第3話 戦場のファッションショー
今回のカイとアイリとミラの巡回は、
S7の外壁からそれほど離れない地点が選ばれていた。
ミラの初めての巡回参加になるので様子を見るためだ。
また、不測の事態に備えて、僧侶部隊など他の部隊にもすぐに応援要請できる部隊配置になっている。
進行方向には、S7と外部をつないでいた古い道路が続いている。
ソルゾンビが蔓延する前に敷設されたもので、
補修は長く行われていないが、路盤自体はまだ残っていた。
両脇には、低く崩れた防護柵と、用途を失った標識の支柱が並ぶ。
舗装は割れ、ところどころ砂に埋もれている。
それでも、何もない荒地を直接歩くよりは足場が安定していた。
先頭を行くのはカイで、その少し後ろをアイリとミラが並ぶ。
目的地につく少し前、ミラがアイリに声をかけた。
「その尻尾、ふさふさしててかわいいわね。ちょっともらってもいいかしら」
「いいよ」
そう言って、アイリは自分の尻尾から数本の毛を抜き取った。
それを指に挟み、振り返って差し出す。
「これくらい?」
ミラは歩みを止め、差し出された毛を受け取った。
「ありがとう。素敵な毛ね。後で、お礼はするわね」
「ほんと?」
「ええ」
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道路はまだ続いていたが、やがてカイが足を止めた。
道路脇には、窓や扉、フロントガラスを失った車が何台も残されている。
ただ、ほとんどの車にはそれ以外の部分に大きな破損はなく、
手を入れれば動きそうなものも混じっていた。
「ここが今回のポイントだ。
事前情報では、ソルゾンビはこの付近に6体いるそうだ」
「ここでやるのはカーチェイス?」
ミラの声には、ほんの少しだけ楽しげな響きが混じっていた。
「ソルゾンビは車を運転しない」
カイは事実を答えた。
カイはその場で被服を外し、褐色の皮膚をさらけ出した。
着ていた上着、下着、靴、すべてをきれいに整頓するとアイリに渡した。
「あら、レディーの前で大胆ね」
「君も人間ではないだろう」
「レディーとは、アイリのことよ」
「彼女も人間ではないが、生物で性別がある。確かにその通りだ」
「ん?どうしたの」
アイリは声をかけたが、
カイとミラとのやり取りの内容は気にしていないようだった。
「戦闘準備シーケンスを続行する」
カイは両手を首の付け根にかける。
接続が外れ、頭部が胴体から分離された。
アイリはカイから頭部パーツを受け取り、鞄に収めた。
最後にカイの胴体の首の位置から、棒状の代理センサーが展開された。
カイの戦闘準備は整った。
「ちょっと試したいことができたわ。カイが裸になっていいなら、私もいいわよね」
ミラは腰に掛けていたエプロンの紐に手をかけた。
結び目をほどき、外す。
体を覆うものがなくなり、ミラの白い肌があらわになった。
「これ、着てみる?」
ミラはエプロンをアイリに差し出した。
「え? いいの?」
「ええ」
アイリは受け取ったエプロンを身につけた。
ミラには少し小さかったエプロンだが、アイリの体にちょうど合っている。
「やっぱりね。もう一つ試してみましょう」
ミラはつづけて質問をした。
「アイリは、どんな服が着たい?」
「えっと……かわいいワンピース!」
「そのリクエストは困るわ。
あなた自身がかわいいから、あなたが着るワンピースは、
全部かわいいになっちゃうもの」
「じゃあ……白くて、ふわっとしてて、後ろでリボン結ぶやつ!」
「わかったわ」
光が重なり、エプロンの上から衣装が投影される。
布のように見える光が揺れ、裾がふわりと動いた。
縁がきらめき、エプロンはアイリのリクエストに忠実なワンピースで隠された。
「すごい!かわいい!」
「さっきのお礼よ。ふふ、よかったわ」
ミラはカイの方を見る。
「あら?あなたも……」
カイは頭部を外しているのでしゃべることはできない。
だが、肩の動きで、ミラに肯定の答えをしているようだった。
「やはり、出力効率が良くなっているわね。カイも私も」
カイは戦闘態勢のままソルゾンビのいる方向へと進んだ。
ミラは、カイの背後に立ったまま、足を止めていた。
その場にある反応を数えている。
「9体いるわね」
「え? 予定では6って……」
「とりあえず、普通に対応していいわ」
カイも同じ数を数えているようだった。カイは戦闘を開始する。
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[00:00:00.00][Setting]特化ログ目的:戦闘
[00:00:00.00][Setting]対象:ソルゾンビ6体 個体識別番号付与
[00:00:00.00][Setting]対象:人間3体 個体識別番号付与
[00:00:00.08][Strategy]人間個体への危害行為を禁止。人間からの遠距離攻撃は想定。ソルゾンビの消滅を優先。ソルゾンビは通常打撃攻撃で胸部貫通を主たる消滅手段とする
[00:00:01.21][Result]ソルゾンビ_02 消滅(光崩)
[00:00:01.39][Result]ソルゾンビ_05 消滅(光崩)
[00:00:04.36][Result]ソルゾンビ_01 消滅(光崩)
[00:00:05.69][Result]ソルゾンビ_04 消滅(光崩)
[00:00:07.15][Result]ソルゾンビ_06 消滅(光崩)
[00:00:08.67][Result]ソルゾンビ_03 消滅(光崩)
[00:00:08.68][Strategy]人間捕獲。人間個体への危害行為禁止は継続
[00:00:10.00][Info]ソルゾンビ残数 0/6
[00:00:10.00][Info]人間残数 3/3
________________________________________
「全部終わった?」
アイリが、周囲を見回しながら言った。
ミラは短く答える。
「ええ。ソルゾンビはね」
その直後だった。
銃声のものが聞こえた。
カイからかなり離れた位置で、人影が大きく揺れた。
その人影は、カイそっくりだった。
銃弾のようなものは人影をすり抜けて飛んでいったようだ。
人影を見たアイリが息を呑む。
「……え? あれ、カイに似てるけど、カイじゃない」
「さすがにアイリは騙せないみたいね」
カイは音のした方向に走り出した。
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[00:00:34.01][Sound]人間_01 「ひっ、ひえっ」
[00:00:38.32][Action]捕獲 人間_01 怪我なし
[00:00:39.00][Info]逃走 人間2体
[00:00:40.00][ Info]ソルゾンビ残数 0/6
[00:00:40.00][ Info]人間残数 0/3(逃走含む)
[00:00:40.00][Strategy]自機に人間処分権限なし。最短で対応可能な人間への連絡
[00:00:41.03][Call]リヒャルト・ヨウテイ宛
「カイだ。人間一名を捕獲したので対応頼む」
[00:00:51.81][Call]リヒャルト・ヨウテイ「了解。すぐ行く」
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ほどなくして、カイは一人の人間を連れて戻ってきた。
「人間が相手のときは、どうするの?」
ミラの質問に、アイリは答えた。
「えっと、カイが相手しちゃだめ。近くのノクティルスモンクの人を呼ぶの」
「じゃあ、連絡……するまでもないようね」
砂利を踏む音が近づき、僧侶装束の男が駆けつけてきた。
リヒャルト・ヨウテイ。
ノクティルスモンク高位僧で、ソルゾンビ対策僧侶部隊の一員だった。
状況を一目見て、彼は足を止める。
視線がカイに向き、次にミラへ移った。
「……ちょっと君。なぜ裸なんだ」
ミラは、特に気にした様子もなく答える。
「カイが裸で問題ないなら、私もそうするわ」
リヒャルトは一瞬言葉に詰まり、カイを見る。
「いや、彼はロボットだから問題ない。
君は……女性型ロボットなのか?」
「ふふ」
ミラは小さく笑った。
「私はロボットでも、人間でも、バイオノイドでもないわ」
リヒャルトは返す言葉を探したが、すぐには見つからなかった。
視線を逸らし、短く言う。
「……ここから先は我々の担当だ」
場を切り替えるように続ける。
「カイも、アイリも下がっていい。もちろん、君もだ」
「あの人、何者?」
ミラの質問にリヒャルトは即答する。
「分からないし、知っていても答えない」
「わかったわ」
ミラはそれ以上、追及しなかった。
リヒャルトの視線が、アイリの服装に留まる。
「あれ? アイリ、そんな服装だったか?」
「これ、ミラが作ってくれたの」
「……似合ってはいるが、戦闘中にファッションショーか?」
「ええ、そうよ。アイリはいつでもかわいいから」
ミラは当然のことであるように答えた。
「まあ、それは否定しないが……
それなら君も参加した方がよかったんじゃないか?」
「そうね。思いつかなかったわ。次はそうしようかしら」
リヒャルトは、それ以上突っ込まず、人間を連行していった。
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S7入口に戻ってきたカイとアイリとミラ。コロニーS7にはすぐには入れない。
ソルゾンビによる感染拡大を防ぐため、一度検疫ゾーンを経由する。
検疫ゾーンを抜け、カイたちはソルゾンビ対策局へと続く入り口の前に立った。
「おかえりなさい」
エリナが端末を操作しながら言った。
「カイ、今回の戦闘。平均的な戦闘時間より短いわ」
「確かに効率が上がった」
カイは答えた。
「それはミラも同じのようだ。彼女が何かしたようだ」
カイの答えを聞いて、エリナはミラに尋ねた。
「ミラ。何かした?」
「ええ。アイリのファッションショーよ」
「え?」
戦闘中にありえない行動の回答に、エリナは一瞬理解が追い付かなかった。
しかし、かわいらしいエプロン姿のアイリを見て、
もしかしたら、という質問をした。
「ひょっとして、アイリの生体エネルギーを使った?
理論上あのエプロンなら取得可能だけど、
現実的にできると思っていなかったわ」
「使ったというのは正確ではないわ。
あふれているエネルギーをもらったから彼女の何かを奪ったわけじゃない。
それに、単にエネルギーをもらっただけじゃないわ。
エネルギー効率が飛躍的に上がったの」
「だから自分から離れたところに蜃気楼を発生させることができたのね。
あなた単体じゃ、そこまでの出力は出せないはず」
「そうね。
試してみたらこんなにうまくいくとは思わなかったわ。それに・・・」
アイリを見た。
「アイリが喜んでくれたのが何よりだわ。
彼女が喜ぶと出力と効率が上がるけど、それは些細な問題ね」
「いや、出力と効率の方が大事だと思うけど・・・」
エリナはそう突っ込んだが、ミラはこう答えた。
「そんなのはアイリの可愛さと比べるとどうでもいいわ」
それを聞いて、アイリは喜んだ。
「うん、ありがとう!ミラも衣装変えるときれいだと思う」
「そうね。リヒャルトの提案、悪くないかもね」
裸だったミラは、姿を変えて、アイリより少し大人っぽいワンピース姿に変わった。
「やっぱり、ミラも素敵!」
そう喜ぶアイリ。
エリナはタブレットを見て驚いた。
「・・・確かに今、出力と効率が上がった
・・・アイリが喜んだ時の出力向上が、
レンダリングによるリソース消費を上回っている・・・」
エリナの分析を気にすることなく、アイリとミラはその場でいくつかポーズを取り、軽く踊っていた。
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