目を負傷したらバグって魔眼が開眼した上に、それを120%使いこなせる天賦の才が眠っていた件

黒井カラス

第1話 魔術師


「お。今日、満月じゃん」


 缶ジュースをぐいっと飲んだ拍子に、上向いた視線が満月に刺さった。


 街が明るいと夜の明るさもわからなくなっちまうのは風情がないよな。


「おい、情報が入ったぞ。新種だとよ」


 ちらっと視線を下げて、スマホの画面を盗み見る。


「新種? へぇ、珍しい。人狼の類いだったりして」

「さぁな。割と近い。すでに別のが駆除に向かったらしいが応援にいくか?」

「要請があったらな。勝手に行ってみろ、後で手柄横取りされたーって文句言われちゃ敵わん」

「だな。食い足りねぇ。追加でなんか買うか。夏目なつめ、お前は?」

「俺はいい。ありがとさん」


 立ち上がってもう一回コンビニに入ってく獅子堂ししどうを横目に白い息を吐く。


 輪留めに腰掛けてこうしてる時間が一番平和だなぁ。


「夏目! 新種がこっち来てるってよ!」


 平和な時間終わり。


 缶ジュースを飲み干した。


「うっし、行くか。向こうからこっちに来たんだ。手柄どうとは言わせないからな!」


 二人して駐車場から飛び出る。


「どっち?」

「あっちだ。ついてこい」


 アスファルトから跳ね上がって獅子堂の姿が満月と重なる。そこを頂点にして重力に引かれ、屋根の上に着地を決めた。


「いいね、最短ルート」


 準備運動も兼ねて跳んだあとに体を捻って無駄に回転しながら屋根に着地。


 体が多少解れたところで屋根から屋根へと飛び移りながら移動を開始した。


「新種の詳細は?」

「さぁな。詳しいことはなにも――ってか、ちったぁ自分で調べろよ。いっつも俺が調べてんじゃねぇか」

「まぁまぁ」

「まぁまぁじゃねぇ! あ、行き過ぎたじゃねぇか!」

「ちょっとナビくんしっかりして」

「誰がナビくんだ、どつくぞ! あっちだ! すぐ近く!」


 指差したほうの屋根に跳ぶと、そこから見下ろした景色にそれらしいのを見た。


 人気のない道路のど真ん中、街灯に照らされたあれは、なんだ?


「よう、あれってなんに見える?」

「あ? なにって……ありゃなんだ?」

「新種ってのは聞いてたけど……」


 そこにいる、あるのは白い球体だ。


 丸まった猫とかハムスターの比喩表現じゃない。


 本当に白い球体が浮いている。


 魔術師を初めてからこれまで見て来たどの妖魔とも違う。


 あまりに無機質で、あまりに異質。この世のものとは思えない。


「周りに魔術師がいねぇな。死んだか」

「だとしたら傷の一つ、返り血一つないのが気になる」

「慎重にやったほうが良さそうだな。応援を呼ぶか?」

「あぁ、そうしてくれ。でも、それが到着するのを待ってる時間はなさそうだ」


 白い球体が動き出した。


 奴をこの場から動かすのは危険だ。いつ一般人に遭遇するかわからない。


 やるしかないんだけど、あまりにも情報がなさ過ぎる。


「新種の情報が来た時に向かっとけばよかったかな」


 そしたら奴と魔術師が戦っている場面に遭遇できたかも知れない。


 今更言ってもしようがないことだけど。


「俺が先に行ってくる。奴を観察しててくれ」

「しようがねぇ。骨は拾ってやる、行ってこい」

「俺が死んだら後は頼んだ」


 屋根から飛び降りて白い球体の前に着地する。


 立ち上がって奴を見据えると、街灯に照らされたその姿が脈打つ。


 仕掛けてくるのかと思ったが、どうもそんな感じじゃない。


 水面に波紋が幾つも走るみたいに、白い球体が揺れ動く。


 それは次第に丸い輪郭を崩して、別の形を作り始めた。


「人型に……」


 もはや球体の名残はなくて、そこには真っ白な人型の妖魔が立っていた。


「いいのか? その格好だとお前の名前は全身タイツマンになるけど」


 目も耳も口もないがこっちの煽りが聞こえたのか奴が動く。


 恐ろしく規則正しいフォームで道路を駆け、瞬く間に距離が埋まる。


 伸ばされた指先が俺の目に触れる直前、身をかがめて回避。


 折り曲げた足をバネに跳ねるように奴の側をくぐり、腰に差した鞘から引き抜いた刀を抜刀する。


 すれ違い様、閃いた剣閃が奴の胴体を深く斬り裂いた。


「なんだ楽勝――でもないか」


 振り返って確認した奴の姿は、通常の妖魔なら死んでなきゃ可笑しい状態だった。


 脇腹からぱっくり割れて上半身があり得ない角度まで傾いてる。


 その状態のまま奴がこちらに振り向くと、角度が次第に正常に戻り、斬り裂いた箇所もぴったりと吸い付いて消えた。


 血の一滴も出てない。


 人の形をしたスライムでも斬った気分だ。


 参ったな、俺が知りうる限りどの妖魔とも類似点がない。


「こいつ本当に妖魔か?」


 まったく別のなにかを相手しているように思えてならない。


 とにかく剣撃や打撃じゃダメージにならないみたいだ。


 となると、魔術を試してみるしか――


「な、なにあれ!?」


 不意に聞こえたのは、この場にそぐわない者の声。


 一般人。


「不味っ――」


 一瞬だった。


 一瞬だけそちらに気を取られ、その刹那に差し込まれた。


 鞭のように伸びた腕が、その鋭利な先端が、俺の両眼を掠めて過ぎる。


 痛みと共に、視界が闇に包まれた。


「目がッ!?」


 見えない。なにも。


 いくら瞬きしても、血だけが目から流れていく。


 チクショウ。終わりだ。


「獅子堂、後は頼んだ」


 何かが風を斬る音がして、同時に胴体に強い衝撃が走る。


 そいつに吹き飛ばされて地面を転がった挙げ句、壁か何かに背中から激突した。


「げほッ……あぁー……いってぇ……仕留め損ないやがって」


 あの瞬間、完全に無防備だった俺がまだ生きてる。


 刺すでも斬るでもなく殴りつけて来やがった、あの野郎。


 前者のどっちかにしとけば俺を仕留められたってのに、お陰で痛みが続いちまう。


 生き残ったって目をやられちゃ魔術師としちゃ終わりだ。


「あーあ……しんど」


 この先のことを思うとどっと疲れが込み上げてくる。


 抗えないそいつに飲み込まれて、とうとう意識が沈んできやがった。


 このまま死ねりゃ楽なんだが。


「派手にやられたようだな」


 誰か立ってやがる。そんな気配がする。


 応援到着か。


 まだ死ねそうにないな、こりゃ。


 後方支援くらいならまだできっかな。


 そんなことを考えながら、俺は意識を手放した。



――――――――



良ければ☆やフォローで応援いただけると途轍もなく励みになりますので、よろしくお願いします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る