んできた。
「どうしたの?」
翔は、いつもと違う紅月さんの沈黙に、理由の分からない胸騒ぎを覚えた。
「……いや、なんでもない、」
そう言い残して自分の席に戻っていった。
「あれ本当に白銀くんなの?」
「なんか……白銀君カッコよくない?」
教室中の女子がヒソヒソと話している。
そんな中、紅月さんだけは無言でこちらに視線を送ってくる。
「……ねぇ白銀君、今日の放課後開いてない?」
一つのグループが興奮と期待のこもった声で聞いてきた。
(……こほん)
紅月さんが小さく咳払いをした。
ふと気づいて紅月さんの方を見ると今までにないほど冷たい視線で、こちらを見つめていた。
「最近、放課後は忙しいんだ……」
少し声を上擦らせながら断る。
席に戻ると、
「……ちゃんと、断れるんだ」
紅月さんはそう呟いた。
♦︎♦︎♦︎
放課のチャイムが鳴った。
クラスのざわつきの中、翔は席を立つタイミングを失っていた。
昼のことが、まだ頭から離れない。
「……白銀さん」
名前を呼ばれ、ぴくりと肩が跳ねた。
紅月さんの方を見ると、
「帰る」
その一言だけを残して踵をかえす。
「え、あ……」
反射的に声を出すと、紅月さんは立ち止まり、
「早く」
また一言だけ言って立ち去った。
短い言葉だが、不思議と伝えたいことはわかった。
当然、逆らうという選択肢は残されていなかった。
♦︎♦︎♦︎
⦅紅月蓮視点⦆
――またこの感覚だ。
胸が締め付けられるような、息が詰まるような苦しさ。
彼が奪われてしまうのではないか、と。無意識に焦りを感じてしまう。
ーーちがう
私は血が欲しいだけ。
こんなのただの副作用。
――全部、血のせいだ
♦︎♦︎♦︎
⦅白銀翔視点⦆
僕は紅月さんの後を走って追いかけた。
「紅月さんっ!!」
僕は追いつくなり、謝った。
「遅くなってごめん」
「ふんっ」
紅月さんは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
ぽすっ
気づかぬうちに右手を彼女の頭に乗せてしまった。
「……っ!なによ、きゅ、急に」
紅月さんは全身の血が顔に集まっているんじゃないかと疑うほど顔を赤らめた。
「……人前で、そういうことしないでっ」
正直、息を荒げながらそう言う姿はとても魅力的にみえた。
少しの沈黙のあと、
「君の血は、私にとって特別なの」
紅月さんはそう告げた。
「だから、私が面倒を見るし、私が一番近くにいる。」
本当に僕を、僕の血を必要としていることは感じることができた。
「何がここまで紅月さんを執着させるの?」
僕はそう聞いた。
「わからない。でも、そんなことどうでもいいでしょ?」
そんな曖昧な答えが返ってきた。
歩くうちに別れ道に差し掛かった。
どうやら彼女とはここでお別れだそうだ。
別れ際、突然後ろから抱きつかれた。
――また血を吸われるのか
既に唇は首筋に触れていた。
しかし、今日は吸われることはなかった。
代わりに、彼女は少し息を吸って、
「……また明日」
紅月さんは耳元でそう呟いて別の道へ進んだ。
その瞬間、僕の顔はきっと真っ赤だっただろう。
首元が、いつまでも熱を持っている気がした。
♦︎♦︎♦︎
⦅紅月蓮視点⦆
――なんであんなことしたんだろ
紅月蓮は後になってとても後悔していた。
思い出すたびに顔が熱くなる。
――これは血のため……
そう自分に言い聞かせることでしか落ち着くことができなかった。
まだ、彼女はその感情の名前を知らない。
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